翻訳・通訳プログラムで世界的に有名なミドルベリー国際大学院モントレー校(MIIS)が、2027年6月までにすべてのオンキャンパス大学院プログラムと一部のオンライン学位プログラム廃止を2025年8月末に発表したと、中国系メディアが報じました。今回の記事ではこの話題について、少し触れたいと思います。(画僧:Middlebury Institute of International Studies, Public domain, via Wikimedia Commons)
アメリカ
ミドルベリー国際大学院
モントレー校
カリフォルニア州モントレーにあるミドルベリー国際大学院モントレー校(Middlebury Institute of International Studies at Monterey / 旧モントレー国際大学院 / 略称 MIIS)は、翻訳・通訳プログラムで世界的に有名な学校です。
Website
https://www.middlebury.edu/institute/
カリキュラムを通して、A言語(母国語)とB言語(母国語に近いレベルの外国語)間の翻訳・通訳に必要なスキルを習得。
最新の翻訳・通訳テクノロジーやソフトウェア、ツールの活用方法も学び、実習とキャリアに焦点を絞ったカリキュラムを通して、生涯活用できるスキルを培います。
全てのプログラムにおいて、英語の他に中国語、フランス語、ドイツ語、日本語、韓国語、ロシア語、スペイン語の7言語のうち1つ(あるいは2つ)が専攻言語となります。
経験豊富な教授陣が各言語のスキルベースの授業の指導にあたる他、様々なインターンシップ・就職支援も整っている事で知られています。
- Middlebury Institute of International Studies 翻訳、翻訳・通訳、会議通訳修士課程
- Japanese Translation and Interpretation / Middlebury Institute of International Studies
- 海外で通訳・翻訳を学んでプロになる・ミドルベリー国際大学院モントレー校 客員教授 森千代先生インタビュー (2023.10.18 通訳翻訳ジャーナルWeb)
弊社代表で通訳 / 翻訳者の右田アンドリュー・ミーハンもメンバーの AIIC / 国際会議通訳者連盟にてコンサルタント通訳(AIIC会員に仕事を依頼する役職)を務めている通訳者の多くも、同校にて通訳学の修士号や博士号を取得しています。
MIISの成り立ち
MIISの成り立ちについては、同校の日本語ブログ記事「モントレー国際大学について(2008年10月26日)」でも紹介されています。
Monterey Institute of International Studies (MIIS) は、かつてはカリフォルニア州の州都でもあったモントレーに、ガスパルド・ウェイス、レムセン・バード、ドワイト・マローJr.の三氏によって1955年に設立された私立の大学院です。もともとはMonterey Institute of Foreign Studiesという名称で、国際理解を語学と文化の勉強によって深めるのを目的とした学校でした。名称が変わった現在でもこの精神はMonterey Instituteの根幹を成す哲学として行き続けています。
Georgetown University
LIngLang
MIIS の設立は1955年ですが、同時代、通訳翻訳プログラムで知られていた大学学部には、ワシントンDCにある Georgetown University の Linguistics and Languages Department (当時の名称、愛称は LIngLang )があります。
※現在の Georgetown University Department of Linguistics が、Linguistics and Languages Department に該当するかと思います。
Georgetown University / ジョージタウン大学 は、日本の上智大学と結びつきが深い事でも知られていますが、これは双方の大学の設立母体がカトリック・イエズス会であるからです。 元国連高等難民弁務官で上智大学名誉教授としても知られる緒方貞子氏は、ジョージタウン大学にて国際関係論修士号を取得しています。
また、MIISと同じカルフォルニア州モントレーには、アメリカ国防省の通訳翻訳養成機関 Defense Language Institute Foreign Language Center / DLIFLC もあります。
MIIS
通訳・翻訳コースを閉鎖
2025年9月 中国系のメディアが「ミドルベリー国際大学院モントレー校(MIIS)が、2027年6月までにすべてのオンキャンパス大学院プログラムと一部のオンライン学位プログラムを廃止すると発表した」と報じました。
- 外语将成首个被AI淘汰的专业?还值得学吗?(2025.09.08 中国教育在线)
- 「翻訳のハーバード」MIISが2027年に閉校を発表。AIの波が業界を塗り替えることになるのか?(14/10/2025 VOCOニュース|世界中国語リアルタイムニュース情報ネットワーク)
- 翻訳・通訳の専攻コースが続々停止に。AIに奪われた最初の職業となる(2025-10-23 中華IT最新事情)
記事には「学校新聞【ミドルベリー・キャンパス】によると、中止対象にはモントレー・キャンパスのすべての大学院課程と、国際教育管理とTESOL(英語を母国語としない人への英語教授法)の2つのオンライン・プログラムが含まれる」と書かれています。
実際に同校の学校新聞 The Middlebury Campus のサイトを見てみると、メディアが報じている内容が、2025年8月28日の記事 College to close MIIS by June 2027 に掲載されています。
from The Middlebury Campus / College to close MIIS by June 2027
The college will end all residential graduate programs and certain online degrees at the Middlebury Institute of International Studies (MIIS) by June 2027. In a community-wide email and video announcement, college President Ian Baucom said that the Board of Trustees decided on Wednesday, August 27 to approve his recommendation that Middlebury phase its Monterey-based programs out within the next two years, citing severe under enrollment and financial deficits.https://www.middleburycampus.com/article/2025/08/middlebury-to-close-miis-by-june-2027
本件に関しては中国語と英語の通訳者で、同校で学部長も務めたLaura Burian氏が、この状況を説明する動画を ご本人のLinkedIn ページにて投稿されています。
通訳・翻訳コースが
閉鎖される理由は?
本件を報じたメディアは、MIISの通訳・翻訳コース閉鎖の理由を、翻訳・通訳におけるAIの台頭が理由なのではないかと推測しています。
中華IT最新事情 / 翻訳・通訳の専攻コースが続々停止に。AIに奪われた最初の職業となる(2025-10-23)より
花形職業だった通訳はAIに打ちのめされた中国では外国語専攻は人気が高い。中国が世界貿易機関(WTO)に加盟した2001年前後から、大学に外国語専攻コースが急増した。1999年に200校だったものが、2010年には600校に増えている。
就職率は90%以上を維持し、卒業生の平均初任給は全体平均よりも15%高かった。
しかし、AIが普及すると、同時通訳などのように高度なスキルを要求する分野はともかく、一般的な翻訳業務などは不要になってきた。「2023年中国学部生就職報告」(マイコス研究院)によると、2023年の外国語専攻学部生の就職率は84.5%で平均よりも1.9%ポイント低い。初任給は月5695元(約11.7万円)で、平均を下回るようになっている。
一方で、Laura Burian氏はメディアが報じている様な、AIの台頭が通訳・翻訳コース閉鎖の理由ではなく、財政的な問題による閉鎖と、ご本人がLinkedInに投稿した動画で説明。
現学長のIan Baucom氏も同様の説明を行っている事をメディアは伝えています。
MCI Glendon
Give-Back Labs
Fundraiser
通訳者からのTips
私も会員になっている AIIC / 国際会議通訳者連盟 公認の、通訳士養成プログラムを提供する大学としては、アメリカだとミドルベリー国際大学院モントレー校(MIIS)が知られていますが、カナダのヨーク大学グレンドンキャンパス York University Glendon Campus Master of Conference Interpreting(略称 MCI) でも提供されています。
しかし残念ながら、MCI は現在 新たな学生の募集を行っていません。
この様な状況となった背景については、Master of Conference Interpreting が 現在 行っている fundraising / 資金調達活動のページで説明されていますが、MIISの状況と同様に大学セクターの予算削減の影響の為とのこと。
カナダ政府の雇用見通しによれば、通訳者の就職の見通しは「非常に良好」とされているのに、大学のプログラムが閉鎖されるのは、非常に残念です。
MCI Glendon の fundraising では、サポートしてくれた人々に対する様々な特典 / Reward も用意されています。ご興味のある方は、ぜひ以下リンクよりチェックしてみて下さいませ。
ミーハングループ代表・通訳者
右田アンドリュー・ミーハン
Glendon Give-Back Labs
- Interpreting Workshops, in support of MCI 2025-26
https://www.zeffy.com/en-CA/ticketing/mcis-shop
The context of MCI Glendon Give-Back Labs Fundraiser
In-person training is a crucial component of any interpreter's training. It's a profession that continues to be in very high demand, and the job prospects according to the Canadian federal government's job outlook are "very good." Despite this, this program has been hit hard by budget cuts in the university sector, as with many interpretating schools (Monterrey's closure, for example) and beyond. In fact, all admissions to MCI-Glendon are on pause, and this is the last cohort of MCI that will receive a master's, possibly for a long time.
Last year, the second year cohort received news mid-term that no funding was available for their profs to come teach the in-person intensives, and they held a successful fundraiser. As with last year, and despite the program's best efforts, we have also been told that no funding is available to bring our profs over to teach on-site. So, today, we are coming to you for help.
https://www.zeffy.com/en-CA/ticketing/mcis-shop
通訳・翻訳は
AIに仕事を奪われる?
機械翻訳技術の進化により、AIに仕事を奪われる職業として「通訳・翻訳」は、何度となく筆頭に上げられてきました。
しかし本当に「通訳・翻訳」は、AIの台頭により仕事を奪われてしまうのでしょうか?
2025年10月1日 本ブログに掲載した記事 機械翻訳について / Machine Translation でも書きましたが、ここ数年、仕事が減った、または仕事が無くなったと言う方よりも、仕事が増えた、繁忙期は通訳者・翻訳者の人手が足りていない...と言う声の方を良く聞く気がしますし、そう言った状況も実感しています。
もちろん、仕事のやり方については機械翻訳が無かった頃と現在では変化している部分も多々あります。しかし、仕事が減ったや機械翻訳に仕事を100%奪われた...と言う話は、余り聞きません。
通訳翻訳ジャーナル2025年SPRING号では、「通訳・翻訳業界 最新マーケット動向2025」と言う記事を紹介しており、一部内容をWebsiteでも公開していますが、仕事が減っていると言う声は少ない様です。
VOCOニュースの記事「翻訳のハーバード」MIISが2027年に閉校を発表。AIの波が業界を塗り替えることになるのか?(14/10/2025)では、同記事の締めくくりに 人間と機械の協働が未来になる と書いています。
人間と機械の協働が未来になる
専門家は、AIは事前翻訳、用語のマッチング、言語パターンの分析といった多くの反復的なタスクを処理できるものの、真の翻訳には依然として文化理解、言語の洗練、そして感情表現が必要であり、人間の専門知識と監督が不可欠であると指摘しています。
翻訳・ローカリゼーション業界の未来は、AIが人間の労働力を単に置き換えるのではなく、人間と機械の協働モデルへと進化していくでしょう。
単なる言葉の置き換えではない、相手に伝わる通訳・翻訳をする為には、大学などでの専門的な勉強や技術の習得は必要不可欠です。
今回のミドルベリー国際大学院モントレー校(MIIS)における通訳・翻訳コース閉鎖や、カナダのヨーク大学グレンドンキャンパス Master of Conference Interpreting の様な状況、また様々な大学等での語学コースの縮小等が、後々、通訳・翻訳市場に大きな影響が出ないとも限りません。この様な状況が少しでも早く改善される事を、ミーハングループも心より願っています。








