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アメリカと日本の裁判の違い ~通訳者の視点から・その1 ~

2023年1月アメリカで行われた裁判で、弊社代表 通訳の右田アンドリュー・ミーハンが通訳を務めました。今回のブログでは、その際に気が付いた「アメリカと日本の裁判所の違い」等を、通訳者の目線から改めてご紹介したいと思います。(その1)

アメリカの裁判所

日本にも高等裁判所や、地方裁判所など5種類の裁判所がありますが、アメリカには大きく分けて2つ、連邦裁判所 / federal court と 州裁判所 / state court があります。

簡単に説明すると federal court は合衆国法で裁く裁判所、state court は州法で裁く裁判所になります。※詳細は以下動画にて説明されているのでご興味のある方はチェック下さいませ。

裁判所に入る時

裁判所に入る為には、通行証の有無にかかわらず、空港にある様なエックス線の機械を全員通ります。この機械は一般的に metal detector と呼ばれており、銃器などの鉄類を所持していないかを確認する為に利用されています。

裁判所の metal detector では、ベルトは外し、コート・上着は脱がなければなりません。コンピューターや携帯電話、その他デジタル・デバイスも基本的に持ち込みは禁止です。

通訳者が裁判でコンピューターやデジタル・デバイスを使用する場合は、その法廷担当の裁判官からの許可証が必要になります。

許可証には法廷内のWi-Fi使用を許可する・しないの欄もありますが、基本 Wi-Fiはどこの裁判所も使ってないケースが多く、全てLANケーブルで結ばれています。

なお、通行証を持っている人は専用通用口を利用、持ってない人は一般通用口を利用して裁判所に入ります。

  • 専用通用口利用者
    (通行証が必要)
    裁判官、登録通訳者、職員
  • 専用通用口利用者
    (身分証明書提示で利用可)
    弁護士、検事(刑事事件の場合)
  • 一般通用口利用者
    裁判所に登録していない通訳者、陪審員、傍聴人など

裁判所ごとにやり方は多少異なりますが、ニューヨークの federal court では現在この様な対応をしています。

法廷

日本の場合、裁判官が利用する法廷は裁判ごとに異なりますが、アメリカの場合は、それぞれの裁判官に法廷が与えられており、毎回同じ法廷で裁判が行われます。(例:301法廷はA裁判官が使用する等)

裁判所に常駐
勤務する通訳者

アメリカの場合、裁判所に常駐・勤務する通訳者がいます。そのほとんどが「英語/スペイン語」の通訳者です。彼らはスタッフ通訳者と呼ばれおり、裁判所内での通訳全般はもちろん翻訳も行います。

スタッフ通訳者のオフィスは、だいたい裁判所の2階にあります。人員構成はチーフ通訳者 / Chief Interpreter が 1人、通訳者 / interpreter が 6名くらいです。その他 IT担当などのスタッフがいる場合もあります。

これは、アメリカは多民族国家の為 公用語は英語ですが、スペイン語のみしか話せない人も多くいる為です。

スタッフ通訳者になるには 国家試験 / federal certification に合格する必要があります。試験は、筆記と実技が行われ、合格率は国連の試験と同じく約1割ほど。時には1割に満たない時もあります。

日本の場合

日本では、裁判所に常駐する通訳者はおらず、案件発生ごとに依頼されます。

東京地裁の場合、依頼された通訳者は先ず訟定(しょうてい)事務室へ行き、そこで朗読される文面、結審の文面等が渡される他、裁判体(裁判官や書記官のこと)との打ち合わせが行われる場合もあります。

訟定事務室での準備が終わると、当日の法廷に案内されます。法廷への行き来は、職員だけが利用する裏のエレベータ等を利用します。

日本で
裁判通訳者になるには

弊社代表 通訳者の右田アンドリュー・ミーハンが、東京地裁の裁判通訳者に登録した2004年には、まず日本での通訳者が参加する事件の裁判を傍聴し、感想文を書かされたそうです。

その後、訟定事務室にて裁判官と書記官による面接を受け、それまでの実績や、法廷内での振る舞いの基本について理解してるか等を聞かれたそうです。

さらに日>英、英>日のサイトラ sight translation:司法協会が出版する刑法概説、刑事訴訟法概説の本から、何節かをその場で日英、英日に通訳をさせられ、その後 法廷通訳者セミナーを受けたそうです。

セミナーには「初級」「中級」「フォローアップセミナー(上級)」がありますが、日英の通訳者で、廷通訳者のフォローアップセミナーを修了している通訳者は数えるほどだそうです。

※弊社代表 通訳者の右田アンドリュー・ミーハンは全てのセミナーを修了しています。

残念ながら日本では司法通訳の公的資格は、2023年現在でも存在していません。

しかし、裁判員裁判が日本で開始された2009年に、司法通訳の技能と地位の向上を目的とし、設立された 一般社団法人 日本司法通訳士連合会は、最終的には諸外国にあるような司法通訳の資格制度が日本でも整備されることを目指して、司法通訳技能検定試験や司法通訳養成講座の開催等の活動をされています。

一般社団法人 日本司法通訳士連合会
Website
http://japanlawinterpreter.org/

2023年度の司法通訳養成講座は、5月13日から開講されます。本年度も、教室とZoom、DVDを併用したハイブリッドでの開催とのこと。

申込は3月3日から受け付けが開始されています。ご興味のある方は以下リンクより詳細をチェック下さいませ。

2023年度・司法通訳養成講座のご案内
http://japanlawinterpreter.org/course/

司法通訳者の待遇

日本では、通訳者の待遇を定めた規定も特になく、支払われる料金も公開されていません。裁判での通訳料の多くは、裁判官の裁定で決められています。

また 例えば裁判で、2名体制で通訳をした場合、通訳者が通訳を行わない時間は、支払いの計算に入れてもらえない場合もあります。

しかし通訳を行わない時でも、通訳者は審議を聞き、現在通訳をしているパートナーのサポートしてるので、実際には稼働をしている訳です。この料金裁定や待遇について不満を持つ通訳者は多く、裁判所の仕事を受けたくない理由にもよく出てきます。

一方、アメリカでは連邦裁(=地裁)での通訳者の料金は、インターネット上に公開されています。また裁判所に常駐するスタッフ通訳者の、チーフ通訳者の年俸は 150,000~170,000ドルと言われています。

https://www.uscourts.gov/services-forms/federal-court-interpreters

法廷での文化の違い

アメリカでは、どこの裁判所も裁判官に対しての失礼なふるまいは、けして許されません。

細かなルールがある裁判官もいて、弊社代表 通訳者の右田アンドリュー・ミーハンも、緊張して、法廷でちょっとしたミスをしてしまった時に、裁判官に物凄く怒鳴られたことがあるそうです。

一方、日本では弁護士が裁判官に対して、横柄な言葉遣いをする事もあるそうで、例えば「○○してもらえますかな?」等と、裁判官に言う弁護士もいるとか。この様な物言いは、年配の弁護士が若手裁判官に対してする事が多い様ですが。

しかし日本の法廷では、裁判官が、弁護士または検察官の質疑などの発言で意図が不明確な場合「通訳者のためにもっとわかりやすく質問する様に」や、「長文は切って聞くように」等と言ってくれるので助かるとのこと。

アメリカでは、この様な場合 裁判官はただ「言い直せ」とかしか言いません。

David MarkによるPixabayからの画像

他にも多くの違いがあります。この続きは後日改めて、このブログにてご紹介したいと思います。

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