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通訳の方法・複数言語を用いて通訳するリレー通訳

一般的には「通訳の方法」と聞くと、「逐次通訳」や「同時通訳」等を思い浮かべる方が多いと思いますが、今回は、複数言語を用いて通訳する方法「リレー通訳」について少しご紹介。手話通訳を交えたリレー通訳の事例等もご紹介します。

通訳の方法

前回の本ブログでは、通訳者のテクニックの一端を、動画も交えてご紹介しました。

一般的には「通訳の方法」と聞くと、前回ご紹介した「逐次通訳」や「同時通訳」等を思い浮かべる方が多いと思いますが、今回は、複数言語を用いて通訳する方法「リレー通訳」について少し紹介したいと思います。

リレー通訳

リレー通訳の「リレー」は、運動会などで行うバトン等を用いたリレー走の「リレー」と同じ意味です。

英語では relay と書きますが、「後ろに残す」という意味のラテン語が、フランス語経由で15世紀に英語化したと言われています。

リレーは、英語「relay」からの外来語。「relay」の「re」は「後ろに」、 「lay」は「残す」で、「後ろに残す」という意味のラテン語が、フランス語経由で15世紀に英語化された。

語源由来辞典より

リレー通訳とは、リレー走と同じように複数の言語を繫いで通訳する方法です。

つまり、A言語をB言語に訳し、さらにB言語をC言語に訳すことを指します。

具体例として、ミーハングループ Facebook で以前(2015年)掲載した、 法と言語学会副会長でもある 金城学院大学文学部 英語英米文化学科 水野 真木子教授 による司法通訳コラムから「リレー通訳」の事例をご紹介します。

ソマリア海賊の裁判
と リレー通訳

金城学院大学文学部 英語英米文化学科 水野 真木子教授 による司法通訳コラム より


2011年に、アラビア海の公海上で、日本の海運会社のタンカーが4人の海賊に襲われました。

彼らは自動小銃で乗組員を脅迫、ハンドルを操作して乗っ取ろうとしましたが、米海軍に拘束されました。

この事件の裁判は日本で行われることになりましたが、東京地裁は、1人に懲役11年、2人に懲役10年、残りの1人に懲役5~9年を言い渡しました。

これは、「海賊行為の処罰及び海賊行為への対処に関する法律」が最初に適用されたケースです。

この裁判で一番問題になったのは通訳でした。ソマリア人の海賊の理解する言語はソマリ語ですが、ソマリ語の法廷通訳人を見つけるのは大変困難でした。

無政府状態の国ですから、大使館から通訳者を派遣してもらうと言う様な措置も取れません。通訳人を探すのに時間がかかり、裁判の開始が何か月も遅れたと言われています。

結局、ソマリ語から英語に訳す通訳人と、英語から日本語に訳す通訳人を雇って、リレー通訳の形式で通訳を行いました。

リレー通訳という形を取ると、単純計算で通常の裁判の3倍の時間がかかります。しかも被告人質問では、言語変換が2回行われることで、どこかで情報が落ちたり、ニュアンスが変わったりして、ちぐはぐな答えが返ってくることも多かった様です。

その上、被告人たちは非常に貧しく、教育などまったく受けていないので、自分自身についてさえ正確な情報を持っていないのです。この様な状況ですから、人定質問も困難を極めたことでしょう。(人定質問→被告人として出頭した者が人違いでないことを確かめるため、裁判長が行う質問)

彼らが本当にソマリア人なのかも定かではないし、生年月日すら本人が把握していないのです。30年くらい前に生まれたとか、20年前の雨季に生まれたというような程度の情報しかないので、成人なのか未成年なのかを判断することも難しかったそうです。

そういう人たちの通訳をリレーで行うことがいかに難しいか、容易に想像がつきますよね。

20年くらい前に日本で、耳が不自由な中国人の裁判が行われました。手話は全世界共通ではなく、個別の言語に対応した手話が使われる為、その時には中国手話から中国語に訳す通訳人と、中国語から日本語に訳す通訳人が起用されました。

また同じ頃、フィリピン人の裁判で、ビサヤ語からタガログ語、タガログ語から日本語の2名の通訳人が付けられた事もあります。

このように少数言語が関わってくると、リレー通訳でしか対処できないケースも出てきます。

リレー通訳で正確性のレベルを維持するためには、通訳人1人ひとりの能力とスキルが非常に高くなければなりません。今後の法廷にとっても、大きなチャレンジであると言えるでしょう。

金城学院大学文学部 英語英米文化学科
水野 真木子教授
司法通訳コラム より

複数言語の
リレー通訳

例えば国際会議など、様々な言語の人々が一堂に集まる場でも、この「リレー通訳」は行われます。

この場合は、同時進行で様々な言語に訳す為「ピボット言語(Pivot Language)」を用いたリレー通訳が実施されます。

ピボット言語
(Pivot Language)

「ピボット言語(Pivot Language)」とは、通訳において中心となる言語と言う意味です。

多くの国際会議では英語が「ピボット言語」となる事が多いです。(フランス語の場合もあります)。

具体的には以下の様な方法でリレー通訳が行われます。

【リレー通訳・例】

※ピボット言語・英語
話者・日本語 → ピボット言語・英語 → 訳出言語・様々な言語 (複数言語)

手話通訳

水野先生のコラムにもありましたが、手話通訳をリレー通訳で通訳する場合もあります。

手話は英語では Sign Language と呼ばれます。

Sign Language

a system of hand and body movements representing words, used by and to people who cannot hear or talk

Cambridge dictionary

手話は各国によって異なるので、以下の様なケースのリレー通訳が発生する場合もあります。

【日本とアメリカの手話通訳によるリレー通訳・例】

話者・日本の手話にてスピーチ ↓
通訳1・
日本の手話通訳者が日本語の音声言語に通訳 ↓
通訳2・
言語通訳者によって日本語から英語に音声通訳 ↓
通訳3・
手話通訳者がアメリカ手話に通訳

国連での会議等でも先ほどのピボット言語を利用したリレー通訳に、手話通訳が含まれる場合もあります。

AIIC Sign Language Network webpage
https://aiic.org/site/SLN


因みに弊社代表 通訳の右田アンドリューは、ニューヨークで開催された世界盲ろう者連名(The World Federation of the Deafblind)の総会等で、通訳を行ったことがあります。

その時 右田は、東京大学の福島智教授の通訳を担当。福島教授は「全盲ろう」つまり目も耳も不自由なので、英語での質問は右田が英→日に通訳をし、それを福島教授の奥様が点字で伝えると言うリレー通訳を行ったとの事。

なお、福島教授は発言する事は可能な為、教授が日本語で話された内容を右田が英語に通訳。そして、英語に訳された発言を手話通訳者がアメリカ手話に訳しました。

コンサートでの
手話通訳

海外のコンサート会場や音楽フェス等でダンスする様に通訳をする手話通訳者の動画が、ソーシャルメディアで話題になる事が、最近あります。

手話通訳は、日本でも政府の会見やイベント等では見かける様になりましたが、音楽イベントでは、まだ余り見かけません。

日本でもこの動画の様な素晴らしい手話通訳が、コンサートや多くの場で、近い将来 見られると良いですね。



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