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G7 広島サミット ~通訳の視点から~

G7 広島サミット(第49回先進国首脳会議)が、2023年5月19日~21日まで開催されます。今回のブログでは G7の基本情報紹介及び、この様な外交の場での通訳者の仕事や、通訳方法等について、簡単にご紹介します。Adam LapuníkによるPixabayからの画像)

G7
Group of Seven

2023年5月19日~21日まで広島にて行われるG7広島サミット。正式名称は第49回先進国首脳会議。

G7の「G」は Group of Seven 参加国のフランス、米国、英国、ドイツ、日本、イタリア、カナダを意味しています。

会議には、上記国以外にも欧州連合(EU)が参加、またG7メンバー以外の招待国や国際機関などが参加することもあります。

外務省 G7に関する基礎的なQ&A
https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/summit/ko_2000/faq/index.html

今回開催されるG7広島サミットの開催意義などは、外務省 特設サイトにて紹介されています。
https://www.g7hiroshima.go.jp/

サミット / Summit の意味

日本語で「サミット」と言えば、国の首脳が参加する重要な会議をイメージする方が多いと思います(スーパーマーケット・チェーンの店名をイメージされる方もいらっしゃるかも知れませんが)。

英語でも Summit には同様の意味もありますが、もう1つ「山の頂上」と言う意味があります。

Summit noun
Cambridge dictionary

an important formal meeting between leaders of governments from two or more countries:

the highest point of a mountain:

https://dictionary.cambridge.org/dictionary/english/summit


G7開催までには、数々の事前会合及び準備会議が行われますが、これらは首脳補佐官を中心に行われます。

その首脳補佐官は「シェルパ / Sherpa」と呼ばれるそうですが、その由来は Summit の英語のもう1つの意味「山の頂上」から来ているとのこと。

外務省 G7 広島サミットのWebsiteにも以下説明があります。

G7サミットの準備
準備は「シェルパ」と呼ばれる首脳の補佐役を中心に行われます。

「シェルパ」とは、「登山者が山頂(サミット)にたどり着くための手助けをする案内人」という意味の登山用語です。G7各国のシェルパが「山頂」=「会議の成功」を目指して緊密に連絡を取り合いながら、入念に事前準備を進めていきます。

https://www.g7hiroshima.go.jp/summit/about/

「シェルパ / Sherpa」には補佐役として、通常 Sous-Sherpa が付きます。

Sous はフランス語で「その下の」と言う意味になります。

日本語で例えると Sherpa を「部長」とした場合 Sous-Sherpa は「部長付き、副部長、部長代理、部長〇〇」と言うニュアンスの言葉になります。

事前に どの様な会合が行われるかは、外務省 G7広島 サミット Websiteの関係閣僚会合のページで紹介されています。

もちろん、これら会合を行う前にも準備会議が行われます。準備会議の多くはオンラインで行われますが、通訳者はそれらの会議や会合の通訳も担います。お陰様でミーハングループも現在 G7準備会議の通訳をいくつか務めています。

G7 広島サミット
学生ボランティア

2023年2月11日 G7サミットの運営をサポートする学生ボランティアの結団式が、広島で行われました。

サミットで世界の最前線を学びたい ガイド・通訳の学生ボランティアが結団式 (2023/2/11 中国新聞)

選抜された学生ボランティアは「おもてなし」と「通訳」の2つの業務に分けられ、通訳担当はサミット本番だけでなく、各地で事前に行われる行事に参加し、会話の補助など英語を使って活動するとのこと。

オリンピックの時もそうでしたが、サミット開催期間中はメディアを始め多くの関係者も広島に訪れます。その為、多くのサポートが必要となります。

要人の通訳

各国の首脳クラスになると、会議以外でも随行通訳者が帯同します。

2016年伊勢志摩で開催されたG7に出席後、広島の平和記念公園で感動的な演説をされたオバマ元大統領。

被爆者の方々と挨拶を交わし、ハグを交わされた姿を覚えている方も多いと思いますが、その際 オバマ元大統領の傍らに佇む1人の男性が居ました。覚えてらっしゃいますか?

その方は、アメリカ国務省に勤めるStaff interpreter / アメリカ国務省内通訳士職の方で、お名前をレフテリィス・カファトスさんと言います。

アメリカ人で英語・日本語の通訳をされますが、伊勢志摩サミットの際は随行通訳者(escort interpreter)として帯同されました。また、2019年にトランプ前大統領が来日した際にも随行通訳を務められました。

現在のアメリカ大統領付の随行通訳者は セリーヌ・ブラニング(Céline Browning)さんが務めています。セリーヌさんは近藤麻理恵さんの通訳もされていました。

随行通訳は、決まった議題を訳すのではないので、訪問する場所についての歴史や文化も知らなければなりませんし、話し合われる議題や参加者も、ある程度は把握しておかなければなりません。要人がとっさに現地の方とお話されたりした際に対応する必要があるからです。

ですので、首脳級の随行通訳になるには、高いスキルが求められます。

因みに随行通訳者になる際には、高い「通訳スキル」が求められるのはモチロンですが、実は身元調査なども徹底的に行われます。

要人に随行するので当然のことと言えば当然ですが、その徹底ぶりには驚かされます。弊社代表の右田アンドリュー・ミーハンも、アメリカの要人随行通訳者の資格を持っていますが、日本育ちだったため、調査に2年近くかかったとの事。

通訳担当官

トップクラスの政治家の方々は英語を話される事が多く、岸田首相も小学校時代の3年間をニューヨークで過ごし、現地の公立小学校に通った経験をお持ちとの事ですから、英語はある程度お話になられる様です。

政治家の語学力 (共同通信 2021年12月13日)

しかし、外交の場では「言葉」が重要ですので、会議はもちろん、会見や会合では通訳者が帯同、通訳を行います。

アメリカの場合は「随行通訳者」が会議外の通訳を対応する事は、先ほどご紹介しましたが、日本の場合は、これらの業務の多くは日本の外務省に在籍する「通訳担当官」が担います。

外交支える“最強集団” 外務省 通訳の世界に迫る(NHK news 2021/10/22)

逐次・ウイスパリング・
同時・リレー
外交の場での 通訳 方法

要人に随行/帯同する通訳者の多くは、逐次(ちくじ) または ウィスパリングと呼ばれる方法で通訳を行います。

簡単に言うと逐次通訳は、相手の話の区切りの良いタイミングで、話された内容を通訳言語に訳す方法です。

ウィスパリング / Whispering は「ささやき声」で、話者が話しているのと同時に、通訳を必要とする人の耳元、または背後で訳す方法になります。

ウィスパリングによる同時通訳は、参加者が少数人、または 訳す言語が少ない場合が対象となります。

複数の言語、複数人が参加する会議の場合、多くは「同時通訳」かつ「リレー通訳」で言語を訳します。

この場合、通訳者は専用のブースに入り、話者の話をイヤホン等で聞き取りながら通訳を行います。

通訳を必要とする人は、イヤホンを通じて通訳者が訳した内容を、話者が話すスピードとほぼ同時に聞く事ができます。

国際会議における通訳ブースの参考イメージ:2014年11月にブルネイで行われた17回アジア・太平洋諸国参謀総長等会議(Chiefs of Defense:CHOD会議)より。

この会議の場合は、簡易の通訳ブースが別室に設置されていました。通訳者は、本会議場とは別室の通訳室に設置された通訳ブースに入り、本会議場の様子をモニターで見ながら各国の言葉に同時通訳をします。これは国際会議では定番のスタイルです。

国際会議における通訳ブース内の参考イメージ

国際会議における同時通訳 参考イメージ・同時通訳用の映像・音声機器調整室

通訳室に映像と音声を、本会議場には通訳者の訳した音声を問題無く届けるために、この様な機材調整室も必要となります。


こちらは簡易ではない、常設の通訳ブースの参考イメージ写真・2016年1月にエチオピアの国連会議場で行われたAIIC(国際会議通訳者連盟)の総会より

常設の通訳ブース内の参考イメージ写真・2016年1月にエチオピアの国連会議場で行われたAIIC(国際会議通訳者連盟)の総会より

リレー通訳

同時通訳で、複数の言語を訳す場合、「リレー通訳」が行われます。

リレー通訳の「リレー」は、運動会などで行うバトン等を用いたリレー走の「リレー」と同じ意味です。

リレー通訳では、話者が話した言語は まず「ピボット言語」と呼ばれる言語に訳されます。

ピボット言語は会議ごとに設定されますが、多くは英語です。

通訳者は「ピボット言語」に訳された内容を、それぞれの言語に訳して相手に届けます。

例:ピボット言語が「英語」の場合

  1. 日本語話者が日本語で話す
  2. 日本語を日/英通訳者がピボット言語の英語に訳す
  3. 英語に訳された内容を各言語の通訳者がそれぞれの言語に訳す
  4. フランス語話者が日本語話者にフランス語で質問する
  5. フランス語の質問を仏/英通訳者が英語に訳す
  6. 英語に訳された質問を各言語の通訳者がそれぞれの言語に訳す
  7. 日/英通訳者が日本語に訳した質問に日本語話者が答える

G7の場合 米国、英国、カナダなど 話者が英語を話す場合は「ピボット言語」を介したリレーはせずに、英語から各国語に通訳者が訳します。

しかし、英語話者に対して他言語の話者が質問をする場合は「ピボット言語」を介したリレーが行われます。

例:話者が英語で話す場合

  1. 英語話者が英語で話す
  2. 話の内容を各言語の通訳者がそれぞれの言語に訳す
  3. ドイツ語話者が英語話者にドイツ語で質問する
  4. ドイツ語の質問を独/英通訳者がピボット言語の英語に訳す
  5. 英語に訳された質問を各言語の通訳者がそれぞれの言語に訳す
  6. 英語に訳された質問に英語話者が答える

こうする事により、会議参加者全員が会議内容の全てを把握する事が出来ます。

この様な国際的な会議の場合、開催国の通訳者(今回のG7の場合は日/英通訳者)は、開催国にて招集されるケースが多いですが、開催国以外の言語については AIIC (国際会議通訳者連盟)を通じて招集されるケースが多いです。

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