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NHK ドラマ『わげもん~長崎通訳異聞~』-江戸時代の通訳者について-

2022年1月8日からNHK 土曜ドラマ『わげもん~長崎通訳異聞~』が始まります。江戸時代のオランダ語通訳者=オランダ通詞(つうじ)が活躍するドラマとの事。そこで今回はこのドラマ『わげもん』にちなみ、江戸時代に長崎で活躍した通訳/翻訳者について、簡単にご紹介したいと思います。

わげもん
~長崎通訳異聞~

わげもんとは和解者(わげもの)つまり通訳者の事だそうです。

江戸時代 長崎の出島に出入りし、オランダとの交易を通訳として支えてきたオランダ通詞(つうじ)達が活躍するドラマ、それが 『わげもん~長崎通訳異聞~』 との事。

ドラマは2022年1月8日(土)夜9時から全4回に渡り、NHK総合にて放送されます。あらすじ他詳細は以下ドラマWebsiteにてご確認下さい。

『わげもん~長崎通訳異聞~』 Webページ
https://www.nhk.jp/p/ts/Y3V69G2P4K/

江戸時代
長崎の通訳者

江戸時代 日本は鎖国をしていましたが、長崎は中国、そしてオランダとの交易が許されていました。交渉の中心地は出島。

この出島で長崎奉行の配下として、中国人/オランダ人と日本人とのコミュニケーションをサポートしたのが「唐通事(からつうじ)と阿蘭陀通詞(オランダつうじ)」です。

参考記事:通詞 (コトバンク 小学館 日本大百科全書)

唐通事
からつうじ

唐通事(からつうじ)とは、中国語の通訳者/翻訳者のこと。

唐通事の多くは、中国から来航した貿易商人らが日本に移住し、帰化した中国人家系の人が仕事を担っていました。

長崎においては、1604年/慶長9年に、在留明人の馮六官(ひょうろくかん)を唐通事に任じたのが初例とされ、以後日本語の出来る在留中国人とその子孫が一子相伝(いっしそうでん)を原則として任じられたそうです。

阿蘭陀通詞
オランダつうじ

阿蘭陀通詞(オランダつうじ)とは、オランダ語の通訳者/翻訳者の事。 唐通事とは異なり、 オランダ通詞は日本人が務めていました。

※阿蘭陀通詞は漢字が難しいので、本ブログでの基本表記はオランダ通詞とします。

江戸幕府が鎖国を始める以前、長崎にはポルトガル船が来港していました。

16世紀の貿易用語はポルトガル語だった事もあり、ポルトガル人との交渉だけでなく、他の国との交渉でもポルトガル語が用いられていました。その為、長崎ではポルトガル語を理解する人たちが現れました。

その後、江戸幕府はポルトガルとの交易を禁止。ヨーロッパの貿易国をオランダだけに絞ります。そこでポルトガル語が話せる日本人たちは、ポルトガル語を媒介にしてオランダ語を習得し、やがてオランダ通詞を務める様になったとの事です。

オランダ通詞は世襲制(せしゅうせい)で、多い時には150人も居たそうです。

※参考記事:外国語の辞書のない時代にも、長崎には「バイリンガル」が住んでいた(夢ナビ)

通事 と 通詞

唐通事には「事」、 オランダ通詞には「詞」と言う漢字が使われています。

これは、オランダ貿易において通訳や翻訳を主な仕事としていたオランダ通詞が「詞=ことば」に通じたのに対し、唐通事は「事=こと」全般に通じていた為との事。

「事=こと」全般とは、通訳はもちろん長崎に在住する中国人たちの管理、貿易許可証の発行、唐貿易全体の業務を指すそうです。

詳しくは以下記事に掲載されておりますので、ぜひチェック下さい。

長崎Webマガジン「唐通事と阿蘭陀通詞」
http://www.city.nagasaki.lg.jp/nagazine/hakken1201/index.html

またオランダ通詞については、日本通訳翻訳学会 JAITS が発行する 学会誌「通訳翻訳研究」2015年発行第15号に、田中深雪さんによる論文「長崎における阿蘭陀通詞に関する考察-地役人としての立ち位置とその評価をめぐって-」が掲載されています。こちらもご興味のある方は、チェック下さい。

幕末に登場
英語の通訳

鎖国中、中国語とオランダ語の通訳は活躍していましたが、英語の(公式な)通訳はいつ頃 登場したのでしょうか。

ドラマ『わげもん~長崎通訳異聞~』の紹介ページでは、下記の様な説明がされています。

嘉永2年(1849)。ペリーの黒船来航まで、残すところ4年。オランダ以外の西洋列強、アメリカ、イギリスなど諸外国の影が年々色濃くなり、長崎は波乱の時代を迎えていた。通詞たちには「早急に英語を学べ!」の大号令が下される。

実際の歴史では、1808年/文化5年に起きたフェートン号事件がきっかけとなり、江戸幕府がオランダ通詞に対し、英語とロシア語の修学を命じたそうです。

フェートン号事件

文化5年(1808)英国軍艦フェートン(Phaeton)号がオランダ船を追って長崎港に侵入し、オランダ商館員を捕らえ、食糧・薪水を強要した事件。責任をとって長崎奉行松平康英は自刃した。

コトバンク デジタル大辞泉「フェートン号事件」の解説より

しかし日本での英語研究は、実は1600年から行われていたとの事。

後に「三浦按針(みうらあんじん)」の名で徳川幕府の外交顧問として仕えたイギリス人 ウィリアム・アダムズ(William Adams)が、オランダ商船のリーフデ号に乗って日本に漂着した事が、英語研究の始まりだそうです。

1613年にはイギリスの東インド会社が、長崎県平戸にイギリス商館を開設。しかし1623年に閉鎖となりました。

その後 鎖国政策が強化され、日本はオランダのみと交易を行った為、英語研究は余り進まなかった様です。

※参考記事:江戸の人たちは現代人より英語が得意だった?その秘密は英語の教科書の違いにあった(和樂web)

ペリーとの交渉の通訳

1854年/嘉永7年 アメリカのペリー艦隊の要求を受け入れて、日本は開国を決定。そのペリー達との交渉の場で活躍したのは、オランダ通詞たちでした。

特に日米和親条約の際、首席通訳(Chief Interpreter)を務めた森山栄之助(もりやま えいのすけ)は、アメリカの記録にも「英語が達者である」と書かれており、その英語力が高く評価されています。

長崎で代々 オランダ通詞を務めていた家に生まれた森山は、オランダ語だけではなく英語も勉強。さらに1848年/嘉永元年 アメリカの捕鯨船から小船で日本に偽装漂着し、長崎に護送されてきた ラナルド・マクドナルド からネイティブの発音やイントネーション、文法等も学びました。

しかし実際には、英語とオランダ語そして日本語を使った、いわゆるリレー通訳で、日米和親条約の交渉は行われたようです。

リレー通訳とは、複数の通訳者がリレーの様にそれぞれの訳を繋いで行う通訳の事です。

日米和親条約の際には、英語→オランダ語→日本語 / 日本語→オランダ語→英語のリレー通訳が行われました。

参考記事:ペリーと英語でどう交渉? 日本人通訳の秘策は(朝日新聞)

森山栄之助
もりやま えいのすけ

森山栄之助については、青山学院が運営するWebsite アオガクプラス に掲載されている オランダ通詞を紹介する連載「美しき陰翳(いんえい)─オランダ通詞たちの足跡」に、詳細を紹介する記事があります。

同連載では、 オランダ通詞についての詳細記事が他にもございますので、併せてチェック頂ければ幸いです。

「わげもん」の意味

2022年1月8日(土)夜9時から全4回に渡り、NHK総合にて放送されるドラマ『わげもん~長崎通訳異聞~』。

ドラマでは、わげもんを「和解者(わげもの)= 通訳者 のこと」と紹介しています。

「和解(わげ)」は今で言うところの「和訳」になるかと思います。

因みに 「和解(わげ」の別の読み方「わかい」と言うと、争っている同士が仲直りする事と言った意味がスグに思い浮かびますが、心和やかに打ち解けると言った意味もある様です。

つまり 「和解者(わげもの)」とは「言葉を介して異なる人々を繋げる」と言う意味なのではないでしょうか。

通訳者 / Interpreter に使われている Interpret には解釈と言う意味もあります。

日本語を英語に、A言語をB言語にただ置き換えるのではなく、言葉の背後にある様々な情報を理解(解釈)し、相手に届くように訳し、人々を繋げる 。それはミーハングループの合言葉「言語だけに留まらない 文化・ビジネス・心の橋渡し」にも通じる考えだと思います。

そんな通訳者の使命や、日本の通訳者/翻訳者の歴史について想いをめぐらせる様な、オランダ通詞が活躍するドラマが新年から始まるなんて、とても嬉しいです。

特にミーハングループ代表通訳者の右田アンドリュー・ミーハンは、長崎県佐世保市出身ですから、長崎繋がりのご縁も感じます。

ぜひ楽しみに拝見したいと思います。

NHK 土曜ドラマ
『わげもん~長崎通訳異聞~』

通訳/翻訳についての質問

※コチラの募集は締め切りました。頂いた質問への回答は1月中に本ブログにて返答を掲載致します。ご応募頂いた皆様、誠にありがとうございました。(2022年1月5日追記)

(株)ミーハングループでは、年末年始の特別企画として「通訳/翻訳」に関する質問を、2022年1月4日 23:59まで募集致しております。

通訳になる為の勉強方法や、通訳の仕事についての質問、翻訳のスキルアップ方法等々はもちろん、例えば「今まで通訳/翻訳会社を使った事がないけれど、どんな風な流れで仕事をお願いすれば良いか?」や、「通訳/翻訳の仕事を依頼するさいに、気をつけたいポイントは何か?」等。

さらには、機械翻訳についての質問や、最近翻訳業界でも多く行われているポストエディットについての質問、また遠隔通訳に関する質問等、通訳/翻訳に関する事であればなんでも結構です。

質問は、ミーハングループ・ソーシャルメディア にて受け付けております。

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