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通訳のテクニック

先日「ウクライナ・ゼレンスキー大統領による国会演説での同時通訳について」と言う記事を本ブログに掲載、同時通訳の仕事について少し紹介しました。今回は、より通訳のテクニックや仕事の内容がわかる動画を紹介。また4月23日に開催される日本翻訳者協会のオンラインイベントについてもご紹介します。

通訳の仕事に
ついての動画

ご紹介するのは、アメリカ、日本、イギリス、イタリア、中東、韓国で発行され、テクノロジーやビジネス、カルチャー、ライフスタイルなど幅広い分野を、オンラインメディアや雑誌等で紹介するWIREDのYouTubeチャンネルからの動画です。

この動画では、通訳のテクニックや仕事内容の一端を紹介。この動画を見ると「言語を話す」事と「通訳が出来る」ことの違いがお分かりいただけるのではないかと思います。

2 Interpreters Test
Their Interpreting Skills

動画は英語になりますが、映像もあるのでわかりやすいと思います。最初の動画は英語とスペイン語の通訳の腕試しについてです。

男性通訳:Barry Slaughter Olsen は、録音されたドンドン話すスピードが早くなる会議の内容を、同時通訳で訳します。早くなるほど情報量が増えますが、Barry はそれをどの様に同時通訳するでしょうか?

一方、女性通訳:Katty Kauffman はテキストメッセージでの会話を、リアルタイムで翻訳することができるか?に挑戦しています。

因みにBarry Slaughter Olsen(男性通訳) は、AIIC (国際会議通訳者連盟)のメンバーであり、多くの通訳者を輩出しているMiddlebury (ミドルベリー)国際大学院の翻訳・通訳の教授です。

女性通訳者のKatty Kauffmanは法廷通訳などが専門の通訳者で、彼女も AIIC のメンバーです。

Interpreter Breaks Down

続くこちらの動画では Barry Slaughter Olsen が、政府高官の会議における通訳者の仕事について、様々な事例を交えながら紹介しています。

最初は consecutive interpretation=逐次通訳について紹介しています。逐次通訳とは、話者が話し終わってから訳す通訳方法です。

ここでは逐次通訳の際に、通訳が話者の話した内容を書き留めるメモについて紹介しています。それぞれの逐次通訳者によって、メモの取り方が違うのは大変興味深いですね。

続いて simultaneous interpreting=同時通訳について動画では紹介しています。

複数言語に訳される様な会議や聴衆が沢山いる会議では、通訳者は専用のブースに入って同時通訳を行い、参加者はヘッドフォンにてその訳を聞く事が多いです。それはオンライン会議でも同様です。

しかし、この動画では参加者を絞った政府高官の会議を想定している為「chuchotage / ウィスパリング通訳」と言うスタイルでの同時通訳を紹介しています。

この方法の場合は通訳者はブースではなく、通訳を必要とする人の近くに居て、話者の話の内容を「ささやく」程度の声で訳します。※仏語でささやく= chuchoter の名詞形が chuchotage

因みにこの様な会議の事を英語では closed door meeting, bilateral meeting と言います。参加する必要がある者のみが参加するミーティングの事で、普通は上席、企業等ではトップのみが参加する会議の事を指します。

また動画では décalage (=仏語で(位置や時間の)ずれ、間隔を意味する言葉)についても説明、話者が話し始めてから、どれくらいのタイミングで通訳者が同時通訳を始めるのが良いか?を紹介しています。

同時通訳では、話者の話を聞きながら訳すので非常に集中力を要します。その為 通訳者にかかる負担が大きく、最大でも30分で他の通訳者に交代します。これは訳のクオリティを保つためにも必要な事です。

動画では2009年9月 国連総会でカダフィ大佐が行った96分にも及ぶ演説で、同時通訳者がギブアップしてしまったエピソードを紹介しています。

「もう耐えられない!」、カダフィ大佐の長い演説に通訳ギブアップ
(AFP 2009年9月26日記事)

Translator collapsed during Khadafy’s rambling diatribe
(New York Post September 24, 2009)

その後、逐次通訳を参考例に話者が相手を強い言葉で非難した時の対応や、感情的な話になった時の対応についても動画では紹介していますが、面白いのがジョークをどの様に訳すかについての説明です。

ジョークの訳し方

同時でも逐次でも、通訳は話者や会議全体の話のリズムを損ねない様に訳す事が求められます。(もちろん話の内容を変えずにですが)

ところがジョーク(ユーモア)は、背景情報がわからないと「笑えない」事が多く、それを説明していると話者や会議全体の話のリズムを損ねる場合があります。

そもそも「ジョーク」とは説明されてから「笑う」ものではありませんし、説明されてからでは「笑う」のが難しい場合もあります。

紹介したWIREDの動画 Interpreter Breaks Down How Real-Time Translation Works では、英語話者が porpoise = ネズミイルカpurpose = 目的をかけたジョークを話しています。

ところが、この英語の言葉遊び的なジョークをスペイン語に訳すと、ネズミイルカ(porpoise)は marsopa 、目的(purpose) は propósito になる為、言葉の音が全く似ておらず、ジョークとして成立しません。

しかし、これを説明するには時間がかかってしまうため、通訳者は The speaker has shared a joke. It is untranslatable. Please laugh now. (話者がジョークを披露していますが、翻訳不可能です。ですので、笑ってください。)と言って、その場を凌いでいます。

もちろん説明可能なジョークは訳す事もありますが、会議(外交)通訳者の場合「言葉を訳す」のは大前提として、「会話や会議を円滑に進め、成立させる事」も使命に含まれています。

その為、長々とした説明でその場の流れを止めてしまうのではなく、この様な対応を取る事もあります。これは、翻訳と通訳の仕事の違い表す事例のヒトツとも言えるでしょう。

日本翻訳者協会
オンラインイベント

2022年4月23日 日本翻訳者協会(JAPAN ASSOCIATION OF TRANSLATORS / JAT)は、オンラインセミナー「Global PROJECT 2022〜キャリアの初めから知っておきたかったこと〜」を開催します。

当日は、翻訳に関するセミナーでは 文学、エンタメ、法律、特許、製薬およびツールの各分野をカバー。さらに通訳に関するセッション等、興味深いテーマが合計11セッションも予定されています。

このオンラインイベントには、JAT会員の方は全セッション無料で参加可能、非会員の方は 1セッション 1,000円・全セッション 4,000円で参加可能です。

また非会員の方で、学生の方は在籍証明書などを提示すると、学生割引が提供されるとの事。

セッションの詳細や参加方法、申込等については下記リンクにてご確認下さいませ。

  • イベントタイトル
    「Global PROJECT 2022〜キャリアの初めから知っておきたかったこと〜」
  • 開催日
    2022年4月23日(日)
  • 開催形態
    オンライン(Zoom)
  • 参加費
    JAT会員:全セッション無料で参加可能
    非会員:1セッション 1,000円・全セッション 4,000円で参加可能
    ※非会員の方で学生の方は在籍証明書などを提示の場合、学生割引を提供。
  • 時間
    各セッションにより異なります。
    最初のセッションは午前9時~開催。詳しくは下記リンクにてご確認下さい。
  • 詳細ページ
    https://jat.org/ja/events/event/global_online_project_2022
  • 主催
    日本翻訳者協会(JAPAN ASSOCIATION OF TRANSLATORS / JAT)

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