日本語の「迷惑」は非常に使用範囲が広い言葉です。今回のブログでは、この「迷惑」について通訳/翻訳者の視点から、具体的な英語表現等も交えて考えてみたいと思います。(Gerd AltmannによるPixabayからの画像)
「迷惑」の語源
日本語の「迷惑」は、非常に使用範囲が広い言葉です。
最近よく使われているケースとしては「迷惑行為」や「迷惑行動」、また海外からの観光客が異文化等の理由により引き起こす「迷惑行為」を「外国人」と掛け合わせて、「迷惑外国人」等と言ったりもします。
さらに「ご心配、ご迷惑をおかけしました事をお詫びいたします」と言った表現も、会見や発表の場、文章などでよく見かけます。
また、メールなどで何かを依頼したり、お願いをする場合にも「ご迷惑をおかけして誠に申し訳ありませんが、何卒よろしくお願い申し上げます」等と書いたりもします。
「迷惑」と言う言葉は、具体的な行為や行動または状態を表してはいませんが、相手や周囲にとって不快な事、面倒な事、負担をかける事、困らせる事と言った意味で使われる事が多いと思います。
しかし、本来の意味は少し異なる様です。
【ロバート キャンベル】「迷惑」と「お互いさま」、かくもグレーな境界 (2020.02.29 The Asahi Shimbun Globe+)より
「迷惑」は、平家物語にも使われている非常に古い日本語ですが、漢字からもわかるとおり、もとは「迷い、惑う」「困惑する」という意味で使われていました。
気持ちが揺れ動き、行きつ戻りつしながら「さて、これはどうしたものだろうか」と判断に迷う。そんな時間を凝縮したようなニュアンスが、本来の語源にはあります。
いま使われている「迷惑」が、言われたら、はっと身体が硬直し、ぐっと気持ちが固くなるような断定的な響きなのとは、ずいぶん違います。
この語源には、いまの迷惑について考える時に大切な点がひそんでいます。
「迷惑」と言う言葉は、そもそも仏教に由来する言葉と言われており「心の迷いや、道理に迷うこと」とされます。
デジタル大辞泉 にも、一般的に知られる意味と併せて、仏教に由来する意味も書かれています。
デジタル大辞泉 / コトバンク
1 ある行為がもとで、他の人が不利益を受けたり、不快を感じたりすること。また、そのさま。「人に迷惑をかける」「迷惑な話」「一人のために全員が迷惑する」
2 どうしてよいか迷うこと。とまどうこと。
「迷惑外国人」の行為
から考える英語表現
具体的な行為や行動、状態を表していない為、非常に使用範囲が広い言葉「迷惑」。
この言葉を英訳する際には、前後の文脈は基より、言葉を発した人が「どの様な気持ちを込めて言ったのか」を考える必要があります。
ここでは海外からの観光客=「迷惑外国人」による「迷惑行為」を1つの例に考えてみます。
迷惑コンテンツ
迷惑インフルエンサー
一般的に、英語で「迷惑」を表現する場合は nuisance, inconvenience, annoy, rude 等の言葉が使われる事が多いです。
しかし、昨今のオーバーツーリズムの弊害、また日本の文化や常識を知らずに観光に来て、周りに不快な思いをさせる行動をしてしまう「迷惑外国人」。
彼らの行動や行為を撮影した動画や投稿を指して「迷惑(系)コンテンツ」等と呼ぶ場合もあります。
こう言った観光客による行為や行動、コンテンツに対しては、日本に住んでいる外国籍の方々も非常に不快に思っており、先ほど挙げた言葉以上に強い言葉 disorderly, disruptive, problematic, improper, impolite, heinous と言った表現を用いる場合も少なくありません。
日本でも迷惑行為をおこない、現在 韓国で起訴されている迷惑(系)インフルエンサーの英語記事を見てみると、見出しには Controversial American live-streamer と書かれており、記事内にて迷惑インフルエンサー / nuisance influencers と言う表現を使用しています。
本記事の見出しに使われた Controversial の意味を英英辞書で調べると、causing disagreement or discussion / 意見の対立や議論を引き起こす とあります。
つまり「物議を醸す」と言う事ですが、英語を日本語に翻訳した記事では、より日本人に馴染みのある「迷惑系インフルエンサー」を見出しで使用しています。
- Controversial American live-streamer faces prison in South Korea for offensive behavior(November 27, 2024 CNN) )
- 迷惑系インフルエンサーの米国人、韓国で起訴 日本でも騒ぎ起こして非難殺到(2024.12.05 CNN.co.jp)
因みに「迷惑外国人」にズバリ当てはまる英語表現はありません。そもそも「外国人」とは誰を指すのか?と言うことになります。
迷惑な訪日外国人=忌々しい・邪魔な・ウザい観光客と言いたいのであれば annoying tourist/tourists 、失礼な態度を強調したければ rude tourist/tourists 、治安を乱す様な観光客であれば disorderly tourist/tourists とも言えなくはないですが...。
迷惑コンテンツについても、何を言いたいか、強調したいかによって異なりますが、不適切なコンテンツ、不適切な行動/行為と言う意味では inappropriate content, inappropriate conduct, inappropriate behavior 等と言うことも出来ます。
from Cambridge dictionary
inappropriate adjective / Business English
not suitable for a particular situation or person:https://dictionary.cambridge.org/dictionary/english/inappropriate
迷惑の種類
英語で「迷惑」を訳す場合、言葉を発した人が「どの様な気持ちを込めて言ったのか」を考える必要がある と先ほど書きました。
例えば、規律や法律を乱す・人や組織の内側を乱すことを「迷惑」と言っている場合は、平和/平穏を乱すことを意味する disruptive, disorderly 等を使って表現する事が出来ます。
また、周りの人や生き物に不快な思いをさせる / 害を与えると言った意味での「迷惑」であれば annoy, rub somebody the wrong way と表現できます。
業務を妨害する様な行為を「迷惑」と言う場合は disrupt their course of business, disrupt their performance of business となります。
本記事のトップ画像に書いてある Please do not disturb は、ホテルなどでよく見かけるメッセージで、午前中ゆっくりと部屋で過ごしたい時に、部屋の掃除等で「邪魔をしないでくださいね」とスタッフに知らせる為の言葉ですが、邪魔も一種の迷惑と捉えれば、シチュエーションによっては使える表現です。
迷惑は仏教由来の言葉と紹介しましたが、例えば「悟りの道の邪魔をする」は disrupt somebody’s path in life, disrupt somebody’s spirits つまり「悟りの道」を進む際には、自分自身と向き合い、自己を探求する=内観しなければいけないのに、その内観を邪魔する=迷惑と表現する事も出来ます。