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キャンセルカルチャー / Cancel culture について ~報道から学ぶ英語表現~

前回、当ブログで「文化の盗用 / Cultural appropriation」についてご紹介しましたが、これに関連した言葉で同じく最近よく使われる言葉に「キャンセルカルチャー」があります。今回は「キャンセルカルチャーとは?」をテーマに、その意味や言葉の由来、関連英語表現 等を通訳 / 翻訳者の視点も交えてご紹介したいと思います。Gerd AltmannによるPixabayからの画像)

キャンセルカルチャー とは
Cancel culture

2019年後半からソーシャルメディアや既存メディアで、使われ始めた言葉「キャンセルカルチャー / Cancel culture 」。最近では、その問題点も指摘され始めています。

まず、キャンセルカルチャー / Cancel culture の定義について、英語と日本語で調べてみました。

from Cambridge dictionary
cancel culture noun
a way of behaving in a society or group, especially on social media, in which it is common to completely reject and stop supporting someone because they have said or done something that offends you:

https://dictionary.cambridge.org/dictionary/english/cancel-culture

デジタル大辞泉 (コトバンク)より
キャンセル‐カルチャー
特定の人物・団体の反社会的言動を人々が問題視し、追放運動や不買運動などを起こすこと。
[補説]正当な抗議活動としての側面もあるが、SNSで情報を拡散するなどして激しく糾弾し、社会的地位を失わせる行き過ぎた事例も増えており、しばしば問題視される。

https://kotobank.jp/word/%E3%82%AD%E3%83%A3%E3%83%B3%E3%82%BB%E3%83%AB%E3%82%AB%E3%83%AB%E3%83%81%E3%83%A3%E3%83%BC-2879219

言葉のはじまりは諸説ありますが、2017年 ハリウッドの大物プロデューサー ハーヴェイ・ワインスタインによる性的暴行を、告発した被害者をサポートする為に広がった「#MeToo」運動や、2020年に起きた「Black Lives Matter」等と言われています。

日本大百科全書
(ニッポニカ) (コトバンク)より
キャンセルカルチャー

「これまでの文化(見方や伝統)を見直すこと」という意味で、アメリカにおける現在の政治的な分断のなかで定着したことばの一つである。

 この「キャンセル」の使い方は、当初は一種のジョークのような軽い意味合いだった。「恋愛をキャンセルする」などのように、「キャンセル」を場違いなことばとして使うことば遊びのようなものであった。

しかし、「キャンセルカルチャー」ということばには強い政治的な意味が含まれるようになった。そのきっかけとなったのは、2020年初夏の黒人差別反対を訴えるブラック・ライブズ・マター(BLM)運動の広がりである。この運動は白人警察官による黒人男性への暴行死事件に対する抗議から始まり、公平性(エクイティequity)を求める声は全米に広がった。

そのなかには、奴隷を所有していたことで建国の父祖founding fathersとよばれる合衆国建国時の政治リーダーたちの像の撤去を求める運動もあった。これに対して、当時の大統領トランプは「暴徒たちの行為はアメリカの文化を否定する“キャンセルカルチャー”だ」となじった。これをきっかけに多様性や公正性を求める動きを揶揄(やゆ)する捨て台詞として、保守層に「キャンセルカルチャー」ということばが定着していく。

https://kotobank.jp/word/%E3%82%AD%E3%83%A3%E3%83%B3%E3%82%BB%E3%83%AB%E3%82%AB%E3%83%AB%E3%83%81%E3%83%A3%E3%83%BC-2879219

通訳者からの考察

90年代までは You’re cancelled は軽いジョーク的な言葉として使われていました。

無視、敬遠、シカト... たとえば「お前の発言権取り消し(笑)」的な感じと言えば伝わるでしょうか。子供同士のからかい言葉的な感じで使われていました。

右田アンドリュー・ミーハン

コールアウト・
カルチャー
 call-out culture

キャンセルカルチャー / Cancel culture の前段として、知っておきたい言葉に「コールアウト・カルチャー / Call-out culture」があります。

「アウトレイジ・カルチャー / Outrage culture 」とも呼ばれる この行為は、たとえばソーシャルメディア等の公の場で、社会的に受け入れられない言動を批判されたり、説明を求められたりする事、つまり日本のネット用語の「晒し」と呼ばれる行為と同様の意味を持ちます。

from Cambridge dictionary
call-out culture / call out culture noun
a way of behaving in a society or group in which people are often criticized in public, for example on social media, for their words or actions, or asked to explain them:

https://dictionary.cambridge.org/dictionary/english/call-out-culture


因みに Call-out / Call something Out の意味は「大声で何かを言う事」。そして Call-out culture により発生するのが「炎上 / Backlash」です。

キャンセルカルチャー / Cancel culture は、この Call-out culture の発展形と捉える事もでき、過去の事も含め、現在 不適切と判断される事象/言動/物 等をキャンセル=解除/破棄/取り消すことを意味します。

前回紹介した「文化の盗用 / Cultural appropriation」も、この Call-out culture により批判にさらされ炎上したり、キャンセルカルチャー / Cancel culture により不買運動が起きたりします。

コンテンツの
改訂 / キャンセル

この「キャンセルカルチャー / Cancel culture」の流れを受けて、ミステリーの女王と呼ばれるアガサ・クリスティの小説において「現在 不適切」と判断された表現が2023年に改訂されました。

アガサ・クリスティーの探偵小説を改訂、不快な可能性のある表現削除 (2023.03.28 CNN.co.jp)

これ以外にも、例えば映画「風と共に去りぬ / Gone with the Wind」がストリーミングサービス「HBO Max」の配信ラインナップから削除されたり、世界的バンド ザ・ローリング・ストーンズ / The Rolling Stones が、彼ら自身の曲「ブラウン・シュガー / BROWN SUGAR」をステージでは演奏しないと宣言すると言った事も起きています。

こう言った事態は、今後増える可能性もあります。

日本でも古いコンテンツをテレビ等で放送する際に、現在では容認されない差別用語や表現等があった場合、該当のセリフの音声を消したり、モザイクをかけたりして放送するケースがあります。(注釈をつけて、そのまま放送する場合もあります。)

小説等の翻訳や映画字幕等でも、改訂版として現在の基準にあわせた表現に差し替えた版が出版されるや、字幕翻訳をし直したバージョンが出てくるかも知れません。

しかし過去に生み出された「名著」「名作」を、現代の基準にあわせて、作者本人が選んだ言葉を勝手に変えて良いのか?と言う論争もあります。

名作文学の「差別用語」はどこまで削除されるべきか? アガサ・クリスティ作品も修正しなければ絶版に…(2023.5.18 The New York Times / COURRIER JAPON)

今後 翻訳版出版等においてどの様な対応が取られるのか、翻訳者も注視が必要です。

意識高い系
Woke / Wokeness

文化の盗用 / Cultural appropriation が「人種差別」と密接な関係にある事は、前回のブログ記事でもご紹介しましたが、「キャンセルカルチャー / Cancel culture」も同様に「人種差別」や「ジェンダー差別」等と密接な関係があります。

つまり「ダイバーシティ&インクルージョン / Diversity and inclusion = 多様性を受け入れる社会」が叫ばれている現在において、不適切と判断される事象/言動/物 等は過去のものであっても排除すべき と言うのが「キャンセルカルチャー / Cancel culture」です。

さらに、この様な社会的問題に気付き、行動する事を意味する言葉もあります。それが Woke / Wokeness です。日本語に訳すとすれば「意識高い系」でしょうか。

from Cambridge dictionary
woke verb
past simple of wake

woke adjective
aware, especially of social problems such as racism and inequality:

https://dictionary.cambridge.org/dictionary/english/woke

そもそも WokeWake の過去形で「目覚めた」と言う意味ですが、それが転じて「差別や平等と言った社会的問題に気付く事、認識する事」を意味する様になりました。

Wokeness は、さらに1歩進んで「その問題を認識し、解決しようと取り組もうとする状態」を指します。

また、こう言った いわゆる「意識高い系」な理念を掲げる企業が、問題解決に向けて起こす行動を Woke Capitalism と呼んだりもします。

今、アメリカで大きく盛り上がる「Woke Capitalism」とは何か(2019.07.31 現代ビジネス)

さて、使われ始めてから約3~5年が経ったこれらの言葉は、現在では肯定的=ポジティブな意味だけではなく、ネガティブな意味でも使われる様になりました。

例えば woke people は、BLMまでは人種差別に反対する人々を表す言葉として、肯定的に捉えられていました。

しかし現在では「なんでもかんでもに噛みつく現状にウンザリ」と言った思いを抱える人たちから、ありとあらゆる社会における不当や不平等に立ち向かう「意識高い系の人たち」と、揶揄する場合にも使われたりしています。

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報道から学ぶ英語表現のシリーズ記事は、以下リンクより一覧でご確認頂けます。
https://meehanjapan.com/tag/english-from-news/

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