「Algospeak / アルゴスピーク」とは、ソーシャルメディア等で使用した場合、アルゴリズムによる検閲に引っかかり投稿等を削除される言葉や表現を、別の書き方や言い方、表現を用いることで回避する方法、またその別の表現そのものを指す言葉です。今回の本ブログ記事では、その「Algospeak / アルゴスピーク」について簡単にご紹介します。(WOKANDAPIXによるPixabayからの画像)
Algospeak /
アルゴスピーク とは
「Algospeak / アルゴスピーク」とは、ソーシャルメディア等で使用した場合、アルゴリズムによる検閲に引っかかり投稿等を削除されたり、アカウント停止となる様な言葉や表現を、別の言葉や絵文字、婉曲表現を用いることで回避する方法、言い換えた表現そのもの、またはそう言ったインターネットでの隠語・ネットスラング文化を指す言葉です。
- 隠語や絵文字で禁止用語を表す「アルゴスピーク」がソーシャルメディアで激増(2022.09.22 Forbes Japan)
- SNS規制をすり抜けろ!進化するネットスラング「アルゴスピーク」とは?(2025.06.26 Trendbites US by Kamenokoki)
- ‘Mascara,’ ‘Unalive,’ ‘Corn’: What Common Social Media Algospeak Words Actually Mean(Jan 31, 2023 Forbes)
- The words you can't say on the internet (20 November 2025 BBC)
「Algospeak / アルゴスピーク」は、ソーシャルメディアの運用に用いられる Algorithm / アルゴリズム と Speak / スピーク=話す を合わせた造語になります。
因みに日本では、Facebook や Instagram、または X(Twitter)や TikTok 等、ネット上にて文章・写真・動画を共有したり、人々とコミュニケーションをするための会員制サービスの事は、Social Network Service の略記である SNSと表記することが多いですが、英語ではSocial Media / ソーシャルメディアと言うのが一般的です。
ソーシャルメディアにおける
アルゴリズムとは
SNSのアルゴリズム徹底解説!誰も教えてくれない運用方法の秘訣とは?(2024/05/07 Gaiax )
SNSにおけるアルゴリズムとは、誰にどの投稿を表示するのか、どんな投稿かを評価・分類するためのルールです。 アルゴリズムはSNS媒体によって異なりますが、基本的には投稿と評価・ジャンル付け、およびユーザーの興味関心や交流履歴などから複合的に判断し、ユーザーがもっともエンゲージメントする確率が高いと考えられる投稿を表示するように最適化されています。
英語での
Algospeak 例
先程 ご紹介した Forbes の英語記事に Algospeak の例が幾つか掲載されているので、ご紹介したいと思います。
Algospeak は、ソーシャルメディアの検閲に引っかかりそうな、センシティブな話題=死にまつわる表現や、ポルノなど性的表現、またはネガティブな話題:パンデミック等を、別の言葉に言い換えて表現しています。
Common ‘algospeak’ Words / from ‘Mascara,’ ‘Unalive,’ ‘Corn’: What Common Social Media Algospeak Words Actually Mean(Jan 31, 2023 Forbes)
- Panini/Panorama/Panoramic
= Pandemic- Mascara
= Boyfriend/Romantic partner or can refer to male genitals- Unalive
= Suicide/Kill- Seggs/Shmex
= Sex- Corn or トウモロコシの絵文字
= Porn/Adult Industry- Cornucopia
= Homophobia- Leg Booty
= Member of LGBTQ Community- Le dollar bean
= Lesbian- Accountant
= Sex worker- S.A.
= Sexual Assault- Camping
= Abortion- Ninja or 忍者の絵文字
= Derogatory terms and hate speech towards the Black community
日本での
Algospeak
日本でも、ネットやソーシャルメディアでセンシティブな話題や言葉を使う場合、検閲及び投稿削除やアカウント停止を避ける為、書き方を変えたり、同音異語を使用したりする場合があります。
それらの表現については「ネットスラング」と呼ばれる事が多い様です。
例えば「死」についての話題については、見た目が似ている事からカタカナの「タ」と「ヒ」を組み合わせた文字表現「タヒ」を用いたり、同音異語を用いて「氏ぬ」「氏ね」などと書いたりします。
またネガティブな言葉ではありませんが、「神」と言う漢字を、あえてカタカナの「ネ」と漢字の「申」を併せて「ネ申」と表記したりするのを、見たことがある人も多いのではないでしょうか?
- 「タヒ」とは?意味や使い方・由来をわかりやすく解説(言葉の意味辞典)
- 「氏ね」「タヒ」も名誉毀損になる?ネットスラングに関する裁判例を紹介(2025.03.22 弁護士法人 モノリス法律事務所)
ソーシャルメディアは
言語の未来を
どう変えるか?
ハーバード大卒のコンテンツ・クリエーターであり言語学者でもある Adam Aleksic / アダム・アレクシック氏は、この様なネットに由来する言葉=Algospeakが、現実社会に与える影響、そして未来の言語に与える影響について書いた書籍「Algospeak: How Social Media Is Transforming the Future of Language」を、2025年7月に出版しています。
書評; アルゴスピーク:ソーシャルメディアは言語の未来をどう変えるか?(13 Sep 2025 ARAB NEWS より)
アルゴスピーク:著者のアダム・アレクシックは、「ソーシャルメディアはいかにして言語の未来を変えるか」の中で、アルゴリズムがいかにして私たちが使う言葉やコミュニケーションの方法を作り変えているかを探っている。「語源オタク」としてネット上で知られるハーバード大卒のコンテンツ・クリエーターは、ハーバード大学言語学会の共同設立者であり、2016年以来、語源を掘り下げている。一口サイズの教育的なTikTok動画で幅広い視聴者を獲得し、流行語の由来や広がり方を解説している。
日本語記事 https://www.arabnews.jp/article/features/article_158050/
English Article Book Review: ‘Algospeak: How Social Media is Transforming the Future of Language’
ソーシャルメディアが言葉を変える時代 - アダム・アレクシッチ氏のTEDトークから学ぶ(2025年7月11日 TEDキュレーター)より
アルゴリズムが生み出す新しい言葉
現代において、ソーシャルメディアのアルゴリズムは私たちの言語を根本的に変えつつあります。最も象徴的な例が「unalive(アンアライブ)」という言葉です。
この言葉は、TikTokで「kill(殺す)」という直接的な表現がアルゴリズムによって削除・抑制されるため、その回避策として生まれました。現在、多くの中学生が死について話すときの婉曲表現として使っていますが、そのアルゴリズム由来の背景を知りません。
アレクシッチ氏は、これを従来の婉曲表現とは「決定的に異なる」現象だと指摘します。アルゴリズムが直接的に言葉の変化を引き起こし、私たちを「麻痺させる」ような影響力を持っているのです。
身内言葉・隠語
Algospeak に限らず、例えば10代の子供たちが生み出す大人にはわからない言葉=若者言葉や、近しい人間にしか通じない表現=身内言葉、特定の職業や業界の人にしかわからない言葉=業界用語等、限られた人にしかわからない言葉や仲間内でしか通じない表現は昔から存在しました。
先程ご紹介した日本のネットスラングの多くは、1999年に西村博之氏が開設した日本最大規模の匿名電子掲示板サイト「2ちゃんねる(2ch、にちゃんねる)」から生まれています。
特定の場に集う人々が、外部の人に分らない様につかう言葉=隠語や身内言葉、婉曲表現に、ソーシャルメディアのアルゴリズムが関係するなんて、まさに Algospeak は 現在のコミュニケーション・スタイルを象徴していると思いますが、いかがでしょう。
スラング・身内ことば
※以下の内容は、2022年12月7日 本ブログに掲載した記事 ジョーク・スラング・身内言葉・ポップカルチャー ~通訳者の苦労話 その3~ からの文章になります。 Algospeak にも関連するスラングや身内言葉、隠語に関する話なので、再度掲載致します。
通訳者が困惑する場の1つに、スラング Slang が飛び交う法廷があります。
裁判の種類にもよりますが、例えば、薬物所持事件などで被告側が話すのは、法の裏の世界の人々が話す言葉が大半で、スラングや仲間内しかわからない言葉=身内ことばが多く、会議などの案件を通常手掛けている通訳者だと理解できない言い回しも多数出てきます。
因みに「身内ことば」の「身内」は、グループの人数や規模にもよりますが、英語では in-group と表現される事が多いです。身内でない人達のことは out-group 。この言葉はスラングではありません。
in-group / Cambridge dictionary
noun
a social group whose members are very loyal to each other and share a lot of interests, and who usually try to keep other people out of the group
in-group / American Dictionary
noun
a social group whose members share interests or characteristics that people outside the group do not sharehttps://dictionary.cambridge.org/dictionary/english/in-group
スラングや身内言葉を理解する為には、刑事ものと呼ばれる、裏社会の人々等も出てくるドラマを観たり、ストリート・カルチャー満載の雑誌や番組をチェックしたりする必要があります。
また、最新のポップカルチャー(サブカルチャー)をチェックできるシチュエーション・コメディ(sitcom)なども参考になります。
東京地裁では、法廷通訳セミナーは通常2日間開催され、裁判官も4~5人参加。法廷通訳者になるには3~4つのセミナーを履修しなければなりません。
弊社代表の右田アンドリュー・ミーハンは、東京地裁の法廷通訳者として登録している為、講師等にてこのセミナーに参加することもありますが、裁判官から「ポップカルチャーやスラング、身内言葉にもっと強い法廷通訳者が必要」と指摘される事が多々あるそうです。
隠語
薬物所持事件などでは、違法な薬物の呼び名が隠語 Jargon になっていたり、薬物の密輸・輸入が隠語で表現されたりします。
jargon / Cambridge Dictionary
noun
special words and phrases that are used by particular groups of people, especially in their work:
jargon / American Dictionary
noun
words and phrases used by particular groups of people, esp. in their work, that are not generally understood:https://dictionary.cambridge.org/dictionary/english/jargon
また、薬物の使い方にからむ表現などは隠語はもちろん、曖昧な、普通に聞いたら何のことかわからない表現で話される事もあります。
これは違法薬物関係だけではなく、組織的な犯罪集団でも同じ事が言えます。
暴力事件では、肉体的な暴力だけでなく、精神的に相手を傷つけたり追い詰める暴力もありますが、それらを表す隠語も多様かつ速いスピードで変わりますし、国や地域によっても異なる場合もあります。
こう言った身内言葉や隠語による表現の複雑さに加え、被告や被害者、犯罪に関係した人や証言者が法廷で話す場合、緊張したり、不安な気持ちもあってか、感情的になりやすかったり、早口になる場合も多く、法廷通訳の複雑度が増す場合も多いそうです。
AIや機械翻訳では
対応しきれない
表現や言葉
上記記事でも書きましたが、隠語は多様かつ速いスピードで変わりますし、国や地域によっても異なる場合もあります。それと同様に Algospeak も、言葉の性質上、一般化すると別の表現に変わることが多々あります。
弊社代表の右田アンドリュー・ミーハンは、東京地裁の法廷通訳者として登録。同裁判所・法廷通訳セミナーの講師もしていますが、裁判官から「ポップカルチャーやスラング、身内言葉にもっと強い法廷通訳者が必要」と指摘される事も多いと話しています。
翻訳精度の高さ含め、昨今注目を集めるAI翻訳ですが、この様に速いスピードで常に変化する表現や、一般化されていない言葉の翻訳には充分に対応できない場合もあります。
つまり Algospeak 含め、様々な状況でのコミュニケーションにあわせて、常に変化する多様な表現や言葉に迅速かつ柔軟に対応する事は、これからの通訳者や翻訳者に強く求められる「スキルのひとつ」なのかも知れません。


