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司法通訳について

ミーハングループ通訳部門では、訴訟関連や司法関連の通訳を数多く手掛けています。今回は、どの様な場面で司法通訳が利用されるのか、司法通訳の現状等、なかなか知る事のない司法通訳のアレコレについて、少しご紹介したいと思います。

司法通訳が必要な場面とは?

日本国内において、どんな時に司法通訳は必要だと思われますか?

パッと思いつくのは、やはり「犯罪」関係ではないでしょうか。事件や犯罪の捜査や、警察や検察の取り調べ、そして裁判に容疑者として、または証人として、非日本語話者(日本語が母語でない人)が出廷する場合、司法通訳者が必要となります。

さらには非日本語話者(日本語が母語でない人)が受刑者となった場合、刑務所での通訳も司法通訳者が行います。

また「犯罪=刑事事件」だけではなく、民事事件や民事調停の場合でも、非日本語話者(日本語が母語でない人)が関係する場合は、司法通訳者が通訳を行います。

民事事件や民事調停では、契約に関するトラブル等も対象となります。つまり雇用契約や居住に関する賃貸契約等も含まれます。

居住に関する近隣とのトラブル(騒音やゴミ出し等)や、名誉棄損等も場合によっては民事事件の対象となる場合もありますし、離婚調停や家庭でのトラブルも民事事件の対象となります。

つまり「犯罪」「非犯罪」問わず、司法の場全般において非日本語話者(日本語が母語でない人)が関係する場合、司法通訳者が通訳を行います。

※訴訟や裁判等に関係する人と言うと当事者(起きている問題に直接関わりのある人)のみと思われる方も多いかと思いますが、証人や参考人等、第三者も含まれます。

国際訴訟

司法通訳者は、日本国内の司法の場でのみ、非日本語話者の通訳だけで必要とされる訳ではありません。

日本の企業が海外の企業から訴えられた場合や、日本人が海外の企業または人から訴えられた場合、またその逆の場合も、裁判をどこでするかに関わらず、司法通訳は必要となります。

「日本の企業が海外の企業から訴えられる」「海外の企業を日本の企業が訴える」と言うと、おおごとに聞こえますが、例えば知的財産=知財関連の訴訟などはよくあります。

参考リンク:知的財産権について・特許庁「スッキリわかる知的財産権」
https://www.jpo.go.jp/system/basic/index.html

ミーハングループで1年間に手掛ける国際訴訟数(対アメリカ)は、訴訟の規模にもよりますが5~8件。特許侵害訴訟及び関連事案、契約不履行訴訟、反トラスト(価格操作)訴訟などが多いです。

特に特許侵害については企業内の知財部と連携して司法通訳を行う事が多いです。

コロナ禍での司法通訳状況

新型コロナウイルス感染拡大状況により、司法通訳の状況も少し変化しています。

国際訴訟関連は、2021年は3月あたりから少しづつ動きはありますが、スケジュールが状況によって変更となる事が多く、なかなか日程等が確定しません。また、国際訴訟に関連するデポジションはリモートで実施しています。

日本国内の案件だと、去年の9月以降 労働審判 (labor tribunal)は開かれていますが、それ以外の案件はまだまだの様です。

因みに国内の司法通訳が必要な案件で需要の高い言語は、2016年の調査結果になりますが、中国語(28.5%)、ベトナム語(20.5%)の2言語が約50%を占めています。続いてポルトガル語(9.1%)、タガログ語(フィリピン・9%)、英語(6.6%)となっています。

参考リンク:最高裁判所発行小冊子
「ご存知ですか法廷通訳」
https://www.courts.go.jp/vc-files/courts/file4/h30.1ban-gozonji.pdf

また、本来は司法通訳者の人員不足を補うために2019年に導入された遠隔通訳も、この状況下で役に立っている様です。

通訳人不足に大きな武器 検察の遠隔通訳システム、課題は質向上

 

事件に関与したり巻き込まれたりした外国人に対する事情聴取や取り調べに必要な通訳人を確保しようと、全国の各地検と支部計237カ所で来年度から、遠隔通訳システムの運用を始めることが28日、明らかになった。検察の捜査現場では少数言語を中心に通訳人が全国的に不足しており、遠隔通訳システムの導入は大きな武器となりうる。専門家は「ハード面の整備は一歩進むが、質の向上や養成の仕組みをつくることも重要」と指摘する。

2019.8.29 産経新聞より
https://www.sankei.com/affairs/news/190829/afr1908290001-n1.html

司法通訳士認定試験

国内のみならず、国際訴訟でも必要とされる司法通訳・司法翻訳(法廷通訳・法務翻訳等含む)は、現在需要に対して対応できる人が少なく、また、質の向上も急務と言われています。

一般社団法人日本司法通訳士連合会では、司法通訳士認定試験を2019年より実施。

2021年度 司法通訳技能検定試験 第1次募集(全言語対象)も、5月20日より開始となっています。同会では司法通訳養成講座も実施。前期は5月8日より既に実施されていますが、中期は7月3日からのスタートになります。

ご興味のある方は、以下サイトにて詳細をご確認下さいませ。

一般社団法人 日本司法通訳士連合会
http://japanlawinterpreter.org/

言語だけではないサポート

司法の場でも文化や価値観の違いによる齟齬は大いにあります。

以下文章は、以前ミーハングループのFacebookに掲載したものですが、謝罪1つとっても文化や価値観の違いが大きく反映されます。

罪を認める、認めないに関わらず、先に謝罪をするのが当たり前の日本において、謝罪=罪を認める事や、誰に対しての謝罪か明確でない謝罪は行わないと考える人々の態度は、反省の気持ちが無いと捉えられがちとの事。

謝罪にするにしても、何かと言い訳をする→ コレは理由が明確でない謝罪には意味がないとの考えがベースにあるが故の態度なのですが、裁判官や裁判員の印象は最悪になるそうです。

日本は他国に比べ宗教からの強い影響はありませんが、その代わり「和」を乱す事に対して厳しく対応するそうで、迷惑をかけたことへの謝罪や、気遣い、おもいやりで返す謝罪、社会と言う和の中で生活する人が風紀を乱した事に対する謝罪等を強く求める傾向にある様です。しかし、日本社会を深く理解していない人にコレを理解させるのは、非常に大変です。

そしてこの「素直」や「迷惑」も、説明する際に直訳的に他言語に訳してしまうと大きな齟齬を生んでしまう可能性があるそうです。なぜなら他言語における「素直」や「迷惑」に「和を乱す」と言う概念が無いからです。

謝罪の態度は元より、その必要性を説く場合にも言葉の概念や社会が求める事をも理解して伝えないと、誤解の上にさらに誤解を招くって事なんですね。

https://www.facebook.com/meehan.interpreter.japan/posts/2458228950900623

ミーハングループ代表の右田アンドリュー・ミーハンは、東京地方裁判所 裁判所登録通訳者として司法通訳を務めている他、法と言語学会 (Japan Association for Language and Law) の会員でもあり、アメリカやイギリス、スイス、オーストリアの裁判所認定法廷通訳者としても活動、米司法省連邦刑務所局公認通訳士、米司法省連邦捜査局(FBI)嘱託言語学者として捜査の現場や刑務所等での通訳も務めています。

ミーハングループでは、この様な経験を基に日本の司法の場における文化的違いのアドバイスや、外国人の考えを理解し、より真摯に弁護してくれる日本の弁護士の紹介等も行っています。

http://www.meehan.jp/defendant-services

Legal Aid

司法の場における通訳について、今回はご紹介しましたが、昨今残念な事に海外ではアジア人やアジア系に対する差別や暴力行為(ヘイトクライム)が増えています。

2020年9月には、日本人ジャズピアニストの海野雅威さんが、ニューヨーク市内の地下鉄の駅で暴行されて重傷を負い病院に入院されました。

CNN.co.jp :NYで暴行され重傷の日本人ピアニスト、手術受け回復中
2020.10.12
https://www.cnn.co.jp/usa/35160789.html

以下動画は、2020年11月に行われた海野雅威さんを支援する配信コンサートの告知動画です。


#StopAsianHate や #StopAAPIHate(Asian American Pacific Islander=アジア・太平洋諸島系アメリカ人) と言うハッシュタグを眼にした人もいらっしゃると思いますが、アジア人やアジア系の人々に差別/暴力行為をする人も残念ながらいます。

しかしそれに抗議をし、被害にあった人を支え、アジア人やアジア系の人々に連帯を示してくれる人々も沢山います。

以下は、アジア系アメリカ人やアジア・太平洋諸島系アメリカ人へのヘイトに反対するアメリカの非営利団体 StopAAPIHate のWebsite / Twitter のリンクです。
Website
https://stopaapihate.org/
Twitter @stopaapihate
https://twitter.com/stopaapihate

また日本の法テラスの様な、ニューヨークの弁護士組織 Legal Aid のWebsiteリンクは以下になります。Legal Aidは必要であれば通訳の手配もしてくれます。またニューヨークやアメリカだけではなく、この様な組織は世界各国にあります。
Legal Aid
https://legalaidnyc.org/

もちろんあなたが日本人であり、海外で何かトラブルに巻き込まれた場合は、各国にある日本大使館が必要な手助けをしてくれますが、こう言った情報を知っていると、さらに安心です。

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