スウェーデン王立科学アカデミーは10月5日、2021年のノーベル物理学賞をプリンストン大学の上級研究員でアメリカ国籍を取得している真鍋淑郎氏、及びドイツとイタリアの研究者の3名に授与すると発表しました。
この発表を受け多くのメディアが真鍋淑郎氏の功績を紹介しています。さらにノーベル賞受賞後に行われた記者会見にて、アメリカ国籍取得に関して質問された真鍋氏の回答も、日本では注目を集めています。
本ブログではこの真鍋氏の記者会見における国籍についての発言等を少し紹介したいと思います。
ノーベル物理学賞 受賞
真鍋淑郎氏
ドイツとイタリアの研究者とともに、2021年ノーベル物理学賞を受賞した真鍋淑郎氏は、アメリカ・ニュージャージー州プリンストンに本部を置くプリンストン大学(Princeton University)の上級研究員です。
1960年代から気候変動の研究を行い、大気と海洋を結合した物質の循環モデルを提唱、世界に先駆けて二酸化炭素濃度の上昇が地球温暖化に影響するという予測モデルを発表しています。
今回のノーベル物理学賞は、同じ分野で研究をしてきたドイツのクラウス・ハッセルマン氏、及び統計物理学を専門にしているイタリアのジョルジョ・パリ―ジ氏と合わせて3人での受賞となりましたが、ノーベル賞の選考委員会は、真鍋氏の研究が「現代の気候の研究の基礎となった」と発表しています。
アメリカ国籍取得
真鍋氏は愛媛県出身で、1958年に東京大学大学院理学系研究科を修了。理学博士を取得した後、同年渡米。
アメリカ政府の気象局や海洋大気庁、プリンストン大学などで長年研究活動を行い、1975年にアメリカ国籍を取得しています。
参考リンク・ プリンストン大学 Websiteより
‘Great fun’: Manabe wins Nobel Prize in physics for modeling climate change
https://www.princeton.edu/news/2021/10/05/great-fun-manabe-wins-nobel-prize-physics-modeling-climate-change
ノーベル物理学賞受賞後に行われた記者会見では、このアメリカ国籍取得に関しての質問がありました。そしてその質問に対する真鍋氏の回答も日本で注目を集めています。
日本からアメリカへ
国籍変更の理由
記者会見にて、共同ニュース(共同通信)の記者が「国籍を日本からアメリカに変更した主な理由はなんですか?」と質問をしたところ、真鍋氏は「興味深い質問ですね」と答えた後に、以下の様に述べています。(HUFF POST 記事 真鍋淑郎さんは、なぜ米国籍にしたのか。「日本の人々は、いつも他人を気にしている」 から引用)
日本の人々は、非常に調和を重んじる関係性を築きます。お互いが良い関係を維持するためにこれが重要です。他人を気にして、他人を邪魔するようなことは一切やりません。
だから、日本人に質問をした時、『はい』または『いいえ』という答えが返ってきますよね。しかし、日本人が『はい』と言うとき、必ずしも『はい』を意味するわけではないのです。実は『いいえ』を意味している場合がある。
なぜなら、他の人を傷つけたくないからです。とにかく、他人の気に障るようなことをしたくないのです。
(中略)アメリカでは、他人の気持ちを気にする必要がありません。私も他人の気持ちを傷つけたくはありませんが、私は他の人のことを気にすることが得意ではない。アメリカでの暮らしは素晴らしいと思っています。おそらく、私のような研究者にとっては。好きな研究を何でもできるからです。
HUFF POST :真鍋淑郎さんは、なぜ米国籍にしたのか。「日本の人々は、いつも他人を気にしている」
https://www.huffingtonpost.jp/entry/story_jp_615ce9f7e4b0896dd1a9fa7d?d_id=2687533
もちろん真鍋氏の国籍変更は、これだけが理由ではなく様々な背景や理由があると思いますが、日本とアメリカ社会の違いを上手く表しているとも思います。
会見では、この国籍変更の質問に対してユーモアも交えて答えた真鍋氏。会場でも笑いがところどころ起きていました。そして真鍋氏は「私はまわりと協調して生きることができない。それが日本に帰りたくない理由の一つです」と笑いながら言い、話を締めくくりました。
和を大事にする社会
真鍋氏が話されたことは、日本ではよく「和を以て貴しと為す」と表されたりします。
聖徳太子が制定した十七条憲法の第一条に出てくる言葉で、「人々が協調することの重要性を述べた言葉」と言われています。(コトバンク「和を以て貴しと為す」 より)
では、アメリカでは周りの人々との調和や協調が全くないのか?と問われれば、もちろんそんな事はありませんが、日本はアメリカや他国よりも調和や協調を社会の中で非常に「重視」する社会であるとは言えると思います。
これは「良し悪し」の話ではなく、違いの話です。その上で、真鍋氏は日本の社会よりもアメリカの社会の方が、彼の研究や性格にあっていたと言う話だと思います。
現在コロナ禍で、海外への渡航や海外から来日する人は減っています。しかしグローバル社会が以前よりも当たり前になっている現状において、他国の国籍を取得した日本人、または日本の国籍を取得した〇〇人と言うのは増えていますし、これからも増える可能性もあります。
また、国籍取得に至らなくても日本に移住する他国の方々や、日本で会社起こしたり、ビジネスをする他国の方々は以前よりも格段に増えました。
そう言った状況を受けて、日本でも「ダイバーシティ&インクルージョン(多文化共生/多様な価値観との共生)」が、ここ数年 重要課題として企業や学校で取り上げられています。
ミーハングループも、通訳・翻訳と言った言語に関わる専門スキル、言葉だけのサポートではなく、言葉の背景にある文化や常識、社会の違いを踏まえたサービスの提供を今後も行っていきたいと思います。