通訳/翻訳業とは言語を訳すだけではなく、異なる文化や価値観、常識を持つ同士のコミュニケーションがスムーズに出来るよう、いかにサポートするか?が鍵となります。今回はその違いが大きく表れる「謝罪」について、少し紹介したいと思います。
謝罪に対する考え方
謝罪についての考え方が、アメリカに代表される英語圏やヨーロッパの国々と、日本では全く異なる事は、知られている事かと思います。
良く言われるのは「欧米諸国の人は、自分に非が無いと絶対に謝らない」や、「最初に理由を説明してから謝る」等ではないでしょうか。
これに対して日本の場合「責任の有無や、理由が不明でもまずは謝る事が大事」な傾向があると思います。
この「謝罪」に対する考え方の違いについて、まずは少し説明したいと思います。
謝罪は何の為にするのか
日本の場合
お客様からのクレーム電話に対して謝罪するイラストです。
この様な状況の場合、日本ではクレームの内容が正しいか、正しくないかは置いておいて、まずは謝罪をするのが一般的ではないでしょうか?
例えば「ご迷惑をおかけして、誠に申し訳ありません。詳しい事をお調べして、改めてご連絡致します」と言ったように、理由が何であれ先ずは謝罪の気持ちを表す事が大事です。
この様な状況は様々な場で見られると思います。仕事でトラブルが起きた場合、理由がまだハッキリしていなくても、まずは謝罪をしないと話は進みませんし、芸能人などのスキャンダルの場合も、当人に非が無くても世間を騒がせた事をまずは謝るのは大事です。
さらに言うと犯罪や司法の場でも、起訴されていない被疑者や、罪が確定していない被告の立場であっても、誤解を生んだことや、周囲に迷惑をかけた事、反省を表すために謝罪を最初にする事は大事と思われています。
つまり日本の場合、先ずは「謝罪」をして、相手の気持ちや場をいったん落ち着かせてから、トラブルが起きた原因や理由を調査したり、今後の対策を考えたり、自分の主張を伝えたりする。「謝罪」と「謝罪をする事になった原因」や「理由」「対策」は別のモノとして捉えられています。
欧米諸国の場合
謝罪に対する考え方は、もちろん各国や個人によって異なりますが、今回はアメリカを代表する英語圏及びヨーロッパの大まかな傾向についてお話したいと思います。
欧米諸国の場合、「謝罪」と「謝罪をする事になった原因」や「理由」「対策」はセット です。
ですので、例えば仕事でトラブルが起きたとしても、スグには謝罪しません。まずはトラブルが起きた原因や理由の調査、そして責任の有無、必要であれば今後の対策も検討した上で、謝罪をするのが一般的です。
そして自分に非が無ければ、相手が気分を害していようが、周囲に迷惑をかけていようが謝る必要はないと考えます。
もちろん、ちょっとした誤解や円滑に物事を進める為に「Sorry」や「Excuse me」と言う場合は英語でもあります。
しかし、日本的な謝罪=原因や理由、責任の有無はハッキリしないが、相手の気持ちや場をいったん落ち着かせる為に「謝罪」だけを先にしてしまうと、理由もわからず謝る=「無責任で事なかれ主義」的に映る事もある様です。
「何に対しての謝罪なのか」「何のために謝罪をするのか」「謝罪をする理由」が明確でない謝罪は、誤解を生むだけではなく、信頼を無くすことにもなりかねませんので、注意が必要です。
通訳や翻訳における
謝罪の取扱い
この様な「考え方」の違いを理解していない場合、「謝罪」と言うデリケートな事柄だけに、大きな問題に発展する事も多々あります。
通訳者や翻訳者は、例えば企業間の会議や取引でこの様な状況が起きた場合、「謝罪に対する考え方の違い」も加味した上で訳したり、別途説明をしたり、問題がさらに大きくならない様に配慮をする事もあります。
しかし司法、特に法廷での通訳の場合、通訳者は発言者の内容を一言一句変える事無く、意味を付け足すことなく、訳さなければならないので、結果として裁判官や他の人に対して悪印象を与えてしまう場合もあります。
英語で謝罪をする場合
英語での謝罪表現はいくつかあります。
パッと思いつく謝罪の言葉は I'm sorry ですよね。それから、より深い謝罪の場合は I apologize ( apologized ) ~ なんて言い方もあります。
しかし、英語で謝罪をする場合に大事なのは「何に対しての謝罪なのか」「何のために謝罪をするのか」「謝罪をする理由」です。または起きてしまった事に対する原因の究明と対策。
これらの事もあわせて表現できないと、謝罪とはみなされないと言う事を知っておくことは大事です。
逆に日本語を勉強している方は、「謝罪」と「謝罪をする事になった原因」や「理由」「対策」は別のモノであり、まずは自分に非がなくても、相手や周囲に迷惑をかけた事=和を乱したことについて謝る事が大事であることを知らないと、コミュニケーションでストレスを抱える事になります。