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通訳者を介して話す場合 ~通訳者の苦労話 その5~

自分の発言を通訳者が訳す事に慣れている人は、ハリウッドスターや政府高官以外では、そう多くはいないと思います。そこで今回は「イザ」と言う時に為に、通訳者を介して話す時のポイントを、幾つかご紹介したいと思います。Florian PircherによるPixabayからの画像)

通訳者が困るたとえ話
/ ことわざ / 四文字熟語

本ブログでは前々回「通訳者の苦労話」として「たとえ話」を紹介しました。

この記事内でも少し触れましたが、「たとえ話」だけではなく「四文字熟語」や「ことわざ」「慣用句 / idiom」が、突然 話の中に登場すると、通訳者をアタフタさせる場合があります。

こう言う場合の対応について、弊社代表 通訳者の右田アンドリュー・ミーハンに聞いてみました。

話者が話している内容の大きな流れ、または話者が伝えようとしてるポイントと、「たとえ話」「四文字熟語」「ことわざ」「慣用句 / idiom」等の接点がわかれば(見抜けていれば)、通訳者は適切な言葉が見つからなくても「訳す」ことが可能です。

しかし説明が下手な話者もいますので、その「たとえ話」や「四文字熟語」「ことわざ」「慣用句 / idiom」と、話の流れとの接点がスグに見分けられない時もあります。

そう言う場合は、何を話者が伝えようとしているのか、必死になって通訳者は探さなければなりません。

特に日本語の場合「結論」や「最も伝えたい事」が、文法上 話の最後に来るので厄介です。

逆に話者が「肝心なメッセージ」の配信役である通訳者とのチームワークを意識してくれていると、通訳はすごくうまく行きます。

右田アンドリュー・ミーハン

通訳者を介して
話す場合の注意点
基本編

多くの人は「通訳者を入れて話す / 通訳者を介して話す」事に、あまり経験がないと思います。

では、その様なシチュエーションになった場合、どうすれば通訳者を介して自分の話を相手=非日本語話者により良く伝えられるでしょうか?つまり、どうしたら「良い通訳」をしてもらえるでしょうか?

まずは、基本的なことからご紹介しましょう。以下注意点は「逐次 / 同時」通訳の両方に共通する内容です。

  • 通訳者が間に入る事を意識して話す。
  • 聞きやすい声やトーンで話す。モゴモゴ話したり、早口で話すと聞き取りミスが発生しやすい。
  • 暴走しない。自分の話に通訳者がついてきているか気をつけながら話す。
  • 1つのセンテンスは短く、言いたい事を明確にする。考えをまとめないまま話し出したり、途中で話の方向性をいきなり変えたりしない。通訳者及び聞き手が迷子になる様な話し方をしない。

まず、普通に話をするのと違い「通訳者が入るんだ」と意識するだけでも、話し方は変わります。この意識を持ってもらえるだけで、通訳者はとても助かります。

次に、話す時の「声」や「トーン」ですが、ゆっくり、落ち着いて、ハッキリと話す事は、通訳者の聞き取りミスを減らすのはもちろん、会議等に参加している相手(非日本語話者)に対しても、自信のある人だと好印象を与える事が出来ます。

さらに、話の内容の区切りの良いところで、ポーズ(間)を入れて話すと、通訳者はより訳しやすくなります。

次に挙げた「暴走しない」は、「通訳」が追い付けないスピードで一気に話すと、会議に参加している非日本語話者には、せっかく話をした内容の半分も伝える事が出来ません。なぜなら通訳者は、話のスピードに追い付くために「通訳」を端折らざるを得ないからです。

また「暴走状態」の話だと聞き逃しや聞き間違い、説明不足等も発生しやすくなる他、話の内容が掴みづらくなり、結局 非日本語話者にとっては「???」となる場合もあります。

3つ目の「1つのセンテンスを短く、言いたい事を明確にする」は「暴走しない」に似ていますが、例えば以下の様な話し方をしてしまう事はないでしょうか?

例1
この件は〇〇ですが、この場合○○なので○○になる可能性がありますが、××になる場合もありますし、△△になるケースも見受けられる為、〇〇とは言いきれません。

例2
その案件は、確かに〇〇と言うケースに似ていますが、〇〇と言うケースは××の事で、××は○○さんが担当しているので私も詳しくはないのですが、つまり△△と言う事だと思うのですが、××はそう言った状態にないと聞いているので、〇〇のケースとは異なると思われますし、本案件とも異なると思います。

多くの情報をいっぺんに伝えたい場合、その情報が未整理のままや、考えながら話していたりすると、上記の様な話し方になることが多いと思います。

また、1つのセンテンスが長くなると話がアチコチに行き過ぎて、話している本人も、途中で何を言いたかったのか分からなくなったり、最初に話していた事と最後の話のつじつまが合わなくなる場合もあります。

この様な話を「通訳」するのは、ひどく困難です。

例1
この件は〇〇ですが、〇〇とは言いきれません。○○は○○になる可能性があります。しかし××になる場合もありますし、△△になるケースも見受けられるからです。

例2
その案件は、確かに〇〇と言うケースに似ていますが、本案件とは異なると思います。
〇〇と言うケースは××の事で、××は○○さんが担当しています。ですので私も詳しくはありませんが、おそらく△△と言う事だと思います。しかし××はそう言った状態にないと聞いています。だから、〇〇のケースとは異なると思われますし、本案件とも異なると思います。

全く同じ話でも、上記の様に「1つのセンテンス」を短くすると、より内容が明確になりますし、通訳もしやすくなります。

そして この様な話し方は たとえ「通訳」を介さない場でも、話を聞いている相手に分かりやすい話し方だと思いますが、いかがでしょうか?

機械翻訳も
結局は同じ

「基本的な注意だけでも、これだけ気をつけたり、気を配ったりしなければならないなら、機械翻訳 / 通訳 を使った方が楽だなぁ...」と思われる方もいらっしゃると思います。

でも、この「基本的な注意点」は機械翻訳 / 通訳を使う場合にも気をつけなければならない事と、さほど変わりはありません。

聞き取りにくい声やトーンで機械翻訳 / 通訳に話せば、聞き逃しや聞き取りミスが起きますし、話が暴走したり、1つのセンテンスが長くなると、やはり聞き逃しや聞き取りミス、さらには誤訳や、相手に伝わらない内容の訳になります。

また、この後に説明しますが、機械翻訳 / 通訳は「文化や常識の違い」を考慮して訳す事はないので、込み入った話や文化や常識の違いがある話については、余計に意味が分からない訳を出す事になります。

通訳は言語だけを
訳すのではない

通訳と言うと「言語だけを訳す」と言うイメージを持たれる方が多いと思います。

それ故に「一言一句、自分が言った言葉を違えることなく訳せ」等と言う方もいらっしゃいます。

しかし 言語は、その言葉を話す国の文化や常識、歴史等と密接に結びついています。冒頭にご紹介した「四文字熟語」や「ことわざ」「慣用句 / idiom」等が良い例です。またジョーク / 冗談等も良い例でしょう。

これらを何の説明もなく、仮に「一言一句 違えず」言葉の置き換え的な通訳をしても、常識や文化の異なる相手には伝わりません。

この動画にある様に、訳すのが困難なジョーク / 冗談が出た場合、その場を円滑に進める為に通訳者は「訳すのが困難なジョークなので笑ってください」と言うこともあります。

法廷等、司法に関する場では話者が話した言葉を端折ったり、注釈を入れたりして訳す事は禁じられていますが、会議や外交の場では「相手が理解出来る様に訳す」ことが求められます。

通訳者は この様な状況に慣れている、つまり「会議や外交を円滑に進める為の言語サポーター」であり「異文化コミュニケーションのエキスパート」と言う事も出来ると思います。

日本語話者が話した内容(または非日本語話者が話した内容)を、単なる言葉の置き換えではなく、相手の国の文化や常識等を考慮し、どの様に訳せば相手に伝わるか、どの様に伝えたら交渉を円滑に進める事が出来るかを、常に考えながら通訳しています。

例えば英語と日本語の文法は、全く異なりますから、自然に分かりやすく相手に伝える為に、話の順序を入れ替えて話たりする事もあります。

また、日本語は「曖昧な表現」でも伝わる言語ですが、英語はそうではありません。その辺の交通整理も必要に応じてしながら、通訳は話者の言葉が相手に伝わる様に訳しています。

つまり通訳者は会議等における、話者の話を相手に伝わる様に手助けする「伴走者でありパートナー」でもある訳です。

だからこそ、冒頭に弊社代表 通訳の右田アンドリュー・ミーハンが言った通り「通訳者とのチームワークを意識してくれていると、通訳はすごくうまく」わけです。

こちらは逐次通訳のケースですが、通訳を介した会見に慣れているとは言え、トム・クルーズの通訳者に対する心遣いが素晴らしく、通訳の方もスムーズに訳されています。

事前打ち合わせは重要

先ほど「通訳者は会議等における、話者の話を相手に伝わる様に手助けする伴走者でありパートナー」と書きましたが、初対面で、通訳する相手がどの様に考えて、話すのか?を瞬時に理解することは、通訳者でも不可能です。

また、会議の内容によっては多くの専門用語や、業界用語、時には社内用語が出てくる場合もあります。

ですので、会議に参加する通訳者に、事前に会議の資料を渡しておく事は重要です。通訳者は、その資料を元に単語帳を作ったり、事前資料を作成し、より会議がスムーズにいく様に準備をします。

また、会議等に参加する人の名前の読み方、肩書なども、当日いきなり渡すより、事前に知らせておいた方が安全です。(急遽の参加や変更は仕方がありませんが)人の名前の読み方ほど複雑なものはありませんし、人によっては肩書にこだわる方もいらっしゃいますから注意が必要です。

さらに、会議等の前にお互い顔合わせをして、話の内容の確認はもちろん、話し方や声のトーン、話すスピードなども予め知っていると、通訳者は安心して本番を迎えることが出来ます。

因みに司法の場での通訳が対象ですが、法務省のWebsiteには「通訳人を介して話をするときの留意点」と言う資料が掲載されています。参考までにチェック頂ければ幸いです。

通訳者は、話者(クライアント)のメッセージを届けるという大事な役目を担ってます。そのための努力は惜しみません。

ですので 通訳者を介して話しをする場合は、ぜひ「二人三脚」をする相手として、自分の気持ちを相手に届けるパートナーとして、通訳者を信頼し、より良い結果につなげて頂ければと思います。

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