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コミュニティ通訳の醍醐味 ~通訳者の視点から~

学校や役所などの公的機関や、病院、地域での活動 等 幅広いシチュエーションで、日本語に不慣れな人々の日常生活を、言語でサポートするコミュニティ通訳。その活動の醍醐味や国際規格について、今回は少し紹介したいと思います。Trid IndiaによるPixabayからの画像)

コミュニティ通訳 とは

主に日本に在住する、日本語に不慣れな方々の日常生活を言語でサポート。言語が理由で、医療、教育、社会福祉、行政、司法などの公的サービス等にアクセスできない人を支援するのが「コミュニティ通訳」です。

その業務内容は多岐にわたり、例えば在住市役所等とのコミュニケーション・サポートや、子供などが学校に通う場合は先生とのやり取り、住居に関する不動産屋さんとの対応や、保険などの対応、病院や医療機関(調剤薬局等含む)とのやり取りなども「コミュニティ通訳」の業務対象になります。

しかし日本では、これら日常生活において日本語が苦手な人への言語サポートの多くは、ボランティア団体が行っている他、家族が担うケースも多く、それが「子供」であった場合、彼らの精神的負担や責任が大きすぎる事も問題にもなっています。

通訳や翻訳は、ある言語を別の言語に単に置き換えるだけではなく、文化や常識の違いを考慮して訳さないと意味をなさない=相手に理解してもらうことは出来ません。

特にコミュニティ通訳は、日常生活の様々な違いを考慮し、時には仕組みや常識、文化の違い等の説明も加えながら訳す事が求められます。

コミュニティ通訳の醍醐味

ミーハングループは、主に会議での通訳や司法関係の通訳を務める事が多いですが、代表通訳者の右田アンドリューは、コミュニティ通訳をする事もあります。

先日、右田が経験したコミュニティ通訳でのエピソードについて話を聞きました。

コミュニティ通訳の内容は、本当に多岐に渡ります。

『日本に留学している子供と数日間連絡が取れないので、その子供の友人や学校関係、日本の捜査機関等とのやり取りを通訳して欲しい』と言った依頼もありましたし、『家族が緊急入院をしたが、入院先の病院が英語対応不可な為 状況の確認や転院の手続き、勤務先への連絡、保険関係の対応含め助けて欲しい』と言った依頼もありました。

先日依頼を受けたのは、コロンビアからビジネスで日本に出張された方で、英語とスペイン語でのコミュニケーションが可能でした。

依頼内容は、出張前に自国で受けた血液検査の結果が日本に来てから届いたが、ある項目が「要再検査(至急)」となっており、急いで再検査を受けたいので、病院での通訳をお願いしたいとのことでした。

当初はリモート通訳でOKとの話でしたが、初めての来日で勝手もわからず、日本の病院のシステムについても全く知らないとの事でしたので、結局 病院まで足を運び、受付のやり取りから、問診票の質問内容の説明や、書き方のサポート、受ける検査内容の説明、お医者様による診療内容の通訳をしました。

本人は「要再検査(至急)」と言う結果に動揺しており、お医者様に『なにが原因でこんな結果が出たのか?』や、その結果が身体に及ぼす影響などについてアレコレ質問をしたり、検査方法が自国の方法と少し異なるのか詳細を知りたがったり、様々な不安をクチにして終始落ち着かない様子でした。

ですので、私は英語での通訳は出来るだけシンプルな表現を使って訳した他、プロ通訳者レベルではありませんが、スペイン語も4年ほど勉強しているので、相手の目に少しでも混乱の気配が見えた際には、スペイン語も交えて説明するなどして、できるだけ分かりやすく、相手が落ち着ける様な対応をしました。

「問題無し」と再検査の結果が出た時、その人は正に診察室の椅子から飛び上がらんばかりの喜び様で、目には涙まで浮かべていました。

コミュニティ通訳は、会議通訳等とは異なる難しさもありますが、言葉を介した人と人の繋がりをダイレクトに感じられたり、感動する場面も沢山あります。

右田アンドリュー・ミーハン

なお、コミュニティ通訳の仕事の特徴や役割、必要とされる資質などについては、以前ミーハン・グループ Facebookに「司法通訳コラム」を寄稿頂いた、金城学院大学文学部英語英米文化学科教授 水野真木子先生による書籍「コミュニティー通訳入門―多言語社会を迎えて言葉の壁にどう向き合うか…暮らしの中の通訳」が出版されています。

コミュニティ通訳の
国際規格

日本では一般社団法人等が実施する検定や認定試験はありますが、国家機関による通訳業務の認証制度はまだありません。

コミュニティ通訳については 一般社団法人 通訳品質評議会 が、コミュニティ通訳の育成と地位向上を目的とした 一般通訳検定(Test of Universal Interpreting:TOUI・トーイ)を実施しています。

※日本国内の観光案内を対象とした「通訳案内士」については国家試験がありますが、通訳案内士法改正により2018年1月から全国通訳案内士の資格を持っていなくても、海外からの旅行者に対する通訳案内業務を有料ですることが出来る様になりました。

一方、世界では国際標準化機構ISOが 通訳や翻訳の国際規格作成を進めており、2014年12月には「コミュニティ通訳のガイドライン」(ISO13611)が発行されています。

このガイドラインでは「コミュニティ通訳はプロフェッショナルでなくてはならない」と定められており、コミュニティ通訳が必要な状況や場面、コミュニティ通訳に求められる能力等も、細かく記載されています。

日本国内では 2012年より国際基準についての議論が開始され、その後 一般社団法人 情報科学技術協会 内に国内審議団体の事務局が立ち上げられました。

右田アンドリュー・ミーハンも、ISO国内審議団体の委員として翻訳(SC 5 / WG 1) 、通訳(SC 5 / WG 2) 、通訳設備(SC 5 / WG 3)の規格作成に関わっており、昨年 2022年12月に京都外国語大学で行われたシンポジウム「コミュニティ通訳 」とは?-真の多言語・多文化が共生する日本社会構築の担い手育成のために-」にもパネラーとして参加しています。

京都外国語大学は『ISO13611:2014通訳-コミュニティ通訳のためのガイドライン』認証取得のコミュニティ通訳者育成に力を入れており、2023年5月26日には 公益財団法人京都市国際交流協会と包括協定を締結しています。

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