今回は以前ミーハングループのFacebookページにてご紹介した、通訳者 グラッツィエ−ラ・デ・ルイス ( Graziella DE LUIS ) さんのインタビューをご紹介します。
通訳者 Graziella DE LUIS
様々な国際的な場で活躍をされていた通訳者 グラッツィエ−ラ・デ・ルイス (Graziella DE LUIS) さん。
AIIC(国際会議通訳者連盟)のメンバーでもある彼女は、英語、スペイン語、フランス語、イタリア語、ポルトガル語と5か国語での通訳を行い、第266代ローマ教皇や各国の首脳などの通訳も務めました。
今回は、ミーハングループのFacebookページで以前掲載したグラッツィエ−ラさんのインタビューを再構成して紹介します。インタビューは、2015年3月に仙台で行われた「第3回国連防災世界会議 」に、通訳として出席するため彼女が来日した際に行いました。
生きる為に言葉を覚えた
キューバで産まれたグラッツィエ−ラさんは、幼い頃に起きたキューバ革命によって、ご家族全員と共に国外退去になりました。家や財産をすべて没収され、メキシコからスペイン、アメリカへと渡った時、グラッツィエ−ラさんは まだ5歳だったそうです。
その後アメリカやスイス、ヨーロッパで過ごされたグラッツィエ−ラさんは、多くの国際的通訳者を輩出しているESIT (école supérieure d'interprètes et de traducteurs, パリ国立通訳翻訳高等学院) に入学し、卒業後 国連他にて通訳者としての活動を始められたそうです。
ESITはパリのソルボンヌ大学の一部にあたります。ソルボンヌ大学は日本でも有名だと思いますが、国立の機関でフランスのパリ、クレテイユ及びヴェルサイユの3大学区にある13の大学の総称です。ノーベル賞学者など、多数の有名人を輩出していることで知られています。
グラッツィエ−ラさんが通訳者を目指された理由は、幼い頃から様々な場所に移り住まれ、その都度 ご家族の通訳をされていたので自然に….という事でしたが、この様々な場所に移り住まれた背景には、グラッツィエ−ラさんのお父様の深い想いが隠されていました。
父はキューバ革命によって、それまでに自分と自分の家族が築いた全ての財産を没収されてしまい、その後移り住んだ国々で言葉が通じない事で、大変な苦労をしました。
その事から『没収されない財産を築く事の大切さ』、つまり 『誰にも奪われない財産=言語』 を子供たちに自然に身に付けさせる為に、アメリカだけではなく、スイスやイギリス、ヨーロッパにも移り住み、言葉を覚えさせたんです。
壮大な、しかしお父様の強い意志を感じさせるエピソードです。
通訳をする時、通訳者の意見や見解は関係ない
グラッツィエ−ラさんは、始めにご紹介した現法王の他に、クリントン元大統領やオバマ元大統領、ベルルスコーニ 元イタリア首相などの通訳もされています。
さらになんと、ご自分の家族を国外退去にしたフィデル・カストロ元首相の通訳もされた事があるとの事。どんな気持ちで通訳をされたのか伺ったところ、こんな答えが返ってきました。
私がESITで勉強をしていた時、有名な通訳の先生でESITの初代校長でもあるダニカ・セレスコビッチ先生から徹底的に言われた事の1つに 『通訳をする時、通訳者の意見や見解は関係ない。』があります。
通訳者としてカストロ氏のお仕事を受けたのですから、私の考えや意見は関係ありません。ESITで教わった通り、私は2つの異なる文化を結ぶ橋渡しとしての務めをまっとうしました。
カストロは人を魔術に掛ける様な、本当にカリスマ性の高い人でしたね。
ユーモアやジョークを通訳するのは本当に難しい
インタビュー中も沢山のユーモアを交えてお話をしてくださったグラッツィエ−ラさん。
しかしこのユーモアやジョークを通訳するのは本当に難しいそうで、グラッツィエ−ラさんはESITでジョークの通訳に困った時には「今、全然わからないジョークをスピーカーが言ったので、笑ってください」と訳す方法を教わったそうです。
ローマ教皇の通訳
グラッツィエ−ラさんは現ローマ教皇の通訳をされた事があります。果たしてローマ教皇の通訳者とは、どの様に選ばれるのでしょうか?
私はローマ教皇専属の通訳と言う訳ではないんですよ。現在はローマに住んでいますから、バチカンに通訳者として登録をしておいたら、お話を頂いたんです。
今までのローマ教皇は6ヶ国語くらい話せたので、通訳は必要なかったんですが、現在の第266代ローマ教皇 はスペイン語とイタリア語しか話されないので、通訳が必要なんです。
私は今までに3回通訳をしました。本当に庶民派の方で、写真撮影にも全て応えられて、人々の身の上話にも耳を傾けられる素晴らしい方です。
グラツィエ―ラさんは、EU議長国の演説でベルルスコーニ氏を批判したドイツの議員に対して、ベルルスコーニ氏が侮蔑的発言をした時にも通訳をされたそうです。
「ナチ強制収容所の看守役に推薦してあげる」問題発言集 写真特集 (時事ドットコムニュース)
ベルルスコーニ氏がドイツの議員に対して言ったのは「私はナチス時代のドイツの強制収容所に関する映画の製作者を知っています。あなたを看守役に提案しましょう。あなたならピッタリだ」といった内容でした。
『通訳をする時、通訳者の意見や見解は関係ない。』とは言え、なかなか気まずい発言です。
2つの文化を結ぶ橋
母語以外の言葉を学ぶときのポイント
グラッツィエ−ラさんは、お仕事では英語、スペイン語、フランス語、イタリア語、ポルトガル語の通訳をされ、さらに、プライベートではドイツ語も話されていました。
そこで母語以外の言葉を学ぶときのポイントについて伺いました。
その国の食べ物を食べる事、言語は食!。言葉と文化の結びつきは強く、習得する言葉の国の食べ物を食べる事により、食べ物の名前や料理の名前を覚える事から、文化・歴史も学べます。
また子供用のお話には、その国の文化や考え方、常識などが多く反映されているので、言葉を理解するだけではなく、その言葉の背景を理解するにも、絵本やマンガを読むこともお薦めです。
最後にグラツィエ―ラさんに、通訳の仕事の極意とは?とお伺いしたところ、こんな答えが返ってきました。
ESITでも教えている事で、通訳の仕事で重要なポイントなのですが、言語によって伝わるのはわずか7%。非言語である話し方や口調は38%、態度やジェスチャーで伝わる情報は55%もあるそうです。
ですので、通訳者は訳すときの声のトーンや話し方も大事にしないといけません。トーンによって伝わる意味が変わる事もありますから。
通訳とは2つの文化を結ぶ橋の様なものです。言葉を単に置き換えるだけでなく、背景にある文化や歴史、考え方などを考慮して訳さなければ、本当に話者の話したいことは伝わりません。
話者の立場になって、言葉の意味や、伝えたい事は何かを考えて訳す事が、通訳者の仕事です。
実は残念な事にグラッツィエ−ラさんは、2019年3月10に起きたエチオピア航空機墜落事故でお亡くなりになりました。
乗客乗員全員が犠牲となったこの事故機には、ナイロビで開催される国際連合環境計画の会議に参加するための人が多く搭乗していおり、少なくとも19人の国連機関の職員やフリーランスの通訳が含まれていました。グラッツィエ−ラさんもその内の1人でした。
参照記事
https://www.bbc.com/japanese/47492815
明るい笑顔が印象的で、エネルギッシュに、機知に富んだお話をしてくださったグラッツィエ−ラさん。改めて心より哀悼の意を表します。
AIIC(国際会議通訳者連盟)
グラツィエ―ラさん、そしてミーハングループ代表 アンドリュー・右田氏もメンバーの AIIC(国際会議通訳者連盟)は、会議通訳者を代表する綜合専門職能団体です。
国際会議通訳者連盟・AIICでは現在、様々な通訳者の為のオンライン・セミナーを行っています。
以前にもブログにてご紹介しましたが、5月2日には AIICアメリカ支部長のDavid Violet氏が、ノートテイキングのセミナーを行います。
David Violet氏も元国連スタッフ会議通訳者で、1988年からアメリカ国務省認定会議通訳者を務めています。
最近の実績としてはスタンフォード大学専属会議通訳者、マーク・ザッカーバーグ氏や、International Women of Courage Award(IWOC Award)でのメラニアトランプ大統領夫人の通訳、グローバル気候行動サミットでカルフォルニア知事などの通訳などが上げられます。
Website
https://www.davidviolet.com/
AIIC page
https://aiic.net/directories/interpreters/4258
5月2に行われるDavid Violet氏の、オンライン・ノートテイキングセミナーにご興味のある方は、以下リンクより申込が出来ますので、ぜひチェックしてみて下さい。
また、ミーハングループでも現在通訳や翻訳者及び、通訳や翻訳の勉強をしている人を対象にしたセミナーの実施を準備しております。こちらは詳細が決定し次第、このブログやミーハングループ・ソーシャルメディア等にてお知らせ致します。