前回のブログで、ザックリではありますが「通訳と翻訳の違い」を始め、通訳の種類や翻訳の種類をご紹介しました。今回は、現在注目を集めている「機械翻訳・自動翻訳」について、通訳・翻訳会社の視点から、こちらも簡単ではありますが、ご紹介したいと思います。
直訳と意訳
前回のブログでは「通訳と翻訳」の種類や違いについて、簡単ではありますがご紹介しました。
その中で、あえて触れなかった「直訳と意訳」について、「機械翻訳 / 自動翻訳」のお話をする前に少し触れておきたいと思います。
直訳とは、言葉の意味を選ばずそのまま訳す事です。例えば日本語から英語であれば、本をBookに訳す事です。
モノの名前(名詞)であったり、単語であれば言葉を置き換えるだけで済む場合もあるのですが、人の会話、特に高度な駆け引きを必要とする場では、比喩やことわざ、国や地域、言語に由来する言い回しはもちろん、会話の流れによっては、発せられた言葉に多くのニュアンスを含む場合があります。
それらを無視して、直訳をすると意味が通じなかったり、誤解を生んだりする場合があります。
例えば会議の場で「大丈夫です」と発言があった場合、その「大丈夫」は「問題がない」と言う意味なのか、提案された事を断る為に発した「大丈夫」なのか、会話の前後を考えて訳す必要があります。これが意味を踏まえて訳す事、つまり意訳です。
意訳が許される場
・許されない場
発せられた発言や書かれた言葉の意味が通じる様に訳す「意訳」は、様々な場面で翻訳者は行っています。
大ヒットディズニー・アニメ「アナと雪の女王」の主題歌「Let it Go」のサビの部分の歌詞の和訳が、本来の意味と違うのではないか?と少し前にネットで話題となりました。
Let it Goを直訳すると、前後の内容によって異なりますが「そのままで」や「××を解き放つ」と書いてあります。
この歌詞を訳した方はインタビューで、映像との口の動きの重なり(リップ・シンク)や、メロディの音の数、そして観客の日本人に受け入れられやすい言葉への訳に気をつけたと語られています。
※参考リンク :日本版主題歌が世界中から大絶賛!『アナと雪の女王』翻訳家が明かす訳詞の苦労(シネマトゥデイ)
さて、なぜ「Let it Go」は「ありのままで」と意訳されたのでしょうか?この場合の「Let it Go」は「次へ移るために××を解き放つ」と、解釈されたのではないかと思われます。
歌っている映像との違和感のなさや、音の数など、様々な条件がある中で、言葉そのものの意味に執着し過ぎず、ストーリーを理解する事によって、この曲の「Let it Go」 は 「Let it go and be yourself」である事を踏まえた日本語の歌詞「ありのまま」に意訳され、そして多くの人に受け入れられました。
映像の字幕や歌詞、また文学等においては、様々な条件を踏まえ、コンテンツを楽しむ対象にあわせた翻訳=意訳が必要となってくることの良い例と言えるのではないでしょうか?
通訳の場合
通訳の場合、翻訳ほど大きく意訳をする場、また大きな意訳が許される場と言うのは多くありません。
前回のブログでもご説明しましたが、通訳の場合は翻訳と違い「適切でわかりやすい言葉を探す時間」は、あまりありません。発せられた言葉を、瞬間的に訳す必要があるからです。ですので本来の発言と大きくかけ離れた意訳をする事は少ないです。
それでも会議や外交の場で、話者が相手に誤解を生むような発言をした場合は、発言の意味を汲み取って、別の言い方に訳す事があります。
例えばことわざと言うのは、それぞれの国の文化や歴史に由来する事が多く、そのまま訳しても相手に全く通じない場合があります。
日本語の「藪から棒」をそのまま訳しても、相手には全く通じませんから「藪から棒」が意味する「突然」を、英語の場合だったら「suddenly」にしたり、話の流れを踏まえて適切な表現に訳にします。
さらに冗談の場合は、国や文化、その時の状況、相手の常識と行った事も大きく関連してくるので、外交の場で訳しにくいジョークが出た場合、通訳者が「いま、相手の方はジョークを言われましたが、それを説明していると大変長くなるため、笑ってください」と言う事もあります。長々と説明されたジョーク程、面白くないものはありませんから。
その他にも、意訳とは少し意味合いが異なりますが、曖昧表現が多く、行間を読む事で意味が成立する日本語を他言語に訳す場合は言葉を補足したり、会議や外交の場では、クライアント側が不利となる発言をカットして訳す事も通訳者の場合はあります。
意訳とも少し違うローカライズ
直訳と意訳以外に、翻訳や通訳の場で使用される言葉に「ローカライズ( localize)」があります。IT業界等でもこの言葉は使われていますが、地域や国にあわせた変更と言えば良いでしょうか。
少し前にアニメ「ドラえもん」がアメリカで放送される際に、アメリカ人にも受け入れられやすい様に、生活様式等の仕様変更、例えば食事の際に使うお箸がフォークに、ドラえもんがタヌキに間違えられて激怒する場面は「アザラシに間違えられて怒る」という設定に変更された事が話題になりました。
※参考リンク:「ドラえもん」史上初の“ローカライズ版”で全米進出!(シネマトゥデイ)
意訳とローカライズの違いについては、また別の機会に改めてご紹介したいと思いますが、簡単に説明するのであれば「国や地域に受け入れられやすい様に(何かを)変更する事」だとご理解頂ければと思います。
意訳が許されない場
翻訳の場合、意訳が許されないのは、事細かく書かれたマニュアルや、行政・司法関係や医療関係の資料等があります。つまり最初から事細かく書かれており、言葉の正確性が求められる書類になります。
通訳でもそれは同じです。技術的な事、行政、司法、医療の場においては意訳は許されません。
とは言え日本語の場合、例えば医療の現場で「お腹がシクシクする」や「頭がズキズキ痛む」と言った表現をされる場合がありますが、これを直訳しても相手には通じないので、その場合は「刺すような痛み」や「頭を鈍器で殴られた様な感じ」と言い換える事はあります。
機械翻訳・自動翻訳
さて、現在注目を集めている機械翻訳・自動翻訳についてですが、先ほど説明した「意訳が許されない場」での利用は、比較的有効だと言われています。
機械・自動翻訳も、最近は精度が非常に高くなってきているので、短い文節での会話=例えば買い物や道を尋ねる等では、かなり正確に訳してくれますし、最初から事細かく書かれているマニュアル等を、機械・自動翻訳を用いて訳した場合、誤訳はだいぶ少なくなったと言われています。
ただし、機械・ 自動翻訳に全てを任すまでは、まだまだ至っておらず、機械・自動翻訳を使って訳された文章の場合、それをチェックする業務、「ポストエディット・後編集」と言う業務が必要となる場合も多い様です。
概要を理解するには適している
機械・自動翻訳
人の会話や、人間が書いた文章と言うのは、それぞれの国の常識や個人の表現の違い等、均一ではない場合が多く、実は非常に高度で複雑です。
さらに言えば、状況によって選ぶ言葉や表現も異なれば、言語外のコミュニケーションと言うのも、話すと言う場においては発生します。
これらを機械が全て対応・正確に訳す事は難しいと言われていますが、それでも書かれたり、話されたりした異言語の大意=概要を理解するのに、機械・自動翻訳は非常に便利です。
最近はディープ・ラーニング翻訳と言って、自然な文章に訳す機械・自動翻訳も出てきました。
参考リンク:「DeepL」の驚くほど自然な翻訳に迫る。失敗しない使い方(impress Watch)
用途や状況によって機械・自動翻訳と、人による翻訳や通訳を使い分ける事は、時間やコストの削減にもなりますし、今後通訳/翻訳の大きな流れの一つになる事は間違いないでしょう。
ミーハングループは、国際オリンピック委員会 / IOC 通訳チーフインタープリターのチームメンバー(英日/日英)を始めとし、訴訟案件や外交案件、企業間のビジネス案件など、双方の背景を充分理解しなければ務まらない通訳・翻訳案件を多数手掛けています。
今後もこれらの経験を元に、言語だけに留まらない『文化・ビジネス・心の橋渡し』を合言葉とし、通訳・翻訳と言う専門スキルを、ニーズに合わせて提供してまいります。
ミーハングループ業務実績概要については、以下リンクよりご確認頂けます。
https://meehanjapan.com/globalization/