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カマラ・ハリス氏 大統領候補 指名受諾演説 同時通訳

カマラ・ハリス氏は、民主党全国大会最終日の2024年8月22日 、アメリカ大統領候補の指名を受諾。演説を行いました。当日、TBSで放送されたこのハリス氏 指名受諾演説の同時通訳を、弊社代表で通訳者の右田アンドリューは務めました。今回のブログでは、この同時通訳にあたり どの様に準備したかや、通訳内容についてのポイント等 をご紹介したいと思います。

カマラ・ハリス氏
指名受諾演説 同時通訳

2024年8月22日 民主党全国大会最終日に行われた、カマラ・ハリス / Kamala Harris 氏のアメリカ大統領候補 指名受諾演説。

当日、TBSで放送されたこのハリス氏演説の同時通訳を、弊社代表で通訳者の右田アンドリューと、通訳者の今井一咲子氏が務めました。

今回は、このカマラ・ハリス氏の演説の同時通訳の裏側 = どの様に準備したかや、訳す時のポイント等を、右田アンドリュー・ミーハンにインタビューしましたので、ご紹介致します。

ハリス氏 指名受諾演説
同時通訳・準備編

ーーまず最初に、カマラ・ハリス 氏のアメリカ大統領候補 指名受諾演説を同時通訳するにあたり、事前準備としてどの様な事をしたか?チェックした資料や動画などを教えて下さい。

右田:今回は、アメリカから生配信されたハリス氏の演説動画の同時通訳でしたので、ぶっつけ本番で行われました。

当日、彼女が何を話すのか?原稿等もないので分かりません。ですので、まずは最近ハリス氏が行った演説の動画や記事を幾つか見て、ハリス氏の演説で主に使われている言葉や話題を抜き出し、用語集を作りました。

今回はテレビで放送されますので、用語集は単なる対訳集ではなく、放送に適さない言葉の代訳等も含めた用語集になりました。

加えて、テレビ局(TBS)が事前に入手したハリス氏が話すと予測されるテーマ等についても、ニュースサイトや動画サイトで調べて、どの様な表現を使って話しているかチェックし、用語集に反映させる等の準備をしました。

What time will Kamala Harris speak at the DNC? Timing, schedule, how to watch(August 22, 2024 NBC Chicago)

また、ハリス氏の他地域で行った演説動画に併せて、同時通訳を行う練習もしました。

右田アンドリューが作った、今回の演説の為の用語集

ーー今回の同時通訳に対応する為のスケジュールを教えて下さい。準備はいつ頃からスタートしましたか?

右田:本番日(8月22日)の1週間前くらいから準備を始めました。前日は通常通り(23時くらい)に就寝。起床もいつも通りで朝5時くらい。スタジオ入りは午前10時、スタジオを出たのは12時半ごろだったと思います。

ハリス氏 指名受諾演説
同時通訳・当日編

ーー当日現場に持っていったものは何ですか?

右田:当日は、事前に作った用語集に加えて、演説の内容を書き留めるノートとペン等を持ち込みました。

用語集は、通訳者によってはPCなどで作成して持ち込む人もいますが、私は書いた方が頭に残るので、昔ながらの紙(ノート)に書いて作成する事が多いです。

特に生放送の時には、用語集をPC等で作って持ち込んだ場合、操作に時間がかかったり、デバイス・トラブルがあると困ります。

また、今回はテレビ局のブースで生配信された動画を見ながら同時通訳を実施したので、あちこちの画面を見ると気が散る場合もあります。ですので紙に書いた用語集を用意しました。

でも、現場によっては用語集をPC等で作って持ち込む事もあります。

2014年撮影・右田アンドリューの、通訳ブースに持ち込む仕事道具の一例。

同時通訳の際に、ブースに持ち込む道具の詳細については、以下記事でも紹介しています。

ーー演説開始までの流れについて教えて下さい。

右田:当日は午前10時にスタジオに入りました。生配信を見ての同時通訳になりますので、事前打ち合わせはナシ、原稿もナシ、ぶっつけ本番です(苦笑)。一応、事前に段取りだけはテレビ局の人に確認しました。

また、一緒に同時通訳を行った今井一咲子さんとは、交代時間を確認。10分ごとに交代する事は決めましたが、あとは阿吽の呼吸で対応しました。

ーー今井一咲子(Hisako Imai)さんとは、以前にも同時通訳を一緒にされた事はあるんですか?

右田:しょっちゅうと言うわけではありませんが、何度かご一緒したことがあります。ですので安心でした。

通訳を終えての感想

ーー通訳を終えての感想や、今回の通訳で気をつけた事等について教えて下さい。

右田:自分自身としては、完璧とは言い難いし、放送通訳専門ではないので不備もあったと思いますが、なんとか対応できたとは思います。

でも、いつもの事ではありますが、反省が全くないと言うわけもありません。なにしろぶっつけ本番での同時通訳だったので、後で映像を見て「こう訳せば良かった」と思う箇所も幾つかありました。

例えば Roe vs Wade 日本では、ロー対ウェイド判決と言わないとピンと来ないと思い、その様に訳しましたが、放送後に「中絶の権利が奪われてしまいました」等と訳せば良かったと思いました。その方がスッと理解出来たと思います。

ロー対ウェード判決 中絶巡る米最高裁判断、49年ぶり覆る(2022年6月26日 日本経済新聞)

ハリス氏の指名受諾演説は、日本でも注目度の高い演説だったので、出来るだけ見てる人がスッと理解できる、分かりやすい日本語を使うことを心がけました。例えば「GUMBO」を「ガンボスープ」と訳す様なイメージです。

また Kamara IS Brat で知られる様に、ハリス氏は大統領候補として相応しくない表現も使ってしまうタイプです。

今回の演説でも若い人への訴求も含めて、だいぶラフな表現をところどころで使っていました。

日本だと、その様な表現を使う場合は「言葉は悪いが…」等と前置きをして使うことが多いですが、英語の場合は 〇〇〇, I mean 的な言い方で、言った後に説明する事が多いです。

一例:I don't do that half-ass.
これはスラング的表現で、直訳すると「お尻半分にはやりませんでした 」ですが、誠意のない、でたらめな、中途半端なと言った意味となります。因みに ass はタブーに近い、汚い表現。日本語で言ったら「ケツ」的な言葉になります。

この部分については、今回の同時通訳では「中途半端な事をせずにやりました」と訳しました。

ハリス氏は、この言葉を言った後にスラングを使った理由(意味や表現の説明)を話したのですが、その部分は訳していません。

I don't do that half-ass を使った理由の部分を訳すと、長々と説明が必要となりますし、見ている人にとっても話が分かりづらくなるからです。

この様に、ただ話している内容を直訳するだけではなく、見ている人 / 聞いている人にスッと理解できる通訳や、言葉の選択のバランスを取る事にポイントを置いて、今回の同時通訳は行いました。

ハリス氏が話していた内容が、見ていた人に「わかりやすく」届いていたら良いのですが...。それにしても、ぶっつけ本番の同時通訳は本当に大変です。これも日々精進、努力ですね。

同時通訳 豆知識

今回、右田アンドリュー・ミーハンが行った同時通訳は、生配信にあわせた同時通訳でしたが、時差通訳と言うモノもあります。

これは録画した映像を見た後に、映像にあわせて通訳を行うスタイルになります。

時差通訳は、ニュース番組などで行われる事が多く、例えばアメリカで放送されたニュース映像を、日本で放送する前に通訳者が見て翻訳。放送時に英語音声にあわせて、翻訳した放送用の原稿を通訳者が読むスタイルです。

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