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テクノロジーと通訳/翻訳

様々な業界/分野で、AIを始めとしたデジタル・テクノロジーとの共存・協働が、昨今注目を集めています。それは通訳/翻訳業界も変わりません。翻訳ソフトによる訳の精度は日に日に向上しています。果たして通訳/翻訳は、人から機械/AIに取って代わられてしまうのでしょうか? そこで今回は、通訳/翻訳にまつわるテクノロジー状況について、少し紹介します。Free PhotosによるPixabayからの画像)

翻訳ソフト
翻訳ツール

通訳/翻訳に関わるテクノロジーと言って、パッと思いつくものと言えば、まずは「翻訳ソフト/翻訳ツール」ではないでしょうか。

冒頭にも書きましたが、翻訳ソフトによる訳の精度は日に日に向上しています。

「難しい言語の勉強をしなくても翻訳者になれる」と言った宣伝や、国際会議も「同時通訳アプリで対応」などと言う広告キャッチコピーも、最近ではよく見かけます。

しかし、果たして本当にそうなのでしょうか?

本ブログでは「通訳や翻訳は、その言葉の背後にある、歴史や文化、常識、状況、文脈を考慮し、言葉を発した人や文章が本当に伝えたい事を理解した上で、異言語/異文化におけるコミュニケーションが円滑に行われる様に、言語スキルを用いてサポートするのが通訳/翻訳の使命」と、お伝えして来ました。

つまり「言語を訳す」ことだけが、通訳/翻訳の仕事ではないんです。

とは言え、通訳や翻訳に携わる人々は、やみくもにテクノロジー、この場合は翻訳ソフトやツールを否定している訳ではありません。

むしろ便利なツールも上手く利用・駆使しながら、より良い異言語/異文化コミュニケーションを図れるように、サポートをするのが、通訳/翻訳者の使命と考えている人が多いと思います。

注意喚起

2023年12月に、特定⾮営利活動法⼈ ⽇本翻訳者協会(JAT)/ ⼀般社団法⼈ ⽇本翻訳連盟(JTF)/ ⼀般社団法⼈ ⽇本会議通訳者協会(JACI)/ ⼀般社団法⼈ アジア太平洋機械翻訳協会(AAMT) の4団体が共同で、「簡単に翻訳者になることができる。⾼収⼊を得られる」または「AIを使った翻訳なので語学⼒不問で翻訳者になれる」と宣伝する翻訳学校・講座等について、注意喚起をする声明を発表しました。

詐欺まがいの翻訳講座について注意喚起声明
※本リンクをクリックするとJAT Websiteに掲載された声明が開きますが、他3団体Websiteにも同様のお知らせが掲載されています。

本声明には、相談窓口等も掲載されておりますので、心配されたり、不安に思われる方は、各団体のWebsiteにて声明内容をご確認の上、記載されている連絡先までご連絡下さいませ。

ハルシネーション問題

2023年 今年の言葉などでも選ばれた「AI が出した 間違った回答・結果」を意味するハルシネーション。

この問題は、翻訳ツールでもおきます。

誤訳ではないにしろ、原文にある文章が一部訳されていない / 原文を一部カットして訳す、言葉のニュアンスが削られている等は、割と多く見受けられる問題です。

通訳の場合

「誤訳」に関して、例えば重要な場面で翻訳ツールや通訳アプリを「会議通訳者」の代わりに使った場合、間違った訳をソフトが出したとして、誰がその間違いに気が付くでしょうか?

その間違いをチェックする人が居なければ、間違いに気がつかないまま会議は行われてしまいますし、話をした人の本意は間違って伝わったままになります。

その結果、とんでもない結末を迎えたとしたら、この「誤訳」の責任は、誰が取るべきでしょうか?ソフトを開発した会社でしょうか?

人間の通訳者が、全く「誤訳」をしないとは言いません。人間ですから間違える事も、あってはいけませんが、もちろんあります。

しかし、特に会議通訳等で行われる同時通訳では、2人以上の通訳者が交代で対応する事が多く、1人が訳している時に、もう1人は、相手の訳を聞いてチェックしています。

これは、組んだ通訳者の言語スキルを疑っているからではなく、現在訳している通訳者が言葉に詰まった時にフォローが出来る様にや、交代して自分が訳す際に、相手の訳した言葉と大きく違ったりしない様にする為にチェックをしているのですが、結果「誤訳」を防ぐことにもなります。

※アメリカなどで司法通訳をする場合は、通訳者の訳が適切かどうかチェックする「チェッカー通訳」が居ます。

また「誤訳」ではなくても、意味としては間違っていないけれど文章的には成立していない訳や、状況にあわない訳、文化的違いにより相手に失礼だったり、誤解を招く訳を通訳アプリがした場合、コミュニケーションはとん挫します。

人間が通訳をする場合は、機械と同様の 文章的には成立していない訳や、状況にあわない訳をしてしまった場合や、文化的違いが発生した場合でも、相手の表情や会議の雰囲気を察知して、スグに軌道修正や補足をする事が出来ます。

つまり、複雑な状況にある会議や、混乱が生じやすい状況では、機械よりも人間の方が柔軟に対応する事が出来ます。

翻訳の場合

翻訳の場合でも、翻訳ツールのみを使用した場合、様々な問題があります。

まず、通訳の問題と同様に、原文に対して訳した内容が正しいかどうか? 翻訳ツールを使用した場合、それを誰が判断すれば良いのでしょうか?

また、書き手が伝えたい微妙なニュアンスを落とさず訳す事は、例えば「小説」や「映画」などのコンテンツでは重要ですし、登場人物の性格を反映した言葉遣いを選んだり、訳した言語の人々がスムーズに理解できる様な文化的/社会的 意訳なども状況によっては求められる場合もあります。

訳文が「正しいかのか / 間違っているのか」だけではなく、読み手にとって分かりやすい内容になっているか、書き手の意図をキチンと反映しているか。

これらを判断するには「原文と訳文」双方の言語や文化等に精通した翻訳者が、やはり必要です。


つまり、翻訳ソフト/ツールの訳で良い程度の内容・訳であれば、今後、機械に取って代わられる可能性は高いでしょう。

一方、人間の通訳/翻訳者には「機械翻訳」が誤訳やハルシネーションを起こしていないかのチェックや、自然な訳文・目的にあった訳文にする技術、異文化におけるギャップを埋める知識等、訳す両方の言語に精通した高い言語スキルや、背景情報を理解するスキルが、今後一層 求められる様になると言えるでしょう。

著作権の問題

AI / Artificial Intelligence や 生成AI / Generative AI  において、結果を出す為には「学習」が必要不可欠です。

この「学習」または「深層学習」の事は、ディープラーニング / Deep Learning 等とも言われます。

from コトバンク / 日本大百科全書(ニッポニカ)
ディープラーニング
ディープラーニングは、深い、すなわち、層の数が多いニューラルネットワークを用いた機械学習を意味し、深層学習と訳される。

https://kotobank.jp/word/%E3%83%87%E3%82%A3%E3%83%BC%E3%83%97%E3%83%A9%E3%83%BC%E3%83%8B%E3%83%B3%E3%82%B0-1692104#goog_rewarded

from Cambridge dictionary
deep learning noun / COMPUTING
a type of machine learning (= the process of computers improving their own ability to perform tasks by analysing new data) that uses many layers of data processing:

https://dictionary.cambridge.org/ja/dictionary/english/deep-learning

しかし、この「学習」の対象となる元データには、著作権が発生するモノが含まれる場合もあり、その対応をどうするか?現在、社会的な問題になっています。

余り知られていない事ですが、翻訳者や通訳者が訳した内容にも著作権は発生します。

例えば小説や戯曲、歌の歌詞などの翻訳版には様々なバージョンがありますが、この「訳」はそれぞれ翻訳者が、原文を読んで考え、訳した著作物になります。

翻訳の場合、原作及び原作者は別に居ますから、翻訳者はそれを利用した「二次的著作物」の著作者と言うことになります。

これは、エンターテイメント及び文化的なコンテンツのみが対象と言う訳ではなく、その扱いについては個々のケースによって異なりますが、翻訳者が訳した文章の著作権は、基本的に訳した翻訳者に帰属します。

また、通訳者が訳した内容も同様に著作権が発生しますので、通訳をした場以外(例えば動画での使用や、訳した会議等の資料以外の書類等)で訳した内容を使用する場合は、通訳者の許諾が必要となります。

参考リンク 
http://colabora.jp/faq/faq18.html
Copyright Laboratory「COLABORA

このAIと著作権の問題については、文化庁が1月中にパブリック・コメントを実施する予定だそうです。

「AIと著作権に関する考え方」文化庁がパブリックコメント(2024年1月18日 NHK News web)

通訳/翻訳者からの視点

通訳/翻訳業界でも、AIの取扱いや使用方法については、まだまだ定まっていないのが現状です。

翻訳ツールは、有料版かつ機密事項がキチンと定められているモノ以外を使用すると、原文に機密事項が含まれていた場合、大きな問題に発展します。

また、翻訳ツールの精度が日々向上してきてるとは言え、誤訳を含め異文化コミュニケーションをスムーズに行うレベルまでには、まだ達しておらず、機械・自動翻訳を使って訳された文章の場合は、それをチェックする業務、「ポストエディット・後編集」と言う業務が欠かせないのが現状です。

しかし、全く使用しないと言うのもナンセンスな時代になってきたのも事実です。

著作権の扱いも含め、他業種と同様に、如何にAIと共存して、より良いサービスを提供できるか?が、これからの通訳/翻訳業界の1つの課題となる事は、間違いありません。

右田アンドリュー・ミーハン

※以下記事は、タイトルは「通訳者」となっていますが、通訳/翻訳に言及した内容になっています。AI等の機械翻訳と人間が行う通訳/翻訳の違いについても紹介しているので、併せてチェック頂ければ幸いです。

通訳/翻訳に
テクノロジースキルは不可欠

翻訳ツール以外にも、通訳者や翻訳者は、業務上 テクノロジーの知識が必要となる場面が、実は多々あります。

基本的なパソコン操作知識や、ソフトを利用する為の知識はモチロンですが、例えば通訳者は、昨今オンライン会議で通訳等も行う為、声が聞き取りやすいヘッドフォン(イヤフォン)や、マイクなどは必要不可欠です。

またオンライン会議だけではなく、多くの作業がインターネット経由で行われますから、速度や容量が充分なインターネット回線の確保も必要ですし、パソコンのスペックもある程度ないと、動画や資料が見れない等の問題も発生します。

翻訳者も、翻訳専用ツールを使いこなす事や、訳した文章を送る際に機密性の高いクラウド・サービスの利用を求められたり、クライアントやエージェントが用意した専用サービスの利用が必要となる場合もあります。

企業に所属していれば、インターネット環境やソフト/アプリの導入については、ITを担当する部門が対応してくれますが、フリーランスで仕事をする場合は、これらを全て自分で整えなくてはなりません。

つまり、テクノロジーに対する知識は、通訳者や翻訳者であっても、現在は必要とされます。


今回は、概要的に通訳/翻訳業界におけるテクノロジーの現在の状況をご紹介しましたが、今後も通訳/翻訳業界におけるテクノロジーの利用状況や情報等を、海外事例なども含めて本ブログではご紹介したいと思っております。

質問や、こんな事を知りたいと言うリクエストがあれば、Meehan Group のソーシャルメディア経由で、コメントやダイレクトメッセージ等にて送って頂ければ幸いです。

Meehan Group 日本語 X (Twitter) アカウント @theMEEHANgroup / Facebook @meehan.interpreter.japan

以下記事は、以前 皆様から頂いた質問に答えた内容になっています。ポストエディットや遠隔通訳についても紹介しているので、併せてチェック頂ければ幸いです。

通訳翻訳ジャーナル
コラム

Web版 通訳翻訳ジャーナルにて、2023年11月より始まった弊社代表右田アンドリュー・ミーハンのコラム「通訳者がレクチャー!最新ニュースで学ぶ英語表現」。

月に1度、ニュースやスポーツ、エンタメなど、その時々の旬な情報に関連した英語表現を紹介している本コラムの第3回が、2024年1月25日公開されました。

https://tsuhon.jp/interpretation/column/n_english03/

今回は、今年アメリカで行われる大統領選に関連し、選挙等で使われる英語表現や、演説やお祝いで使われる英語表現等を紹介しています。

ビジネスで使える表現も幾つか紹介していますので、ぜひチェック頂ければ幸いです。

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