訪日観光客増加に伴い、彼らの問題行動によるトラブルや報道も増えています。その多くは、日本の常識を知らなかったり、自国の常識と異なる事が主な理由の様です。今回のブログでは、その「常識の違い」について少し考えてみたいと思います。
常識とは
明確な規則ではないものの、その国や地域に住む人が共有する暗黙のマナーやモラルと言った意味で捉えられている言葉「常識」。まずはその意味を改めて調べてみました。
コトバンク/デジタル大辞泉 より
常識
一般の社会人が共通にもつ、またもつべき普通の知識・意見や判断力。「常識がない人」「常識で考えればわかる」「常識に欠けた振る舞い」「常識外れ」
[補説]common senseの訳語として明治時代から普及。
[類語]通念・良識・思慮・分別ふんべつ・知識・教養・心得・コモンセンス
「常識」と言う言葉は、明治時代に英語の common sense の訳語として普及したと言うのは、興味深いですね。では、併せて英語の common sense の意味も調べてみましょう。
from Cambridge dictionary
common sense noun
the basic level of practical knowledge and judgment that we all need to help us live in a reasonable and safe way:https://dictionary.cambridge.org/dictionary/english/common-sense
common sense の意味は「合理的かつ安全に生きる為の、実践的な知識や判断力」。
「一般の社会人が共通にもつ、またもつべき普通の知識・意見や判断力」が日本語の「常識」の意味なので、概ね共通する概念と言えるでしょう。
ただし、現在起きている訪日観光客等が引き起こす問題は、この「常識」として求められる「知識や判断力」が、国や地域で実は大きく異なる事が理由だと思います。
先日ネットで話題となった、訪日観光客による神社の鳥居での懸垂や、階段を逆立ちで下りる行動等は、この「常識」の違いを物語っています。
訪日チリ人女性が鳥居で懸垂 元体操選手、投稿に批判殺到(2024年10月17日 時事ドットコム)
「本当に申し訳ない」神社の鳥居で懸垂したチリ元女性体操選手が謝罪 動画投稿で批判殺到(2024年10月17日 産経新聞)
この動画の背景には、承認欲求を満たす為や自分の利益の為に「ソーシャルメディアで素敵な写真や目立つ行動の動画等を投稿し人目を集めたい」と言う、ネット文化の悪しき面がある事も否めません。
しかし基本的には、この様な行為を動画で撮影・投稿した女性たちは、神社の鳥居や神社前の階段が日本人にとって神聖な場所である事を知らなかったのが、炎上した大きな理由です。
神社はもちろん、鳥居や階段が神聖な場所であることは、日本人にとっては「常識」ですが、海外から来た観光客にとっては「常識」ではないのです。
もちろん、日本の基本的なマナーや文化を事前に勉強し、訪日する観光客もいますが、全員がそうするとは限りません。
その様な人達が「常識」の違いを理解せず、異なる文化や価値観を持つ社会で勝手気ままに振舞ったり、海外旅行で浮かれた気分になり、いつもより大胆な行動した結果、敬意を欠いていると批判を浴びる事になるのです。
そしてこの様な問題は、何も日本だけではなく、世界各国の観光地で起きています。
日本の常識は
細かすぎる?
国や地域で異なる「常識」。中でも日本の「常識」は細かく複雑と言う意見も、海外観光客や日本に居住する外国人から、聞く事もあります。
日本は「静か」で「安全」。サービスも行き届いており、おもてなしも丁寧。でも、細かいルールが多すぎて分かりにくいし窮屈。法律で決められた規則でもないのに守らなければならない事も多すぎる。
安全や人に迷惑をかけない為に必要なのも理解はするが、確認が多すぎ。日本人以外には理解不能。ただただ非効率、理解されてない、との印象を受ける。
お店で何か注文したら必ず「こちらでよろしいですか?(こちらでよろしかったですか?)」と、分かり切っているのに聞き返す。マニュアル対応とはわかるけど、柔軟性にかける。
コンビニやスーパーも同じ。『ポイントカードはありますか?(観光客なのにある訳ない)お箸は何膳ご入用ですか?(1人分しか買ってません)袋は要りますか?(缶コーヒーと肉まんしか買ってないよ?)等々』
一方で、日本に在住するフランス人YouTuber オレリアンさん は、日本に在住する(または在住を希望する)外国人や、日本の常識に対する自分の考えを撮影し、ご自身のYouTubeチャンネルに投稿されています。
確かに訪日観光客や海外の人々が高く評価する日本の良さは、細かすぎる常識によって成り立っている部分もあり、表裏一体である事は否めません。
日本の文化や良さを守るためにも、敬意を欠く振る舞いや他人に迷惑をかける行為に対しては、毅然とした態度で接することは必要です。
一方で常識の違いに気が付かず、間違った行動をしてしまう事は誰にでもあります。
訪日観光客も含め、異なる常識を持つ人々に対して、必要以上に厳しい判断を下すことなく、お互いが気持ちよく生活・共存しやすい社会を作る事は、これからの日本にとって大事な課題であるのかも知れません。
言語における常識
常識の違いで言うと、言語にも同様の問題が発生する場合があります。
言葉の意味は辞書に載っていますが、その言葉を使う時の適切なシチュエーションや、辞書に載っていない微妙なニュアンスは、その言語を母語とする人、または よく話す人にとっては「常識」であっても、慣れていない人は その常識を知らなかったり、知らないが故に誤用する場合があります。
また、ここで難しいのは世界的に共通する常識もあれば、国や地域、話す人によっても異なる常識もあると言うこと。
例えば、英語の blah blah blah は、ネットで検索すると「などなど」「何とかかんとか」「かくかくしかじか」と言った意味が出てきます。
しかし、この動画の使い方サンプルを見ると分かる通り、 blah blah blah は ネガティブな内容の話を省略する際に使われる事が多いです。これは概ね英語世界の共通認識になります。
因みに blah は1つだけでも意味があります。
from Cambridge dictionary
blah adjective
not very good, special, or interesting:
1つでもネガティブな意味の blah が3つ重なる訳ですから、 blah blah blah がポジティブ または フラットな意味または表現ではない事は明白です。
つまり blah blah blah には、省略しても良い話、最後まで説明する価値のない内容、たわ言、戯言、日本語で言えば「○○とか、○○とか なんとか」や「○○とか、○○とか グダグダ(言ってて)」と言うニュアンスが実はあります。
加えて blah blah blah はカジュアルな表現でもあります。
これを知らずに blah blah blah を使ってしまうと、時として相手に対して不快な印象を与える事があります。
通訳者からのTips
blah blah blah の誤用についてですが、私が通訳で参加した とある国際会議で使用した日本人の方がいらっしゃいました。
会議に参加したのは、日本人とインド人。会議で使用する言語は英語になります。日本人の方の中には数名英語を話す方もいらっしゃいましたが、全員ではない為、私が通訳者として参加した次第です。
詳しくは話せませんが、その会議ではインド側が希望するスケジュールが遅れる事を、日本側が説明する必要があった為、双方ともにハッピーとは程遠い雰囲気でした。
英語話者でもある日本人の方は、遅れる理由が様々である事を説明する際に「などなど」と言う意味で blah blah blah を使ったのですが、先方には「スケジュールが遅れる理由は○○とか、○○とか、まぁ、そんな感じっすね。わかるでしょ?(説明する必要ある?)」と言ったニュアンスで伝わってしまいました。
先方はこの発言を聞いてさらに気分を害したのは言うまでもなく、私もフォローをしたいとは思ったのですが、何かを言えば 英語話者の日本人の方の英語が充分でないと言ってる事にもなる為、何も言えず。
日本側は、何故インド側の雰囲気が悪くなったのか理解できず、発言した方も含め困惑の表情を浮かべる始末。
結局、これ以上険悪な雰囲気にならない様に、今まで以上に言葉を選び通訳するしかありませんでした。
もしかしたら、会議の相手が既に強い信頼関係がある人だったり、blah blah blah を使ってしまった日本人の方の英語レベルを把握している人だったりすれば、事情は少し違ったかも知れません。
発言した方も、他のシチュエーションで blah blah blah を使った際に、この様な「険悪」な雰囲気にならなったので、ニュアンスを理解する事なく使ってしまったのかも知れません。
この様な「言語の微妙なニュアンスの常識」は、使って、失敗して、初めて知る事が多いので、少なくともビジネスのシチュエーションでは、良く知っている相手以外は、丁寧の上に丁寧な表現を使われる事を、私としてはオススメします。
因みにビジネスの場で「○○等」と言いたい場合は and so on や and so forth またはこの2つを組み合わせて and so on and so forth 書き言葉では、日本でもお馴染みの etc. も使えます。右田アンドリュー・ミーハン