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Mrs. GREEN APPLEのMV炎上事件から学ぶべきこと ~通訳者の視点から~

日本のバンド Mrs. GREEN APPLE (ミセス・グリーン・アップル)の楽曲「コロンブス」のミュージックビデオが、歴史や文化的な背景への理解に欠ける表現が含まれていた為、炎上。公開後すぐに停止となる出来事がありました。今回のブログでは、この事例について、通訳者の視点から少し考えてみたいと思います。GuyによるPixabayからの画像)

Mrs. GREEN APPLEの
MV炎上事件

2024年6月12日に公開された、日本のバンド Mrs. GREEN APPLE(ミセス・グリーン・アップル)の楽曲「コロンブス」のミュージックビデオが、歴史や文化的な背景への理解に欠ける表現が含まれていた為、公開後すぐにネットにて多くの人々が批判。公開翌日の6月13日に停止となると言った出来事がありました。

ミュージックビデオの公開を停止した6月13日 同日、Mrs. GREEN APPLE が所属するレコード・レーベル及び事務所の連名で謝罪文が発表された他、Mrs. GREEN APPLE メンバーの方によるミュージックビデオ制作意図の説明及び謝罪が、同バンドのWebsiteにて公開されました。

謝罪文に記載されていた「歴史や文化的な背景への理解に欠ける表現」とは、楽曲名「コロンブス」に因み同曲ミュージックビデオにて、Mrs. GREEN APPLEのメンバー3人がコロンブス、ナポレオン、ベートーベンに扮し、海に浮かぶ小島の家で類人猿と戯れるという内容を指しています。

このミュージックビデオの内容及び表現が「植民地主義を肯定した人種差別的表現」と受け取られ、批判されました。

コロンブス
Christopher Columbus

今回の楽曲タイトルともなった「コロンブス」は、イタリアの航海者でアメリカ大陸への到達者として知られるクリストファー・コロンブス / Christopher Columbus の事です。

コトバンク / 旺文社世界史事典 三訂版 より
コロンブス
Christopher Columbus
1451ごろ〜1506

イタリアのジェノヴァ生まれの航海者,アメリカ大陸への到達者

1478年リスボンに移住。地球球体説を信じ,アジアへの最短路を求めて大西洋航海を企図。1492年スペイン女王イサベラの援助を得て大西洋を西航し,西インド諸島に到達した。1493年以後3回探検を続けたが,西インドの経営に失敗し,アメリカ大陸をインドであると信じたまま,不遇のうちに死んだ。

https://kotobank.jp/word/%E3%82%B3%E3%83%AD%E3%83%B3%E3%83%96%E3%82%B9-67071

コロンブスは、以前は「アメリカ大陸の発見者」と紹介され、偉大なる冒険者として児童向けの本などでも紹介される事が多かった人物でもあります。

しかし歴史観の見直しにより その評価は大きく変わり、現在では先住民を虐殺し、奴隷化した「侵略者」と見なされる事も多くなってきています。

世界常識の
アップデート

Mrs. GREEN APPLE「コロンブス」のミュージックビデオ公開停止については、BBCも紹介。様々なメディアでも、事の顛末や問題点の指摘を含め紹介されています。

今回の炎上事件は、いわゆるキャンセル・カルチャーが関連した出来事でもありました。

エンターテインメント・コンテンツだけではなく、現在では様々な発言や出来事が、インターネットを通じて世界中に簡単に広まります。

「そんなに目くじら立てる事でもないのでは?」と思っていても、世界の常識では「あり得ない」と判断される事もあります。

その様なリスクも踏まえ、通訳者や翻訳者はもちろん、海外とのコミュニケーションに携わる人々、海外に何かを発信する人々、グローバルな活動をする人々は、常に世界の常識やニュースにアンテナを張り、アップデートする事が大事なのではないでしょうか。

外交通訳の場

外交における通訳の場で、訳す事が難しいジョークや、相手を不快にさせる可能性が高い表現があった場合、通訳者は交渉をスムーズに行う為に、その発言を訳さない場合があります。

一方で、AIIC(国際会議通訳者連盟)のメンバーで、様々な国際的な場で活躍をされていた通訳者 グラッツィエ−ラ・デ・ルイス (Graziella DE LUIS) さんは、2003年に開催された欧州議会で、ドイツのシュルツ議員に対して当時イタリアの首相であったベルルスコーニ氏が発した侮蔑的発言を、誤魔化すことなく訳しています。

その侮蔑的発言とは「私はナチス時代のドイツの強制収容所に関する映画の製作者を知っています。あなたを看守役に提案しましょう。あなたならピッタリだ」といった内容でした。

「ナチ強制収容所の看守役に推薦してあげる」問題発言集 写真特集 (時事ドットコムニュース)

これは、グラッツィエ−ラさんがフランスの翻訳・通訳専門の名門大学院 ESIT(École Supérieure d'Interprêtes et de Traducteurs / 国立通訳翻訳大学院)で学んでいた時、ESITの初代校長で有名な通訳の先生でもあるダニカ・セレスコビッチ / Danica Seleskovitch 先生から徹底的に言われた『通訳をする時、通訳者の意見や見解は関係ない』を実践されたからとのこと。

通訳者は「2つの異なる文化を結ぶ橋渡し」として、自分の考えや意見は関係なく、その場において必要な務めを全うする為に、最善の判断を瞬時にする事が求められます。

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