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最後まで話す ~通訳者の視点から~

日本はハイコンテクスト社会・文化と言われています。その為、相手の話している事・言いたい内容を途中で察して対応する事もしばしば、あると思います。今回はこの「察する会話の難しさ」について、異文化コミュニケーションの視点から、少し考えてみたいと思います。AdrianによるPixabayからの画像)

皆まで言うな

「皆まで言うな」こんな日本語の表現を聞いたり、目にした事はないでしょうか。

デジタル大辞泉 / コトバンクより

皆まで言うな(みなまでいうな)
全部言わなくてもよい。多く、話し手の意図や話の展開を察して、「わかった」「理解した」の意で用いられる。

https://kotobank.jp/word/%E7%9A%86%E3%81%BE%E3%81%A7%E8%A8%80%E3%81%86%E3%81%AA-1715645

言いにくい事を告げる相手に「皆まで言うな」等と答えるシーンを、時代劇等で見たことがある方もいらっしゃると思います。

これは、相手の辛い気持ち等を察して発せられる言葉ですが、日常的な会話の中でも 最後まで言葉を言わず、曖昧な表現をする人っていますよね。

「この書類、昨日提出だったんですけど...」「○さんからお電話があったんですけど...」「今日の会議は何時頃...」

こんな風に言われた場合、例えば

  • この書類、昨日提出だったんですけど...
    スミマセン!今日中に提出します!
  • ○さんからお電話があったんですけど...
    わかりました!折り返し連絡します
  • 今日の会議は何時頃...
    ○時スタートで、終了は〇時くらいですかね

等と、相手の言いたい事を汲み取って答えるケースが多いと思います。

もちろん、日本語以外でもこの様なやり取りは存在しますが、基本的に親しい間柄の人や、やり取りのコンテクスト/背景情報が明確な場合に限ります。

日本は、ハイコンテクスト社会・文化と言われていますが、確かにこの様なやり取りは他言語より多い気がします。

デジタル大辞泉 / コトバンクより
ハイ‐コンテクストhigh context
[名・形動]互いの文化や価値観が近かったり、背景や事情をよく理解していたりするため、言葉による詳細な説明がなくてもコミュニケーションが円滑にとれること。

https://kotobank.jp/word/%E3%81%AF%E3%81%84%E3%81%93%E3%82%93%E3%81%A6%E3%81%8F%E3%81%99%E3%81%A8-3133132#w-3439806

通訳者からのTips

「○○(数字)で出るかどうか聞いてみてよ」

私が通訳をしたビジネス会議で、日本側の方に、この様に言われた事が以前あります。○○の部分は数字でした。

しかし 通訳する側としては、○○=数字が「金額」なのか「個数」なのか分からないし、「出る」の意味も不明だったため、質問の意図を聞き返しました。

「金額」や「個数」等を話していたのであれば、○○と言う数字の後ろに来る言葉や単位は ある程度推測できますが、そうでない場合や、推測できる場合であっても慎重に話を進めるのが大事なビジネス会議の場合、間違いがあってはいけませんので、相手の機嫌を損ねる事はわかっていても、通訳者は質問の意図を聞かざるを得ません。

質問した日本側の方は、案の定、その後 非常に不機嫌になっていましたが...。

ここ数年注目を集める「機械翻訳」「AI翻訳」ならば、この場合 どう訳すか?現役通訳・翻訳者としては気になるところです。

右田アンドリュー・ミーハン

やさしい日本語

本ブログに以前掲載した「やさしい日本語」の記事内にもある、東京都が公開している上記の動画【外国人おもてなしフォーラム】「やさしい日本語」とコミュニケーション10のポイント でも、「最後まで話す」や「曖昧表現を避ける」と紹介しています。

分かっているだろう、分かってくれるだろう、察するのが当たり前...ではなく、曖昧な表現を避け、キチンと最後まで話す事は、意思の疎通はモチロン 誤解を生まない為にも必要です。

特に日本語は、語尾で話の内容がガラッと変わってしまうこともありますから、気をつけたいところです。

歩み寄り

コロナ禍以降、訪日観光客数は増えるばかり。公共交通機関や観光地も外国人旅行者でいっぱい...と言う光景は、既に当たり前になってきました。

さらに、日本の文化や常識を知らずに観光に来て、周りに不快な思いをさせる観光客を「迷惑外国人」と名付けて、苦言を呈すネットの投稿やメディア記事も多く目にします。

もちろん動画配信の再生数稼ぎ等で、人にわざと嫌がらせをしたり、不適切な行動をとる人に対しては、毅然と対応、適切な機関へ連絡する必要があります。

しかし、異なる背景を持つ人とのコミュニケーション=異文化コミュニケーションの場合、価値観や常識が全く異なる為、お互いの歩み寄りが必要な場合もあります。

日本人にとって、言葉による詳細な説明がなくてもコミュニケーションが円滑にとれるハイコンテクストな社会は楽な部分もありますし、「察する文化」は日本の素晴らしいところでもあります。

そんな日本の良さを理解して、適切に行動する観光客も大勢います。

しかし現状を考えると「異なる文化や常識を持ち、日本の常識を理解していない人たち」に、どうしたら適切な行動をしてもらえるか? お互いが気持ちよく過ごせるよう 更なる歩み寄りも、必要なケースもあると思います。

オーバーツーリズムは日本だけではなく、世界各国でも問題になっています。より良い方策が早期に打ち出される事を願いつつ、ミーハングループも通訳・翻訳といった領域にて、「言語だけに留まらない 文化・ビジネス・心の橋渡し」を合言葉に、これからも頑張っていきたいと思います。

イベント情報
日国シンポジウム

国語・国文学者 松井簡治により編纂、1915年に刊行された日本初の大型国語辞典「大日本国語辞典」。

戦後、小学館が松井簡治の孫である松井栄一と共に作り上げ、1972年 全20巻・収録語数45万語にて初版刊行となった「日本国語大辞典」。そして50万語100万用例を収録し、2000年に刊行された「同 第二版」。

そんな歴史ある「日本国語大辞典」の改訂が、2032年刊行に向けてスタートしました。

2025年1月31日には、既に発表されていた金水 敏編集委員、近藤泰弘編集委員に加え、この改訂の為の4名の新編集委員の発表もされました。

※編集員及び第三版改訂についての詳細は、以下リンク小学館・特設サイトにてご確認下さいませ。

『日本国語大辞典 第三版』特設Website
https://www.shogakukan.co.jp/pr/nikkoku3/

さらに、2025年3月21日 には「2025 日国 春の辞典シンポジウム」が開催されます。

本イベントでは「デジタルと辞書」「小型辞典と大型辞典」をテーマに、豪華ゲストによる座談会を実施とのこと。

当日の司会は『三省堂国語辞典から 消えたことば辞典』編著者の見坊行徳氏。

登壇者は『岩波国語辞典』編者・柏野和佳子氏、作家・言語学者の川添 愛氏、文字情報技術促進協議会 会長・小林龍生氏、『日本国語大辞典 第三版』編集委員から金水 敏氏 と 近藤泰弘氏の4名になります。

さらに本イベントでは、1月31日に発表された『日本国語大辞典 第三版』新編集委員の紹介も予定とのこと。

日本語及び英語や他言語の通訳者・翻訳者は、英語を始め他言語のレベルが高い事を求められがちですが、母語となる日本語の理解度も非常に重要です。また、通訳・翻訳と言う仕事に「辞書」は欠かせないアイテムでもあります。

本イベントにご興味のある方は、以下情報及びリンクにて詳細をご確認の上、ご参加下さいませ。

2025
日国 春の辞典シンポジウム
開催概要

  • 開催日
    2025年3月21日(金)
  • 時間
    18時〜20時
    ※開場17時30分
  • 会場
    日本出版クラブビル
    東京都千代田区神田神保町1-32
  • テーマ
    辞典の未来 ~AI と DX と国語辞典~
    • 第1部「小型辞典と大型辞典」
    • 第2部「デジタル変革と国語辞典」
  • 参加費:無料 
    ※事前申し込みが必要です。下記リンクよりお申し込みください。
    ※申込締切り:2025年3月20日まで
  • 詳細・申込
    https://form.id.shogakukan.co.jp/forms/nikkoku_2025a

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