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怪談・英語表現・小泉八雲

夏と言えば怖い話...と言うのは、日本特有の文化ですが、今回のブログでは「怪談」や「幽霊」等に関連する英語表現や、短編小説集「怪談(Kwaidan)」の作者として知られる小泉八雲(ラフカディオ・ハーン / Lafcadio Hearn)について、少しご紹介したいと思います。KanenoriによるPixabayからの画像)

「怖い」に関する
英語表現

「怖い」と言っても種類は様々ですが、今回は「怪談」的な「怖い」英語表現を、まずはご紹介したいと思います。

通訳業界の恐い話については、以前このブログに掲載していますので、ご興味のある方は、ぜひチェックしてみて下さいませ。コチラはコチラで「恐い」です。

因みに「こわい」を漢字表記する場合、「怖い」と「恐い」があります。

この違いについては特にないそうですが、常用漢字として登録されているのは「怖い」のみとのこと。

「怖い」と「恐い」の違いは? 正しい使い方や意味、例文を解説 (2024.05.24 All About ニュース)

Scary / Frightening / Fear

怪談的な「怖い」を英語で表現する場合、パッと思いつくのは Scary / Frightening / Fear あたりではないでしょうか?

意味を先ずは英英辞典で調べてみました。

from Cambridge dictionary

scary adjective
frightening / making you feel frightened

frightening adjective
making you feel fear

fear noun
an unpleasant emotion or thought that you have when you are frightened or worried by something dangerous, painful, or bad that is happening or might happen:

fear verb
to be frightened of something or someone unpleasant:
to be worried or frightened that something bad might happen or might have happened:

https://dictionary.cambridge.org/

Scary / Frightening は形容詞 / adjective なのに対して、Fear は名詞 / noun 及び 動詞 / verb と言う違いがあります。

日本語でも「怖い」や「恐ろしい」を表す言葉には様々な種類がありますが、怪談に限らずで考えると「怖い」や「恐ろしい」を表す英語表現には、上記で紹介した言葉以外にも afraidterrifying もあります。

しかし、この「怖い」や「恐ろしい」を表す英語表現の違いについて、説明すると長くなってしまうので、興味のある方は以下リンク等にてチェックしてみて下さい。

'afraid', 'scared', 'frightening' and 'terrifying' (BBC Learning English)

怪談に関連する
英語表現

さて、今回のメイン・テーマは「怪談」です。

怪談とは何か?を考えると「気味が悪い話」とも言えると思います。

デジタル大辞泉 / コトバンク

気味が悪い
なんとなく恐ろしい。なんとなく気持ちが悪い。気味悪い。

https://kotobank.jp/word/%E6%B0%97%E5%91%B3%E3%81%8C%E6%82%AA%E3%81%84-475717

英語の場合「気味が悪い」は Spooky / Creepy / Weird / Eerie または Strange 等を使って表現される事が多いですが、「怪談」に限って言うと Spooky が一番しっくりくるのではないでしょうか。(もちろん前後の文脈にもよりますが)

spooky adjective
strange and frightening:

https://dictionary.cambridge.org/dictionary/english/spooky

または Uncanny も、薄気味の悪い怖ろしさを表現する言葉です。

uncanny adjective
strange or mysterious, often in a way that is slightly frightening:

https://dictionary.cambridge.org/dictionary/english/uncanny

「怪談」と言えば、やはり「幽霊 / Ghost」や「化け物 / Monster」が出てくる話をイメージされる方が多いと思います。

「怪談」を英訳する場合、一般的には Ghost story 等と訳されますが、 映画等でお馴染みの「ホラー / Horror 」 を使って表現される事もあります。

ただ「ホラー」の場合は、ショック / 衝撃を与えるような物語や内容である事も求められます。

horror noun
an extremely strong feeling of fear and shock, or the frightening and shocking character of something:

https://dictionary.cambridge.org/dictionary/english/horror

幽霊話 や 怪談で
使われそうな 英語表現

怪談や幽霊話に関連しそうな、英語表現を幾つか集めてみました。併せて簡単な日本語訳もご紹介します。

もちろん、これ以外にも映画のジャンル等、様々な怪談/幽霊話にまつわる表現は多々あると思います。ですので以下の言葉は、ほんの「氷山の一角 / The tip of the iceberg」としてお考えいただければ幸いです。

  • Ghost / apparition / specter / phantom / wraith
    幽霊、亡霊、霊、死霊、怨霊
  • Monster / specter / phantom
    怪物 / 妖怪 / 想像上の生き物
    ※Monster は特に大きくて変わった
    ※phantom は青白かったり・透明に近い人や動物やモノ
  • Haunted place, house, mansion
    心霊スポット / お化けの出る家 / お化け屋敷
  • Will-o'-the-wisp
    火の玉 / 鬼火 / 彷徨っている魂
  • Goose bumps
    鳥肌
  • Medium
    霊媒師 / 霊感の強い人(霊と生きている人の仲立ちをする人)
  • Six sense
    第六感 / 直観 / 五感(視覚,聴覚,味覚,嗅覚,触覚)以外の特別な感覚
  • Spirit
    精神 / 魂 / 精霊や幽霊を表す場合も
  • Spiritual
    スピリチュアル / 精神的 / 霊的 / 宗教的(なモノやコト)/ 人に訴えかける自然現象(人の生きる世界と、それ以外の世界との繋がりや現象)
  • Super natural
    超自然現象・超常現象
  • Occult
    オカルト / 神秘的・超自然的(なモノやコト)

霊媒師 / 霊感の強い人(霊と生きている人の仲立ちをする人) とご紹介した Medium / ミディアム ですが、「中間」を意味する場合や、何かを表現する場合の方法、媒体を表すメディア / Media の単数形 等と言った意味もあります。もちろんステーキの焼き具合も意味します。

怪談 / Kwaidan

「怪談」は幽霊や妖怪・化け物 等の話の総称ですが、1904年に出版された 小泉八雲 / Lafcadio Hearn (ラフカディオ・ハーン)の短編小説集のタイトルとしても使われています。

平家の怨霊が出てくる「耳無芳一の話(The Story of Mimi-Nashi-Hoichi)」や、「雪女(Yuki-Onna)」「ろくろ首(Rokuro-kubi)」等は、1度は聞いたことがあるかと思いますが、これらの話も「怪談(Kwaidan)」に収められています。

小泉八雲
ラフカディオ・ハーン

小泉八雲 / Patrick Lafcadio Hearn (パトリック・ラフカディオ・ハーン)

Frederick Gutekunst - http://www.lib.u-toyama.ac.jp/chuo/hearnlib.html パブリックドメイン

小泉八雲 / ラフカディオ・ハーン こと Patrick Lafcadio Hearn (パトリック・ラフカディオ・ハーン)は、島根県尋常師範学校(現・島根大学)の英語教師として1890年に来日。

翌1891年に、松江の士族の娘・小泉セツと正式に結婚。三男一女に恵まれ、1896年には日本に帰化。この時より「小泉八雲」となりました。

仕事面では、島根県尋常中学校の英語教師の後、熊本第五高等中学校、神戸クロニクル社での勤務を経て、1896年9月から帝国大学文科大学にて英文学講師を務めました。

1903年 帝大退職後は、早稲田大学で教鞭を執ったとのこと。

その小泉八雲の国籍については、イギリスと日本の二重国籍だった可能性が高いと言う調査結果が出ています。

小泉八雲は二重国籍? 英国、離脱認めぬ書簡 (2016年11月24日 日本経済新聞)

小泉八雲記念館 Website より

パトリック・ラフカディオ・ハーン(小泉八雲)は、1850年6月27日にギリシャ西部のレフカダ島で生まれました。父チャールズはアイルランド出身の軍医、母ローザはギリシャ・キシラ島の出身です。アイルランドは当時まだ独立国ではなかったので、ハーンはイギリス国籍を保有していました。

https://www.hearn-museum-matsue.jp/hearn.html

小泉八雲は、著作家としては 翻訳・紀行文・再話文学のジャンルを中心に、生涯で約30の著作を遺しています。

代表作「怪談(Kwaidan)」は、1904年4月にボストンとニューヨークに拠点を置く ホートン・ミフリン社 / Houghton Mifflin Company から出版。

Kwaidan : stories and studies of strange things (Cincinnati & Hamilton County Public Library)

同年9月26日に小泉八雲は逝去したので、今年2024年は「怪談(Kwaidan)」出版・八雲没後 120年 になるそうです。

小泉八雲『怪談』出版120年 特設サイト
小泉八雲記念館 Website

怪談 / Kwaidan
執筆方法

小泉八雲の著作は、英語で書かれています。

「怪談(Kwaidan)」に収められている話の基となった民話や奇譚は、妻であるセツが集めた話を、2人がコミュニケーションを取る際に用いた、独特の言い方を含んだ日本語の話し言葉「ヘルンさん言葉」で伝え、それを基に小泉が独自の解釈を加えて執筆したとのことです。

※ヘルンさん言葉の「ヘルン」は、 小泉八雲 / ラフカディオ・ハーンの名字 Hearn に由来します。

本書の英語タイトルは Kwaidan と表記されていますが、小泉八雲が妻のセツの「出雲弁訛り」をそのまま採用したとのこと(諸説あり)。この事からも、セツが語った話を基に「怪談(Kwaidan)」は執筆されたことがわかります。

ヘルンさん言葉の世界―小泉八雲の日本語と明治期の日本語教育をめぐって 金沢 朱美 (著)

青空文庫
父八雲を語る 稲垣巖
より

さてかういふ多種多方面の物語の、材料はどこから出たか、何を通じてヘルンに供給され、ヘルンのペンで改作されたかと申しますと、これは全部ヘルン夫人の口伝へによってゞあります。

元来、ヘルンは日本語の知識は殆ど有って居りませんでした。日本語の研究などして居ては自分の天職を果す間に合はないといって、日常の談話の出来る程度の日本語と、片仮名、平仮名、それにほんの少数の漢字の知識で満足してゐたのですから、日本の書物の読書力は全然ないのです。それに日常の会話と申しましても夫人との間に於てのみ完全に通用する英語直訳式の一種独特の言葉でありました。私の兄は母に次いで中々上手でしたが、私も父の死ぬ一、二年前頃から、言はれる言葉を聴き分ける事だけは出来ました。

これを「ヘルンさん言葉」と名づけて居りましたが、例へば「テンキコトバナイ」といへば「天気は申し分なくよろしい」といふ意味です。それから、例へば「巖は遊んでばかりゐるから悪い。これから少しの間勉強する方がよい。」といふ意味を表すには「イハホ、タダアソブ トアソブ。ナンボ ワルキ、デス。スコシトキ ベンキョ シマセウ ヨキ。」まあこんな調子ですから、英語を知らないよその人とは中々話が出来ません。ですから立派な文学的材料を持った体験者などを見付けても、必ず夫人が間に立って通訳しなければなりませんでした。

「怪談」の材料は、夜窓鬼談、百物語、玉すだれ、臥遊奇談、古今著聞などに拠ってゐますが、之は、夫人がヘルンの為めに古本屋をあさり廻り、多くの怪談をむさぼり読んで、気に入りさうなのを選んで語り聞かせたものです。

https://www.aozora.gr.jp/cards/001961/files/58832_65768.html

ピジン語

小泉八雲と妻・セツがコミュニケーションを取る際に用いた、独特の言い方を含んだ日本語の話し言葉「ヘルンさん言葉」。この様な言葉は「ピジン語」と呼ばれる事もあります。

以下 精選版 日本国語大辞典 / コトバンクより

ピジン‐ご【ピジン語】

〘 名詞 〙 ( ピジンは[英語] pidgin [英語] business の中国語なまりからという説も ) 共通言語をもたない複数の集団が接触して、集団間コミュニケーションの手段として形成される接触言語の一種。音声面では一方の言語を、単語と文法の面では他の言語の形を強く残し、文法はかなり簡略化される。ピジン語の話者は日常生活での母語を必ず持つ。世界各地に見られるが、太平洋諸島でのピジン英語がよく知られる。

https://kotobank.jp/word/%E3%83%94%E3%82%B8%E3%83%B3%E8%AA%9E-171934

怪談 / Kwaidan を使った
英語学習

小泉八雲 / Lafcadio Hearn の「怪談(Kwaidan)」には英語版 / 日本語版 書籍はもちろん、英語 / 日本語 の朗読ポッドキャスト等もあります。

英語学習をしたり、英/日訳を学ぶ際には、これら書籍やコンテンツを組み合わせるのも1つの手です。

英語のポッドキャストと日本語の書籍、日本語のポッドキャストと英語の書籍、または英語と日本語書籍 の読み比べ等々。

2022年には芥川賞作家・円城塔さんが、あえて原文通りに直訳した「怪談」も出版されています。

「怪談」KADOKAWA 翻訳・円城塔 (電子書籍アリ)
円城塔さん「怪談」インタビュー「直訳」で浮かび上がる不思議の国・日本(2022.10.15 好書好日)

以下リンク先以外にも、様々な書籍やコンテンツがありますので、ぜひご興味のある方はお調べ頂いて、ご自分にあった 内容 / 方法をお選び頂ければと思います。

NHK連続テレビ小説
「ばけばけ」

来年、2025年秋からのNHK連続テレビ小説は、小泉八雲の妻・小泉セツさんをモデルにした「ばけばけ」が放送されるとのこと。

小泉八雲とセツさんの「ヘルンさん言葉」によるコミュニケーションや、言語習得の様子、また異なる文化に対する接し方や理解など、通訳者や翻訳者は基より、異文化コミュニケーションに興味がある方にも、興味深い内容のドラマとなりそうです。

来年秋から放送の朝ドラは「ばけばけ」 小泉八雲の妻がモデル(2024年6月12日 NHK NEWS WEB)

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