先日ドイツ人カップルの訪日観光記事がネットで話題となりました。注目を集めた理由は「また来たいかと言われたらごめんなさい」と書かれた記事の見出しと、その理由が「英語」だったから。でも果たして本当に「言語」だけが理由なのでしょうか?今回は、その話題となった記事を基に「異文化コミュニケーション」について、少し考えてみたいと思います。
増え続ける
訪日観光客
海外からの訪日観光客数は、2024年に入っても増え続けている様です。
6月は 3,135,600人で前年同月比では51.2%増、7月は 3,292,500人で前年同月比では41.9%増 と、2ヶ月連続で前年比を大きく上回った他、今年1月から7月までの累計では2,100万人を超え、過去最速で2,000万人を突破したとのこと。
さらに、大手旅行雑誌『コンデナスト・トラベラー』が2024年10月1日に発表した読者投票ランキング「リーダーズ・チョイス・アワード」の米国版、および英国版にて、日本が2年連続で「世界で最も魅力的な国」第1位に選出されました。
日本が「世界で最も魅力的な国」に選出!大手旅行雑誌の米国版・英国版ランキングで日本が第1位をダブル受賞(2024年10月2日 日本政府観光局)
海外から多くの観光客が日本各地を訪れており、動画配信サイトなどでは日本の素晴らしさを伝える動画等も多数投稿されていますが、一方で数年前から報道などもされている通り、オーバーツーリズムによる弊害も発生しています。
再訪しない理由は
英語?
先日 Yahoo Newsに転載された記事『「また来たいかと言われたらごめんなさい」 初訪日のドイツ人が日本で困った出来事とは(2004年10月7日 Hint-Pot)』が、ネット上で話題となりました。
X(旧Twitter)では、一時「ドイツ人カップル」がトレンドになったほどです。
注目を集めた理由は、人目をひく見出し及び記事内の以下発言でした。
「日本の旅行はとても貴重な経験でした。でも、また来たいかと言われたら、ごめんなさい。どちらというと私にはハマらなかった気がします。一番の理由は、日本のみなさんが英語をほぼ話さないこと。カフェやレストランに行ってもなかなか注文できないなど、それが少し残念だなと感じてしまいました」
https://news.yahoo.co.jp/articles/6e44dded7a188d4e4f8617d4916e38c037b7be08
記事によると2人は日本に10日間滞在、東京を中心に観光した様です。
本記事は、日本在住の英語話者が同記事を英語の説明と併せてX(旧Twitter)にて投稿したので、英語圏の人々の注目も集めました。
中には「日本のカフェやレストランでは、写真入りのメニューが置いてあることが多いのに、何故なかなか注文出来ないの?スタッフが英語を話せない、または自身が日本語を話せなくても、食べたいものを指で指せば簡単に注文できるのに.?」と不思議がっている人もいました。
確かに、日本のレストランやカフェには写真入りのメニューが多いですし、店の外には食品サンプル等もありますから、仮に日本語のメニューしかなくても、注文するのがそんなに難しいとは思えません。
果たして、彼らが日本で困った理由は、英語だけが原因なのでしょうか?
常識は国や場所によって
異なる
※ここからは、あくまでも記事を読んでの推測の話になるので、それを留意して読んで頂ければと思います。
まず「注文が難しい」との事ですが、これを理解するには欧米での注文をする際のマナーと、日本で注文をする場合の違いについて知る必要があります。
日本では飲食店で注文をする際に、スタッフに「すみません!」と声をかけたり、手をあげたりして注文を取りに来てもらうのが一般的です。
一方 欧米ではこの様な態度は、スタッフを自分のテーブルに呼びつける行為として失礼にあたります。お店のスタッフに注文を取りに来てもらいたい場合は、アイコンタクトで知らせます。
※日本と欧米での違いとして、日本は全てのホールに居るスタッフが全テーブルの対応をしますが、欧米ではお店によっては各テーブルを担当するスタッフが決まっており、その担当スタッフとアイコンタクトを取らないと、テーブルには来てくれないケースもあります。
日本でも小さなお店や格の高いレストランでは、声をかけなくても、アイコンタクトでお店の方が注文を取りに来てくれる場合もありますが、東京の大きなレストランだったり、忙しいカフェだったりした場合、アイコンタクトだけでお店の方が注文を取りに来てくれる事は、滅多にありません。
「スタッフを呼んでもなかなか来ない」と言う問題を解消する為に、ファミリーレストランや居酒屋などでは、テーブルにスタッフを呼ぶブザーやベル等が置いてある場合もありますが、使い方を知らなければ使えません。
「注文が難しい」と言う発言の裏側には、この様な「常識の違い」も実はあったのではないでしょうか?
写真付きメニューでは
不十分な場合も...
最近では英語で表記されているメニューを用意するお店も増えては来ていますが、仮に日本語のメニューしかない場合でも、写真やイラスト付きの場合が多いので、パッと見でどの様な料理かは理解する事が出来ます。
しかし、例えば使われている食材について知りたかったり、アレルギーや菜食主義、宗教的な理由等で食べられないモノが有った場合、それを確認したければお店のスタッフに聞くしかありません。
この様なケースの場合、写真付きのメニューを指さして注文するだけでは不十分です。そして、その際に英語でコミュニケーションが取れなければ、ストレスに感じる人もいるかも知れません。
該当記事には「翻訳アプリを使えばいいのに、何故使わないの?」と言った反応もありました。
訪日観光客の感想動画を見ても、翻訳アプリを上手く使ってストレスなく日本観光を楽しんでいる人も多数います。しかし、全員が全員翻訳アプリを上手く使いこなせるとは限りません。
声をかけても
目もあわせてくれない
「『ハロー』とか『ハイ!』とか言っても、目を合わせようとしてくれなくて、英語を学ぶ機会がないのかと思っていたんだけど……」と、キーノさんも、日本人とのもどかしいやりとりにカルチャーショックを隠せなかった様子。
https://news.yahoo.co.jp/articles/6e44dded7a188d4e4f8617d4916e38c037b7be08
該当記事には上記感想も掲載されていました。
日本人でも経験があると思いますが、忙しい時間帯や混雑している場合、お店の方はスピード重視でお客様と目をあわせなかったり、会話も必要最低限にする場合もあります。
記事には「(前略)自分たちはそんなに大きな街の出身じゃないので、1000万人以上の人が住んでいる東京とはまったく比にならないんです」とも書かれていました。
そう言う意味では彼らの日々のスピード感や対応方法と、東京のスピード感や対応方法が全く異なったと言うことも考えられます。
もちろん英語で話しかけられたけど、英語が堪能ではない為、返事をしなかったケースもあると思いますが...
そもそも、日本人は「見知らぬ相手と目をあわせる事は失礼」と考える人も多く、仮に目があっても そらしてしまう場合も多々あります。
その上 英語に苦手意識があった場合、海外からの観光客が英語で話しかけても、無視をしてしまう事もあるかと思います。
言語だけが理由ではない
コミュニケーションを円滑にするためには、もちろん「言語」は重要です。お互いが同じ言語を話せれば、意思の疎通はより簡単になります。
しかし、特に観光の様な慣れていない場所でコミュニケーションが上手くいかない場合、「言語」だけが理由ではなく、ルールや常識が違ったり、生活習慣や文化が異なるのが理由である場合も実は沢山あります。
常識や習慣、文化の違いは、突き詰めれば国単位ではなく、地域や場所、または年齢や家族、個人でも違う場合があります。同じ言語を話す日本人同士でも、常識の違いによりトラブルになる事は、けして少なくありません。
その「常識の違い」に先ずは気が付く事が大事なのですが、それぞれが違いに気が付かず、海外観光客の場合、最も分かりやすく異なる「言語」の問題だと思ってしまうケースは多々あります。
また 常識の違いに気が付いたとしても、説明する為の言語や表現方法が異なる為、上手く情報や想いが伝わらず、問題になる場合もあります。
全ての人が、完全に満足するサービスの提供や、コミュニケーションの方法ほど難しい事はありません。
しかしながら、コミュニケーションが上手くいかない理由が「言語だけではない」ことを知っていると、お互いに歩み寄り、その問題を解消できる可能性が高まる場合もあります。
ミーハングループが、「言語だけに留まらない 文化・ビジネス・心の橋渡し」を仕事の合言葉にしているのも、それが理由です。