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国民民主党 玉木雄一郎代表の英語発言 ~報道から学ぶ英語表現~

日本外国特派員協会(FCCJ)で開かれた会見にて、国民民主党の玉木雄一郎代表が英語で発言した内容が「女性蔑視的」であると、ネットで波紋を呼びました。今回のブログ記事では、玉木代表の発言を例に会見等における英語や外国語表現の難しさについて紹介します。

国民民主党 玉木代表の
英語での発言

2025年6月24日 日本外国特派員協会(FCCJ)で開かれた、7月に行われる参院選についての記者会見で、国民民主党の玉木雄一郎代表は、記者から「女性からの支持率が低い理由と改善策」について質問されました。

※以下リンク動画は、J-CASTニュース 工藤博司氏からの質問からスタートします。この質問を通訳者が英語に訳した後、国民民主党 玉木代表が英語で回答をしています。

J-CASTニュース 工藤博司氏から、「国民民主党の女性の支持率が低い理由と改善策」について質問された玉木代表は、I have no idea. Could you please tell me how to overcome this problem? と答えた後、「なんででしょうね」と日本語も交えながら、以下の様に英語で答えました。

From the very beginning of the establishment of our party September 1990 and since then, unfortunately we have not yet get the the popularity late from women.

Many people say, what we are saying is very complicated and it’s very difficult to understand. But last year’s general election, increasing the 1.03 million to 1.78 million it’s easy to understand.

So I think our policy is good not only for men but also women but I think it’s very difficult to understand for them.

※国民民主党の設立は2020年9月。玉木代表の英語での発言内における 1990年 9月は誤り。玉木代表本人も自身の発言を通訳者が日本語に訳す際に訂正しています。

この後、玉木代表は高齢者からの支持を得ることの難しさについても言及し、以下の様に質問の答えを結んでいます。

So, I tried to, we have been trying to explain many times and it’s our policy is good as women and the elderly but... so far we have not been successful to get the support from the the women and the elderly.

国民民主党は、なぜ女性から支持されないのか 玉木代表苦悩「I have no idea」「なんででしょうね...?」(2025年6月24日 J-CASTニュース )

玉木代表の英語発言は
女性蔑視?

この「女性からの支持率が低い理由と改善策」に対する玉木代表の英語での回答について、「女性をバカにしている」「女性蔑視だ」と批判する投稿が、X(Twitter)等で相次ぎ、波紋を呼びました。

これに対して玉木代表は以下の様にハフポスト日本版にコメント、また自身のX(Twitter)アカウントにも同様の釈明・謝罪の言葉を投稿しています。

ハフポスト日本版記事より

昨日の外国人特派員協会での記者会見での私の発言内容について、女性蔑視とのご指摘をいただいています。私がお伝えしたかったのは『国民民主党の政策は女性にとっても良い政策だと考えていますが、実際には女性に届いていない実状があり、それについて難しさを感じています』でした

それが、会見では『it’s very difficult to understand for them.』と言ってしまいましたが、本来は『it’s very difficult to deliver to them.』というような表現を使うべきでした

英語が未熟なため、拙い表現をしてしまったことを反省しています。決して女性蔑視をするつもりはありませんでした。女性の方々に支持が広がっていないのは、政策をちゃんと伝え切れていない私たちの問題です。本当に申し訳ございません

https://www.huffingtonpost.jp/entry/story_jp_685b3781e4b0a6ad6d5ade18

国民民主党 玉木代表の投稿のキャプチャ
https://twitter.com/tamakiyuichiro/status/1937724947511878034

them は 誰を指しているのか

もう1度、玉木代表の質問に対する回答を見てみましょう。

Many people say, what we are saying is very complicated and it’s very difficult to understand.

But last year’s general election, increasing the 1.03 million to 1.78 million it’s easy to understand.

So I think our policy is good not only for men but also women but I think it’s very difficult to understand for them.

この it’s very difficult to understand for them. と言う表現が「( 国民民主党の政策は)女性には難しくて理解できない」と捉えられ「女性をバカにしている」「女性蔑視だ」と言った批判に繋がりました。

しかし、玉木代表は for women とは言っていません。複数の人やモノを表す代名詞 them を使っています。

それなのに何故「女性には難しくて理解できない」と伝わり、批判されたのでしょうか?

理由は質問内容及び文脈にあります。

玉木代表は「女性の支持率が低い理由と改善策」と言う質問対して答えていました。それを踏まえると them が女性を指していると捉えられても仕方ありません。

発言の意図は異なったとしても、少なくとも、当日会場に居た英語話者は them =女性と理解した可能性が高いと思います。

因みに会見に同席した通訳者の方は、玉木代表の英語での発言を日本語に訳す際 but I think it’s very difficult to understand for them. の箇所はスキップして訳していました。

気をつけなければいけない
Understand の使い方

日本語では「理解」と訳される事が多い understand ですが、例えば人に対して「わかってる?(理解してる?)」等と言う意味で Do you understand ? と言うと、親が子供に言う様な、非常に上から目線の不快な表現になるので注意が必要です。

もし英語で「わかってる?(理解してる?)」と言いたいのであれば Does it make sense? や、 カジュアルな表現であれば Did you get it? 等と言う言い方もあります。

玉木代表の英語力

玉木代表は、1997年にアメリカのハーバード大学ケネディースクール / Harvard Kennedy School (ハーバード大学の公共政策大学院)を修了されています。

ご自身のWebsiteにも ハーバード大学留学時代のエピソードを掲載。「一晩で100ページ以上、英語の本を読むといった宿題は、とてもきつかったが鍛えられた。」と書かれています。

また、2018年1月 希望の党代表であった時にも、日本外国特派員協会(FCCJ)で玉木代表は会見をされていますが、この時はスピーチ部分は英語で、質疑応答は日本語で対応されています。

これらを踏まえると、ネイティブではありませんが、玉木代表は英語が堪能と言えると思います。

※玉木代表は、2018年5月に大塚耕平さんとともに共同代表を務めた国民民主党にて、日本外国特派員協会(FCCJ)で会見を実施。この時もスピーチ部分は英語、質疑応答は日本語で対応。さらに2024年11月にも国民民主党の代表として会見をされていますが、この時は日本語にて対応されています。

Diplomatic language
外交辞令

Diplomatic language とは、日本語では「外交辞令」等と訳される事が多い、外交の場や国際会議などで使われる丁寧で婉曲的な表現や、微妙かつ含みのある言い回しなどを意味します。 

イメージしやすい日本語に意訳するならば、diplomatic language は「永田町文学 / 霞が関文学」的な表現と言えるでしょうか。

永田町文学 / 霞が関文学とは、政治の世界=東京・永田町 / 国会議事堂周辺や、官僚の世界=霞が関で使われる、曖昧な表現や婉曲な的な言葉遣いを指す表現です。「永田町用語 / 霞が関用語」等と言われる事もあります。

霞が関文学って何?(NHK NEWS WEB)

日本語ネイティブ話者であっても、誰もが「永田町文学 / 霞が関文学」的な話し方が出来るわけではないのと同じで、 英語が堪能であっても diplomatic language に長けているとは限りません。

スピーチの様な、前もって準備をした原稿を読む様なシチュエーションであれば、母語・第一言語以外の言葉、つまり第二言語・例えば英語で行う場合でも問題なく対応出来る事が多いです。

しかし、交渉や質疑応答の場となると diplomatic language / 外交辞令のスキルも必要となる為、使用言語が母語・第一言語であっても細心の注意が必要となりますし、いくら堪能であっても使用言語が第二言語 / 英語等であった場合、不利な状況に追いやられるケースもあります。

特に記者会見の様な、公の場で行われる質疑応答では、逃げ場のない状況で回答しづらい質問をされることもありますし、発言ミスを誘発させたり、言いたくない事を言わせるような婉曲な表現や言い回しを使った質問をされることもあります。

そのため、政治家やスポーツ選手、セレブ等は、自身の母語・第一言語ではない言語で行われる記者会見や交渉の場では、仮に使用される言語がネイティブレベルであったとしても、通訳者をつけるのが一般的です。

通訳者からのTips

デリケートなやり取りの多い裁判/司法の場を始め、記者会見や国際会議等でも長年通訳を務めてきましたが、diplomatic language を訳すのは、訳す言語の言葉選びも含め本当に大変です。

例えば、今回の玉木代表の英語発言にもあった【 difficult / 難しい・困難な 】と言う表現は、diplomatic language / 外交辞令ではネガティブな印象を与えるので、使用する事はほとんどありません。

Diplomatic language / 外交辞令では、直接的な表現は使わず全てが婉曲的に表現されるので、独特の言い回しや表現が必要となります。

その為、使用言語が堪能であっても 母語・第一言語でない場合は、政治家やセレブは交渉や会見の場では必ず通訳者をつけるのです。

最近では crisis communication / 危機管理広報 の場でも diplomatic language はよく使われており、米国訴訟における crisis communication の翻訳や通訳などを、ミーハングループでは数多く手がけています。

右田アンドリュー・ミーハン

日本外国特派員協会
での会見

日本外国特派員協会(FCCJ)で開かれる会見では、通訳者が同席するのが一般的です。

2025年6月24日に行われた玉木代表の会見にも通訳者は同席しており、会見冒頭 玉木代表が英語で挨拶をした後、日本語で説明した7月に行われる参院選での国民民主党の公約等は通訳者が英語に訳していますし、質疑応答でも日本語の質問を英訳したり、英語の発言を日本語に訳したりしていました。

しかし会見での発言内容を後日訂正した場合、会見主催者及びその場にいた通訳者が、訂正した内容を訳したり、発信する事はまずありません。

玉木代表が釈明投稿に書かれた、本来言いたかった内容が、当日会見場に居た英語話者の記者たちにも正確に伝わる事を願わずにはいられません。

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