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意思を通訳する / 機械翻訳ではカバーしきれない通訳・翻訳の世界

本ブログでも何度も取り上げている「言語をただ置き換える事が、通訳や翻訳の仕事ではない」と言う事について、動画も交えながらご紹介。AIを利用した機械翻訳ではカバーしきれない通訳や翻訳の仕事について、改めて説明します。John HainによるPixabayからの画像)

通訳・橋本美穂さんの
TED 動画

通訳者の橋本美穂さんは、日本外国人特派員協会で行われた「ふなっしー」の会見や、「ピコ太郎」さんの会見などで、一般的に訳しにくいと言われているギャグやジョークも含めて、訳した事で知られています。

TEDの動画で橋本さんは、通訳は「英語から日本語に正確に訳す仕事」と思われているかも知れないが、ご自身の通訳は、それとは異なると話しています。どう言うことでしょうか?

まずは動画をご覧ください。

冒頭でもご紹介した船橋市の非公認キャラクターであり、梨の妖精でもある「ふなっしー」や、PPAPで知られる「ピコ太郎」さんの通訳、特にジョークを訳すのは大変難しかったと話す橋本さん。

ピコ太郎さんの「おどろ木、桃の木、二十世紀!」を聞いて頭が真っ白になり、上手く訳しきれなかったと後悔されたそうです。

これは「き」と言う言葉で韻を踏んだギャグですから、どんな通訳者でも訳すのは難しいと思いますが、いかがでしょう?

その後に橋本さんは、こう続けています。

通訳者は『一言一句』正確にとは言っても、辞書通りに訳している訳ではありません。

通訳は、聞き取った(話し手が話した)内容から「情報と感情」を受け取り、それを頭の中でイメージを描きます。

次にこのイメージを参考にしながら、英語でコレを再現しようと試みます。

橋本美穂

橋本さんは、日本語で話されたジョークの面白さを、英語でも表現したいと話しています。これは本当に大変な事です。

通訳をする場合、笑いは「文化」や「常識」と言った共通認識を基に成り立っているものや、またはピコ太郎さんの様に韻を踏んだりする事で 笑いを取るケースが多く、共通認識が無かったり、別言語にすると韻を踏むことが出来ない為、その面白さが伝わりずらいからです。

外交などの場では、こう言った訳しにくいジョークやギャグを話し手が話した場合、「今、面白い事を言ったので笑ってください」と通訳者が言うこともあるくらいです。(実際にその様なテクニックがあります)

橋本さんは「イメージを描き、英語で表現」することで、難しい笑いを「訳す」ことにも挑戦されています。

橋本美穂さんブログ
https://nexdoor.jp/
通訳翻訳ジャーナル
橋本美穂さんインタビュー記事
https://tsuhon.jp/interpretation/interview/2020/

文化の通訳

橋本さんのTEDでのスピーチ動画を最後まで御覧頂ければわかる通り、橋本さんは「言葉を単に置き換えるだけではなく、文化の通訳をする事が大事だ」と言う話をされています。

これはミーハングループの合言葉「言語だけに留まらない 文化・ビジネス・心の橋渡し」にも通じる事です。

日本語を英語、または別の言語に訳す場合、文法や単語が違うのはもちろん、言語における文化、そして言語の背景にある文化や常識が違うので、それを考慮して訳さないと、意味が不明となったり、伝えたい内容の真意が伝わらなかったり、話は通じているけれど不穏な空気になったりする場合があります。

これは翻訳も同じです。

通訳と翻訳は「話された言葉をその場で訳す」のか、「書かれた言葉を時間をかけて訳す」のかの違いはありますが、両方とも「言葉を置き換えるだけの訳」をした場合、同様な問題が起こります。

TED動画では、橋本さんは「検討をします」と言う言葉を例に、日本語では意思を明確に示さない事が良いとされる時もあるが、英語は当然意思は明確にするものでしょうと言う感覚だと話しています。

これはコミュニケーション文化の違いであり、通訳者は、この「検討します」に込められた意思を読み取り、訳す事が重要だと話しています。

個人個人の違い

日本語を英語や別言語に訳す時、言葉の文化の違い、背景にある文化や常識の違い、コミュニケーション文化の違いを考慮して訳さないと、トラブルが起きると言う話をしましたが、これらは実は個人差があります。

通訳を入れて話す事になれている人や、話す相手の国の文化や常識を良く知っている人は、そう言った事を考慮して話す場合もありますが、そうでないケースも、けして少なくはありません。

また、個人個人によって異なる話す時の態度や癖等もあります。

これらを考慮し、相手の文化にとって失礼な態度や言い方、表現などは避けながら通訳者は通訳をしないと、例えば商談などの場合は、上手く行くものも上手く行かなくなります。

通訳者からのTips

言語を訳す以外で、通訳者に求められることは案件ごとに異なります。

司法に関わる場合は正確かつ公平な立場であることが求められますし、医療の場合は正確でありながらも、命に係わる事なので速さも求められます。

医療の通訳の場合、治療方法や身体に関する相手の文化や宗教観等の違いを考慮して訳したり、補足説明が出来ないと、治療できることが出来なかったり、トラブルに発展する場合もあります。

日本語だとドキドキ、ズキズキ等 擬音表現も多いですが、その人特有の擬音表現もありますし、体調が悪すぎてハッキリ話せなかったり、パニックをおこされている患者さんなどもいらっしゃいますから、何度も言っている事を確認して、正確な情報を引き出す技術も必要とされます。

また、外交の場やビジネスでの通訳、つまり商談 / 会談の場や会社同士のやり取りの中での通訳であれば、その「場」が設けられた目的が達成できるように、話し合いがスムーズに行われる様に通訳する事が求められます。

とは言え、どの国にも色んな性格の人がいます。

例えば、英語側の相手が合理的に事を進めるために挨拶もソコソコに話を始めたり、日本の事を良く知らないため 横柄な態度を取ったりする事もあります。そういう場合、態度を反映した表現を使って話すケースが多く、それをそのまま訳してしまうと大変失礼であったり、不遜な物言いに聞こえたりするので、通訳者は訳す場合「言葉の表現」の選び方に注意をする必要があります。

通訳者は、クライアント(通訳を依頼した側)と事前に打ち合わせしていますから、依頼主が望む結果を理解していますし、その結果に結びつく様に、言語を訳しながら「場」を作っていく必要があるのです。

クライアントから好かれる通訳者は Thank you という言葉ひとつでも、話の前後の内容を踏まえて「ご協力のほどお願い致します」や、「これからもお世話になります」等と、その言葉に込められた「意思」や「意図」= 空気読みながら訳しています。

繰り返し同じ話が出てきた場合は、相手に変な疑念を抱かせない様に、話をまとめて訳す場合もありますし、日本で普通は謝るところで、英語側が謝ってない場合は、話を捏造したりはしませんが、謝罪の意味ともとれるような表現を使って訳す事もあります。

とは言え、残念ながら「言語を訳す」ことのみに集中し過ぎてしまい、そう言った「文化の通訳」に配慮出来ない通訳者もいます。

そして「文化や背景情報、異なる文化の違い」を考慮しない通訳者が入った結果、商談や案件が拗れてしまう場合もあります。

ミーハングループでは、そういった「拗れてしまった案件」の修復、関係の再構築と言った「場」での通訳はもちろん、この様な事が起きない様に、または起きてしまった場合のアドバイザリーやコンサルティング等もしています。

右田アンドリュー・ミーハン

言語だけを訳すのが
通訳・翻訳 ではない

当ブログ「テクノロジーと通訳.翻訳」の記事でも書きましたが、通訳や翻訳に携わる人々は、やみくもにテクノロジー、つまり 翻訳ソフトやツールを否定している訳ではありません。

むしろ便利なツールも上手く利用・駆使しながら、より良い異言語/異文化コミュニケーションを図れるように、サポートをするのが、通訳/翻訳者の使命と考えている人が多いと思います。

今後は、AIなどを使った機械翻訳の精度も、今まで以上にどんどん良くなるでしょう。しかし「Aと言う言語をBと言う言語に置き換える」だけが、通訳や翻訳の仕事ではありません。

文化や常識、個人個人の違い、背景情報等を考慮しながら、より良いコミュニケーション / 関係を構築する為に、言語と言う専門スキルを使いながらサポートする事が、通訳/翻訳の仕事の真髄であるとミーハングループは考えています。

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通訳翻訳ジャーナル
コラム

Web版 通訳翻訳ジャーナルにて連載中の、弊社代表・通訳者 右田アンドリュー・ミーハンのコラム「通訳者がレクチャー!最新ニュースで学ぶ英語表現」の第4回「アカデミー賞/Academy Awards でよく使われる英語表現」が、2024年2月27日公開されました。

今回は、3月11日にロサンゼルスのドルビー・シアターで授賞式が開催される第96回アカデミー賞を前に、映画の祭典で出てくる定番表現&昨年の注目スピーチの英語表現等を紹介しています。ぜひチェック頂ければ幸いです。

また当ブログには 第96回 アカデミー賞ノミネート 「君たちはどう生きるか」の英語タイトル と言う記事も掲載しています。こちらも併せてチェック頂ければ嬉しいです。

通訳者がレクチャー!最新ニュースで学ぶ英語表現」第4回
https://tsuhon.jp/interpretation/column/n_english04/

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