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ウクライナ・ゼレンスキー大統領による国会演説での同時通訳について

2022年3月23日 ウクライナのゼレンスキー大統領によるオンライン演説が、日本の国会で行われました。この演説後 Twitterではトレンドに「通訳さん」が入るなど、同演説の同時通訳も注目を集めました。今回の本ブログでは、このゼレンスキー大統領の演説他、同時通訳について少しご紹介したいと思います。

ゼレンスキー大統領
による演説

2022年3月23日 ウクライナのゼレンスキー大統領が、オンラインにて12分に渡る演説を日本の国会で行いました。オンラインによる演説は、日本の国会では初との事。

午後6時すぎより行われたゼレンスキー大統領の演説全文は以下サイトにて、日本語翻訳版がご覧いただけます。

ゼレンスキー大統領は、アメリカ、イギリス、ドイツ、カナダ、イタリア等でも、既にオンライン演説を行っています。この時の様子は以前このブログでも紹介させて頂きました。

また、日本で演説を行った同日、フランスでもゼレンスキー大統領はオンライン演説を行っています。

ゼレンスキー大統領、フランス国会では「自由、平等、博愛」強調(2022年3月24日 毎日新聞)

演説の同時通訳

3月23日行われた日本の国会での、ゼレンスキー大統領の演説の同時通訳は在日ウクライナ大使館のスタッフの方が対応したと、セルギー・コルスンスキー駐日ウクライナ大使(H. E. Mr. Sergiy KORSUNSKY, Ambassador Extraordinary and Plenipotentiary of Ukraine)が Tweet されていました。

多くの人は彼女の同時通訳に対し感謝の言葉を述べており、演説後「通訳さん」や「同時通訳」がTwitterのトレンドにランキング入りした程です。

参考記事:「通訳さんがんばれ!」SNSにエール続々 ゼレンスキー氏国会演説で「同時通訳」トレンド入り(2022年3月23日 Yahoo News/J CAST ニュース)

しかし、残念なことに彼女の同時通訳に対するネガティブな発言も、ネット上で見受けられました。

今回の演説の同時通訳を行うにあたり、どの様なスケジュールで通訳者が決定したのか、充分な打ち合わせ(ブリーフィング)が行われたかは、わかりません。

しかし戦時下のウクライナ、それも、ほぼ毎日各国の国会でオンライン演説を行っているゼレンスキー大統領のスケジュールを考えれば、演説の原稿が届いたのもギリギリのタイミングだったったでしょうし、ブリーフィングの時間も十分ではなかった事は想像できます。

そんな状況で、話者=ゼレンスキー大統領の話すタイミングにあわせ、もしかしたら原稿に書かれている事以外についても話すかもしれないと注意を払いながら(実際の原稿を眼にしていないので、もしかしたらイレギュラーな発言も演説内にはあったかも知れません)、12分間にわたるスピーチをお1人で同時通訳された事は、本当に大変だったと思います。

通常、この分数、内容の重さを考えれば、2人以上の通訳者が対応してもおかしくない同時通訳でした。

※ウクライナ語を日本語に訳せて、かつ同時通訳が出来るスキルを持った人は、そうは多くはないと思われますが...。

ウクライナ語の特徴、日本語との違い等について紹介する記事が公開されましたので、追加致しました(2022年3月25日)

同時通訳泣かせのゼレンスキー氏演説 早口、関係代名詞、情報多すぎ (2022年3月25日 朝日新聞・有料記事)

上記 朝日新聞記事の取材に対応された平野高志氏が編集する、ウクライナ国営通信「ウクルインフォルム」日本語版に掲載された、ゼレンスキー大統領の日本の国会での演説全文仮訳は、以下リンクよりチェック可能です。

ゼレンシキー宇大統領の日本の国会での演説全文(2022年3月23日 ウクルインフォルム 日本語版)

またウクライナ語及び英語の全文は、以下リンクからも読むことが出来ます。
Промова Президента України Володимира Зеленського в парламенті Японії
Speech by President of Ukraine Volodymyr Zelenskyy in the Parliament of Japan
(2022年3月23日 PRESIDENT OF UKRAINE VOLODYMYR ZELENSKYY Official website)

通訳者の受難

現代において、通訳者は今まで以上に大変な立場にあります。

様々な言語による発言やメッセージ、レポート等が、オンラインも含めたメディアを通して、世界中に発信されるのに対応しなければならないからです。特に即時性の高い情報については、時間がない中で対応せざるを得ません。

「現代ならリアルタイム字幕でも対応できるだろう」と言う意見もありますが、設備や人材の確保などの手配がスグに出来るか等を考えると、なかなか難しいのが現状です。

特に、今回の様に日にちの無い中で決定した事かつ、日本の国会初のオンライン演説ともなれば、リアルタイム翻訳字幕の導入は不可能に近かったと思います。

様々な言語で発信される情報やメッセージを、世界中の人々に伝わるように訳すのが通訳者の仕事ですが、現在 ネット上ではその訳について様々な意見がスグに交わされます。

もちろん通訳者はプロですから、間違った訳(誤訳)は許されませんし、出来るだけ訳す内容が伝わる様に、適切かつ自然に聞こえる様に別言語に訳さなければなりません。さらに聞こえやすく話す事も求められます。

ただ、先ほども書いたようにスピーカー(話者)は、原稿に書かれた内容以外の事を話す事もありますし、ましてや「原稿」そのものが無い場合もあります。

その状況でスピーカーの話を聞きつつ、話すのとほぼ同じスピードで訳し、かつクオリティも維持するには、尋常ではない集中力と技術が同時通訳では要求されます。

※話者が話した後に訳す逐次通訳の場合でも、訳すのに時間をかけるわけにはいかないので、やはり集中力と技術は必要となります。

今回のゼレンスキー大統領の、日本の国会での同時通訳についてネガティブな意見もありました。

しかし多くの人がそれに反論、好意的なメッセージを寄せていたのは、本当に素晴らしいと思いましたし、その期待に応えるべく、通訳者は日々鍛錬しなければならないとも思いました。

なお、通訳者が「誹謗中傷」にさらされる状況に対して、弊社代表 通訳者の右田アンドリュー・ミーハンもメンバーのAIIC(国際会議通訳者連盟)では、2022年1月に声明文を発表しています。

Declaration against Online Bullying and Defamation of Conference Interpreters (AIIC 2022年1月)

弊社代表 通訳 右田アンドリュー・ミーハンが、本ブログの内容を自身のLinkedInアカウントにて、英語で紹介しています。興味のある方は、併せてチェック下さいませ。

Ukrainian President Zelensky Address to Japanese Parliament
右田 Andrew on LinkedIn account

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