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通訳するのに苦労した話 ~通訳者の苦労話 その1~

ポケトーク社が 英語を70の言語に翻訳、字幕に加え音声で通訳もする「ポケトーク同時通訳」を、今冬に提供する事を10月に発表。話題になっています。今回の本ブログでは、そんな機械化も進む通訳の現場で、過去に起きた一筋縄ではいかない通訳エピソードを幾つか紹介したいと思います。

ポケトーク
同時通訳

ソースネクスト株式会社の子会社であるポケトーク株式会社が、今冬より提供すると2022年10月12日に発表した新製品「ポケトーク同時通訳」は、大きな注目を集めています。

ポケトーク同時通訳
https://pocketalk.jp/software/evolution/

「ポケトーク同時通訳」は、英語を70言語の音声と字幕でリアルタイムに理解できるソフトで、英語を短く区切ってユーザーが選ぶ言語に翻訳。音声でも発話するため、まるで専属の同時通訳者がいるようなソフトとのこと。

この製品については、既に多くのメディアが注目し、記事にて紹介しています。

記事によると「ポケトーク同時通訳」は、英語から他言語への音声訳は対応していますが、他言語から英語への音声訳は、まだ未対応の様です。

また翻訳の精度については、若干の不自然さはある様ですが、大意を理解するには問題無いようです。

さて、この様な記事がメディアを賑わすと「機械の進化に伴い、人間による通訳や翻訳業務が無くなるのでは?」と言う質問を頂く場合もあります。

コレについては、もちろん機械の進化と共に「人と機械の共存」と言った状況が多くなる可能性はあります。

しかし以前このブログに掲載した記事にも書きましたが、人が対応する「通訳」や「翻訳」と言う仕事は、そんなに簡単には無くならないと言うのが、ミーハングループの考えです。

TED-Edの動画「How computers translate human language」は、日本語字幕もあります。字幕の言語選択で「日本語」を選ぶと、日本語字幕が表示されます。

通訳するのに
苦労した話

TED-Edの動画にもある様に、機械で「ある言語」を別の言語に翻訳 / 通訳するのは簡単な事ではありません。

今冬発売される「ポケトーク同時通訳」も、翻訳はもちろん同時通訳の様な音声訳を可能にする為、様々な最先端テクノロジーが搭載されているのだと思います。だからこそ、多くのテクノロジー系メディアが注目するのでしょう。

しかし、人間の通訳者が対応する通訳の現場には、様々な話し方をする人が存在し、その人たちの言葉 / 話を、同時、または逐次でも瞬時に別の言葉に訳さなければなりません。

ここからは、通訳者が「通訳するのに」苦労したことを、実際のエピソードを交えて幾つか紹介したいと思います。

同音異義語

日本語は、発音が同じで意味の異なる言葉「同音異義語」が多い事で知られています。

例えば発音は「ひ」でも、「日」と「火」では意味が異なります。この様なケースは、話の前後から「日」なのか「火」なのか判断して訳す必要があります。

弊社代表 通訳者の右田アンドリュー・ミーハンは、通訳デビューしたばかりの頃、ニューヨークの法律事務所で行われた、とてもピリピリした訴訟会議で「企画」と「規格」の違いが文脈から読み取れず、「規格」と訳すべきところを「企画」と訳してしまったことがあるそうです。

どちらに訳しても、大意としてはおかしくなかったのですが、その間違いをチェッカー通訳者に指摘されて、結果、即その場でクビになったとのこと。

原稿がない場合、文脈から読み取りにくい、どちらにも取れる「同音異義語」を瞬時に判断して、正確に訳すのは至難の業です。

Sea shells
Seychelles

もちろん同音異義語によるミスは、日本語⇔英語だけではありません。

'To err is human' — comical gaffes and quiet triumphs of a UN interpreter
September 18, 2016 CBC News

Interpreter Anne-Catherine Boudot was a little confused as to why a speaker was repeatedly bringing up sea shells during an international gathering in Geneva, but she dutifully translated it into the French coquillages. "I spoke for a good 20 minutes," says Boudot. "All of a sudden my colleague looked at me and said 'I think they're talking about the Seychelles.'"

https://www.cbc.ca/news/world/un-interpretor-1.3760725

日本語の同音異義語とは少し異なりますが、この記事ではフランス語の通訳者が似たような発音の言葉を聞き間違えて、ミスをした話が紹介されています。

話者が英語で発音した Seychelles(セイシェル島)が Sea shells(貝がら)に聞こえたので、フランス語で「貝がら」と訳してしまい、会場に笑いが起きたとのこと。

この場合は笑いで済んだので良かったですが、似た様な発音の言葉の聞き間違いも、通訳者を悩ませるモノの1つです。

英語と日本語が
混ざった話の通訳

日本語に英語を混ぜて話す人と言って、パッと思い出されるのは 「ルー大柴さん」でしょうか?

ルー大柴さんは お笑いタレントさんですから、話を面白くするために、この様な話し方を大げさにされていますが、ここまでではなくても、似たような話し方をされる人...時々いらっしゃいますよね。

その様な話し方をされる人の通訳をする場合、話された言葉をそのまま使って訳す場合もありますが、例えば外交などのデリケートな場で、「おもてなし」のつもりで日本語と他言語(例:英語) を交えた話し方をされた場合、通訳者はどの様に対応するのでしょうか?

右田アンドリュー・ミーハンは以下の様に話します。

要人が相手文化を深く知らない場合、ネイティブが嫌味を言う時や、ハデなことを言う時にしか使わない言葉を知らずに使っているようだったら、いわゆる「当たり障りのない」表現に置き換える権限を外交通訳は持っています。

私も外交通訳の場合はその様な対応をする訓練を、米国務省などで受けました。

ほかにも知らずに失礼にあたる言葉を使ったり、ボディランゲージをしてしまった場合は、その要人にそっと伝えたり、言葉としてもう発せられていた場合は、訳さないなどします。

外交通訳は、会話の舵取りも通訳者に任される事もあるので、言葉のヒトツヒトツに神経質にならざるを得ません。

右田アンドリュー・ミーハン

これ以外にも、英語が基になっているカタカナ表現で、英語と日本語の意味が異なる場合や、和製英語もあるので、それにも注意して対応する必要があるとのこと。

もちろん、他言語話者が日本語を交えて話すケースもあります。

ロシア人、アメリカ人、日本人が参加する漁業会議で、話者が英語にいきなり日本語を混ぜて来た時がありました。

話者はロシア人だったのですが、英語で話している最中にいきなり Otosay と言われたので、ロシア語かと思い「オトセー、オトセー」と、聞こえるままに訳してしまいました。

でもそれは、実は日本語で「オットセイ」と言っていたのです。聞こえるままに訳したのは、結果としては良かったのですが、あとで気が付いて頭を抱えました。

たまに良かれと思って この様な事をされる方もいらっしゃいますが、英語で話していたのに、いきなり、それも不慣れな発音で日本語を混ぜられたら、瞬時に「日本語」だと理解するのは、ほぼ不可能です(苦笑)

右田アンドリュー・ミーハン

いずれにしても、複数の言語を不用意に交えて話されると、通訳者は脳内で言語スイッチを頻繁に切り替えねばならず、大変苦労します。

話者の発音や
話し方の癖

今回紹介したケース以外にも、話をする人がハッキリ発話しない(モゴモゴ話す)、恐ろしく早口で聞き取れない、話者が頻繁につっかえたり、言い間違えたり、話が行ったり来たりするなど、話者の発音や話し方の癖で、通訳者の歯車が狂ってしまいミスが起きたり、苦労することもあります。

また、これは「通訳」そのものではありませんが、事前に話す内容の原稿や資料が届かない、話す内容が当日全部変更になった、逐次と聞いていたのに同時通訳をお願いされた、大勢の人が一斉に話して訳が分からなくなった等々、事前準備や連絡不足で苦労する場合もあります。

しかし、それらを一気に紹介すると、物凄く長い記事になってしまうので、またそれは別の機会にご紹介したいと思います。


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