東京オリンピック2020の開会式で話題となったモノと言えば色々ありますが、人によるピクトグラムの再現パフォーマンスもそのヒトツだと思います。今回のミーハングループブログでは、このピクトグラムを通して感じたこと、「やさしい日本語」そして「通訳/翻訳」について書きたいと思います。
開会式 ピクトグラム
50個パフォーマンス
2021年7月23日 東京オリンピック2020 開会式で話題を呼んだ「ピクトグラム50個の連続パフォーマンス」。皆さんは御覧になりましたか?
このピクトグラム・パフォーマンスが注目された事から、現在さまざまなピクトグラムを作成する事が流行っているそうです。
ピクトグラム とは
ところで、このピクトグラムとは具体的にどういうモノを指すのでしょうか?Wikipediaにはこんな説明がありました。
ピクトグラム(英語: pictogram)あるいはピクトグラフ(英語: pictograph)とは、一般に「絵文字」「絵単語」などと呼ばれ、何らかの情報や注意を示すために表示される視覚記号(サイン)の1つである。
一般的に地と図に明度差のある2色を用いて、表したい概念を単純な図として表現する技法が用いられる。様々なマークが数多く存在する。
Wikipedia より
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%94%E3%82%AF%E3%83%88%E3%82%B0%E3%83%A9%E3%83%A0
また英英辞典(Cambridge Dictionary)では以下の様な説明がされています。
- a picture or symbol that represents a word or phrase
- a picture that represents information or statistics (= numbers)
From Cambridge Dictionary
https://dictionary.cambridge.org/us/dictionary/english/pictogram
つまり、伝えたい情報を、誰にでもわかりやすい、シンプルな「絵」で表したモノと言う事になるかと思います。
開会式の放送でも紹介がありましたがピクトグラムは、日本では、1964年東京オリンピック開催時に外国語によるコミュニケーションをとることが難しい、当時の日本人と外国人の間を取り持つために、日本デザイン学会設立委員であり、東京オリンピックのデザイン専門委員会委員長も務めた勝見勝(かつみ まさる)氏らによって開発されたのが始まりとの事。
この勝見勝氏は日本の美術評論家であり、フランス文学者でもある方で、初期はフランス文学の翻訳もされていたと、Wikipediaにはありました。
言語が通じない人との意思の疎通=コミュニケーションを目的に作成された「ピクトグラム」。これもグラフィック・デザインと言う手法を使った、一種の翻訳であるとミーハングループは思うのですが、皆さんは如何でしょうか?
やさしい日本語
本ブログでも何度か紹介している、シンプルでわかりやすい表現の「やさしい日本語」は、この「ピクトグラム」によるコミュニケーションにも通じるものがあるなと感じます。
実際に、東京都オリンピック・パラリンピック準備局の「やさしい日本語について」のページには以下表記があります。
世界には、多くの言語があります。すべての外国人に対して母語で情報を伝えることが一番理想的ですが、現実的には不可能です。そこで、言語の選択という問題が生じます。
多言語対応協議会では「多言語対応の基本的な考え方」を2014年に定め、「日本語+英語及びピクトグラムによる対応を基本としつつ、需要、地域特性、視認性などを考慮し、必要に応じて、中国語・韓国語、更にはその他の言語も含めて多言語化を実現」とし、取組を進めています。
しかし、言語の中でも難易度があるため、とりわけ、多くの外国人が理解できる日本語においては、できるだけわかりやすい情報発信(「やさしい日本語」)が求められています。
以下記事「やさしい日本語」でもご紹介しましたが、やさしい日本語は「優しい日本語」ではありません。
英語では Simple Japanese と言ったりもしますが、やさしいは「易しい」つまり、わかりやすい日本語表現の事を言います。
例えば
- こちらにご芳名をご記入下さい。
- こちらにお名前を書いて下さい。
どちらも同じ意味ですが「こちらにお名前を書いて下さい」の方が、分かりやすい事は一目瞭然です。やさしい日本語とは、誰でもがわかりやすい表現の日本語と言う事です。
つまり、シンプルな表現の絵を通じた意思の疎通=コミュニケーションを目的として作成された「ピクトグラム」と、 誰でもがわかりやすい表現の「やさしい日本語」は、非常に近い関係にあるのではないでしょうか。
オリンピックにおける
通訳/翻訳
様々な国の人々が集まるオリンピック/パラリンピックでは、「ピクトグラム」や「やさしい日本語」の様に、シンプルな表現を用いたコミュニケーションが重宝されます。
しかし、全ての事柄が「ピクトグラム」や「やさしい日本語」で説明できる訳ではありません。
その為、多くの通訳者や翻訳者がIOCまたはJOCの求めに応じ集まり、開催国言語(オリンピック2020では日本語)や、オリンピック/パラリンピックの公用語である英語と仏語を、各国語に訳しています。
ミーハングループのFacebookでは何度かご紹介しましたが、オリンピック/パラリンピックにおける通訳/翻訳にも様々な種類があります。
IOCが招集/依頼する通訳/翻訳者、JOCが 招集/依頼する通訳者/翻訳者(ボランティア含む)、開催都市が招集/依頼する通訳/翻訳者 (ボランティア含む) 、さらにはメディアや協賛企業、交通機関が招集/依頼する通訳/翻訳者も居ます。
これ以外にもチームに帯同する通訳者や、医療関係を専門にする通訳/翻訳者もおり、オリンピック/パラリンピックと言う国際的大規模イベントに参加する通訳や翻訳者の数は膨大です。
昔に比べて、機械翻訳や通訳も発達してきたので、その業務量は多少は軽減されましたが、それでも全ての通訳/翻訳業務を機械化する事は難しく、多くの人々が携わっています。
シンプルに出来ない言語
機械化が難しい理由の一つに、言語は「歴史や文化、常識」を反映したものだからです。その言語が話される国の 「歴史や文化、常識」 を理解していないと、訳したり理解する事が難しい場合が多々あります。
東京オリンピック2020には、多くのLGBTQ+ の選手が参加していますが、そう言った「人や状況それぞれが持つ背景」によっても表現が変わる場合もあります。
例えば最近注目を集めている言葉に「ジェンダー代名詞/プロナウン」があります。
男性代名詞「He/Him」や女性代名詞「She/Her」に代わって、ジェンダーニュートラルな「They/Them」を使うことを言います。
参考リンク
時代を象徴するジェンダーレスな代名詞 (News Week 日本版 2020年2月記事)
この様な様々な状況や事情に応じて、通訳者や翻訳者は適切な言葉を選び、訳しています。
IOC Interpreter Team
ミーハングループ代表の右田アンドリュー・ミーハンは、1998年長野で開催された冬季オリンピックに通訳として初めて参加。
2008年 北京オリンピック、2012年 ロンドンオリンピック、2014年 ソチオリンピックでは、国際オリンピック委員会 / IOC 通訳チーフインタープリターのチームメンバーとして、日英の同時及び逐次通訳として参加しています。
また、オリンピック関連としては、アジア競技大会、ゲイゲームズ、WADA(世界ドーピング防止機構)のお仕事もさせて頂いており、さらに 2022年開催・北京冬季オリンピックでは、中国文化庁より選定され、翻訳エキスパートとして活動しています。
United by Emotion
人と人は明らかに異なり、しかし間違いなく同じなのだ。
私たちが共に抱く感情が、壁の向こう側を想像する力になり、互いを区別するものを超えてゆく力になる。
東京2020大会モットー ステートメントムービーより
多様性、多文化共生をメッセージの1つとして掲げてきた東京2020オリンピック/パラリンピック。
新型コロナウイルスの感染拡大により、2020年2月に公開された 大会モットー/ステートメントムービーにある様な光景は、残念ながら実現できませんでしたが、メッセージである「United by Emotion」が、様々な方法を通じて達成できることを心より願っています。