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「通訳/翻訳についての質問」 回答編

昨年末から本年始にかけて、このブログで「通訳/翻訳について」の質問を募集致しました。多数のご応募 誠にありがとうございました。「通訳/翻訳者になる為には」「定訳」「ポストエディット」「遠隔通訳」についてのご質問を頂きましたので、弊社代表通訳 右田アンドリュー・ミーハンによる回答を掲載致しました。質問されていない方も参考になる情報もあるかと思いますので、チェック頂ければ幸いです。

通訳/翻訳についての
質問

2021年12月20日~2022年1月4日まで、本ブログでは年末/年始特別企画として 「通訳/翻訳について」の質問を募集致しました。

通訳/翻訳者になる為の勉強方法や、スキルアップを始め、多数のご質問をお寄せ頂きました。誠にありがとうございます。今回は頂いたご質問に対する、弊社 代表通訳 右田アンドリュー・ミーハン の回答をご紹介致します。

なお、ご質問頂いた方の個人情報や、質問に含まれた個人的な内容は伏せて掲載しております。また重複した質問内容については、コチラで編集し、1つの質問としてご紹介、回答しております。悪しからずご理解・ご了承下さいませ。

通訳/翻訳者に
なる為の勉強方法

日/英の通訳者になりたいと思い、手始めに英語のスキルをアップする為に TOEIC の勉強をしています。でも実際のところTOEICで良いのか?TOEFLの方が良いのか、または他の英語資格試験の方が良いのか気になっています。

通訳になる為には、英語も含めてどんな勉強をしたら良いですか?また通訳と翻訳だと勉強方法とか違いますか? 教えて頂ければ幸いです。

TOEICやTOEFLは、英語能力の為のテスト/資格なので、通訳になる為の勉強としては、意味が全くないとは言いませんが、適しているとも言い難いです。

TOEICやTOEFL等の英語資格試験で高い点数を取る=高い英語力は必要ですが、通訳/翻訳者は英語力だけが大事な訳ではありません。

例えば、通訳者の場合「その場で訳す」事が求められるので、瞬間的に話者が話した内容を把握/理解し、短い時間で、わかりやすく的確な言葉で訳すスキルが必要になります。

それを実現するためには、英語や他言語だけではなく、母国語(母語) 、この場合は日本語力が豊かであることも必要です。

また、通訳者は英語が母国語(母語)の人の通訳だけをするわけではありませんし、英語が母国語(母語)の話者でも、業界や人によって使う言葉や話し方、言い回しは様々なので、応用力や柔軟な対応力も求められます。

翻訳者の場合は、通訳者と違って短い時間で訳す必要はありませんが、やはりプロになるためには、別の専門スキルを身につける必要があります。

ですので、プロの通訳や翻訳者を目指すのであれば、訳す言語の語学力(日/英であれば日本語と英語の両方)を磨くと同時に、通訳学校または翻訳学校で、必要な専門スキルを学ぶ必要があります。

具体的にどれくらいの英語スキルがあればプロとして通用するのか知りたい場合は、通訳であればビジネス通訳検定のTOBISのサイトに、試験問題出題例が見られるページがありますので、そちらでチェックしてみるのも1つの手です。

翻訳であれば一般社団法人 日本翻訳協会(JTA)や、一般社団法人 日本翻訳連盟(JTF)のサイトに、検定や資格、それからセミナーの情報等も掲載されていますので、チェックして、試してみるのも良いかも知れません。

通訳/翻訳者になる為の学校や、どんな専門スキルが求められるか、通訳/翻訳にはどんな種類があるのかについては、イカロス出版さんが運営する通訳翻訳Webに掲載されている情報や、通訳翻訳ジャーナル他書籍等も参考になると思います。まだの場合はぜひチェックしてみて下さい。

定訳がまだない
訳語の調べ方

定訳とは「(評価が)定着した訳語」つまり、改めて訳す言葉を探したり、作り出す必要のない訳語と言えば良いでしょうか。決まった訳語と言っても良いかも知れません。

しかし世の中では、次々と新たな言葉が出てきたり、生み出されたりします。次のご質問はその様な「定訳」のない言葉についての質問です。

定訳がまだない言葉が通訳の現場で出そうな場合、また翻訳する際に出てきた時、どのように訳しますか?または訳語を決めますか? よく使う辞書や方法、リソースなどがあれば教えて下さい。

私の場合、英語から日本語であれば、Google等検索サイトにてNHKや信頼できる報道機関、訳す言葉の専門機関名+訳す言葉で検索してみます。

例えば報道等で話題となっている言葉であれば「NHK+調べる言葉」にて検索。学術表現等であれば「大学名(例:東京大学)+調べる言葉」で検索をします。そして検索結果で出てきたWebsiteや記事、学術書等をチェックしまくって確認します。

日本語から英語の場合も同様で、信頼できるニュースサイト(BBCやCNN、新聞メディア等)+調べる言葉、学術系の言葉であれば Harvard, Yale, Stanford, Oxford + 調べる言葉で検索します。

定訳の無い言葉は最新の言葉である事が多い為、辞書等で調べるよりも Googleを始めとした検索サイトで調べるのが早いですが、その分、検索の技術を磨く必要があります。辞書も調べ方の技術が必要ですから同じですよね。

また最新の言葉や表現(またその言葉の訳し方)を知るため、日頃から様々なメディアやニュースをチェックしておく事もおススメします。

残念ながら、その様に日々「新しい言葉」をチェックしたり、検索をしても該当する言葉が見つからない場合は、私は翻訳だったら原文のまま(英→日の場合はカタカナ表記、日→英の場合はローマ字表記)にして注釈を入れる等しています。

通訳の場合は、まずは直訳してみて、相手が理解できない場合はその場で質問をしてもらい、やり取りを介して理解してもらうか、事前の打ち合わせで馴染みのない言葉については補足説明をした方が良い事を、話者にアドバイスします。新しい概念や言葉は、言葉だけを訳しても相手に伝わらない事もありますから。

ポストエディット

最近「ポストエディット」と言う言葉を良く耳にします。このポストエディットは、現在翻訳の場では多く行われていますか? または今後 多く行われる可能性はありますか?

まず「ポストエディット」とはナニかですが、最近精度がかなり向上してきた機械翻訳を使って1度翻訳した内容を、翻訳者がチェック。適切ではない表現を直したり、間違って訳されている内容を修正したり、用途に合わせて編集し直したりする翻訳方法の事を言います。

Machine translation post-editと英語では言い、略して MTPE または PE と表記される場合も多々あります。

「ポストエディット」 は、作業時間の短縮やコスト削減の為、翻訳の場では導入されつつあります。ミーハングループでもMTPEの案件は、割と多く手掛けていますし、今後 機械翻訳の精度の向上に伴い、案件が増える事が予想されます。

一方で「機械翻訳の精度が向上してるのなら、翻訳者はいらないんじゃないの?」と言う見方をされる方もいますが、例えば機械翻訳された内容が、原文と相違ないか?間違った表現や、誤解を招く表現をされていないか?チェックは必要ですよね。

短い文章であったり、簡単なやり取りであれば機械翻訳任せでも問題が発生する可能性は低いですが、会議の資料であったり、マニュアル、契約書、または書籍等の翻訳をチェックなしで使用する事は出来ません。

翻訳文章でなくても、重要な書類は書いた本人以外の誰かが内容をチェックする事は当たり前ですから、そう言う意味でも翻訳者がいらないと言うのは極端な見方だと思います。(将来的に、現在の様に100% 人が翻訳するケースは減るかもしれませんが)

機械翻訳については、例えば「英語⇔フランス語」の様な、文法等が似た言語を訳す場合は、精度がかなり向上したと言われています。しかし「英語⇔日本語」の様に文法や、文章の構成/構造が全く異なる言語を訳す場合は、まだまだとも言われています。

機械翻訳した文章と原文を読み比べたら、相当修正しなければならなず、それであれば初めから人が翻訳した方が早かったと言うケースもある様です。

また、公的機関に提出する文章を機械翻訳し、翻訳者のチェックなしで提出したら、先方が激怒(意味が全くわからない/不適切な訳があった為)し、突っ返された場合もあるとの事。

その様な状況を踏まえて、ご質問にお答えするのであれば「ポストエディットは今後増える可能性はあるが、全ての翻訳作業が機械化され、翻訳者はポストエディットだけをすると言う状況は、かなり遠い未来の話」と言うことはできると思います。

遠隔通訳について

コロナ禍と言う事もあり、遠隔通訳が増えていると聞きます。遠隔通訳で必要なスキルや、遠隔通訳で注意すべきことがあれば教えて下さい。

遠隔通訳では本来の通訳業務(A言語をB言語に訳す)以外にも、通訳を適切に行う為の環境整備や、チェックを行うスキルも必要となります。

環境整備とは、安定してインターネットに接続できる高速ネット回線や、多くの作業を素早く処理してくれる高スペックのPCを用意すると言う意味です。

また、それらの機器が通訳を行う会議の際に、トラブルを起こさない様にチェックをしたり、場合によっては早急に直したりするスキル(ITスキル等)も求められます。

とある通訳者が言った例えですが、遠隔通訳での通訳者の立場は以下の様なものです。

今までの通訳者は、専門家により完璧に整備された飛行機のパイロットの様なものだった。途中、乱気流や悪天候があっても、上手く回避したり、対処して、乗客を確実に目的地に運ぶのが任務だった。

つまり整った環境の中で、途中コミュニケーションにおけるトラブルがあっても、最終的には会議が上手くいくように、言語面でサポートし、ナビゲートするのが通訳者の仕事だった。

しかし現在のオンライン会議アプリを使った遠隔通訳では、環境の整備やチェックも自分たちで行う必要があるし、会議中のコミュニケーション・トラブルはもちろんの事、機材トラブルも自分達で対処する必要がある。

つまり遠隔通訳を行う場合、通訳者は対面の通訳よりも多くの業務を担わなければならない場合があります。

コロナ禍でニーズがさらに高まった遠隔通訳は、主にオンライン通話アプリを使用した会議やセミナーで実施される事が多いですが、他にも様々な種類があります。下記記事で紹介しているのでチェックしてみて下さい。

遠隔通訳を行う
通訳者が抱える問題

「遠隔通訳を行う場合、通訳者は対面の通訳よりも多くの業務を担わなければならない場合がある」と先ほど書きましたが、これ以外にも遠隔通訳には様々な問題があります。

遠隔通訳では、通訳者の疲労のペースが対面より早まる事:これは話者がマイクを使わない、またはスピーカーフォンで話す、話者のいる部屋の天井が高いため音が歪む、話者がマスクを着用している為、発話が濁る等々の理由により、話を聞きとる為に通常以上の集中力が必要だからです。

また話者の表情やボディランゲージが(カメラの性能や表示サイズ、カメラをオフにしている 等の理由により)見えない為、発言に込められたニュアンスが汲み取りずらく、正確な通訳をする事が困難な場合がある事もわかっています。

さらに複数人で通訳を行う場合、対面で通訳する時よりも、チームワークを上手く行う事が難しい場合もあります。

AIIC (国際会議通訳者連盟) は先日 、遠隔通訳含むオンラインでの問題について通訳者からの声明文を発表しました。

この宣言 Declaration on Auditory Health では、遠隔通訳で通訳者が抱える健康被害について言及しており、遠隔通訳に起因する耳鳴りや聴覚過敏などのさまざまな聴覚障害、及び めまい、吐き気、錯乱、意識混濁、不眠症、頭痛、集中力の低下、視神経過敏症について対処する事をクライアントに求めています。

また Declaration against Online Bullying and Defamation of Conference Interpreters では、インターネット上、主にソーシャルメディアでの通訳者に対する誹謗中傷について言及しています。

AIIC (国際会議通訳者連盟) のWebsiteには、遠隔通訳における推奨事項やガイドラインが掲載されています。こちらも併せてチェック頂ければ幸いです。

Distance Interpreting (AIIC Website)

回答者:右田アンドリュー・ミーハン

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