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谷川俊太郎さんが手掛けた翻訳作品

詩人・谷川俊太郎さんは、数多くの翻訳も手掛けられたことでも知られています。先日 逝去された谷川さんを偲び、今回のブログでは、スヌーピーで知られるコミック「ピーナッツ」など、谷川さんが手掛けられた有名翻訳作品を、通訳/翻訳者視点からのTips等も交えて、幾つかご紹介致します。(EdarによるPixabayからの画像)

詩人 谷川俊太郎

詩人の谷川 俊太郎(たにかわ しゅんたろう)さんが、2024年11月13日に逝去されました。

谷川俊太郎さんは、詩人だけではなく、翻訳家、絵本作家、脚本家等としても活躍。1975年 日本翻訳文化賞、1988年 野間児童文芸賞、1993年 萩原朔太郎賞など、数々の賞を受賞されました。

アニメ「鉄腕アトム」の主題歌の歌詞も、谷川さんの手によるものです。

鉄腕アトムの英語タイトルは、ご存知の通り Astro Boy 。本作は海外でも大変有名で、弊社代表で通訳者の右田アンドリュー・ミーハンも、通訳を行った会議のアイスブレイク等で何度も「鉄腕アトム/Astro Boy」が話の中で出てきた事があると話していました。

鉄腕アトム(1980)オープニング

さて、今回の本ブログでは様々な形で「言葉」と向き合ってきた谷川さんを偲び、スヌーピーで知られるコミック「ピーナッツ」など、谷川さんが手掛けられた有名翻訳作品を、通訳/翻訳者視点からのTips等も交えて、幾つかご紹介したいと思います。

谷川俊太郎さんが
手掛けた 翻訳作品

谷川俊太郎さんが手掛けた翻訳作品でよく知られているのは、光村図書出版発行・小学校2年生用 国語の教科書 他 に掲載されていた「スイミー / Swimmy」ではないでしょうか。

著者は、オランダ出身でアメリカの絵本作家である レオ・レオニ / Leo Lionni 。出版は1963年になります。

日本では「スイミー ちいさなかしこいさかなのはなし」の邦題で、1969年 好学社から出版されました。

本作の冒頭には「1ぴきだけは、カラス貝よりもまっくろ」と言う、主人公であるスイミーを紹介する文章があります。

この箇所は英語では Only one of them was as black as a mussel shell と表現されています。

mussel shell とは、日本ではフランス語でのこの貝の呼び名としても用いられてる moule から、「ムール貝」または「ムラサキ貝」と呼ばれる事が多い二枚貝のこと。

-Rita-👩‍🍳 und 📷 mit ❤によるPixabayからの画像

日本で「ムール貝」は「カラス貝」と呼ばれる事もありますが、実は日本固有種で淡水に生息する別種の「カラス貝」も存在します。

いずれにしても mussel shell を「ムール貝」または「ムラサキ貝」とせず、「カラス貝」とすることで、たとえ「カラス貝/ムラサキ貝/ムール貝」を知らなくても、その黒さが子供にもイメージしやすい翻訳だと思います。

谷川さんは「スイミー」以外にも、多くのレオ・レオニの作品を翻訳しています。

それ以外の谷川さんの翻訳作品も本当に数多く「あしながおじさん(ジーン・ウェブスター/ Jean Webster 作・少年少女世界の文学 河出書房)」や、「マザー・グース 1~4(講談社文庫)」なども手掛けられています。

コミック ピーナッツ
PEANUTS

谷川さんが翻訳を手掛けた事で知られる有名作品と言えば、やはりスヌーピーが登場するチャールズ・M・シュルツ / Charles Monroe Schulz 作のコミック「ピーナッツ/ PEANUTS」を外すことは出来ません。

1950年10月2日にアメリカの新聞7紙で連載がスタートしたコミック「ピーナッツ」。

スヌーピー生誕70周年を記念して、2019年10月より毎月2冊ずつ刊行された「完全版 ピーナッツ全集 スヌーピー1950~2000」は、シュルツ氏の手書きのセリフと谷川さんの翻訳の両方が、同一ページで楽しめるバイリンガル仕様でした。(本シリーズは2021年11月より電子版の配信も行われています。)

谷川さんは この完全版・全25巻の完結により、全1万7897編の個人完訳という世界で初めての偉業を成し遂げられました。

※下記リンクサイトにて掲載サンプルページがご覧いただけます。

スヌーピー生誕70周年記念出版
完全版 ピーナッツ全集 スヌーピー1950~2000
(河出書房新社・2019年~刊行)
https://web.kawade.co.jp/bungei/2752/

また「完全版 ピーナッツ全集 スヌーピー1950~2000」の刊行時には、谷川さんのスペシャルインタビュー動画も公開されました。

本インタビューでは、コミック「ピーナッツ」を知ったキッカケや、翻訳し始めた頃に困ったこと等も話されています。

コミック「ピーナッツ」は、日本では1969年に「ピーナツ・ブックス(谷川俊太郎, 徳重あけみ 共訳)」を 鶴書房が刊行。表記は「ピーナッツ」ではなく「ピーナツ」になります。

以後、多くの出版社から様々な「ピーナッツ」シリーズが出版されています。

「ピーナッツ」の翻訳を始めた時のご自身の英語力に関して谷川さんは「高卒程度の能力」と、2012年10月に復刻販売された「スヌーピー全集」出版時の インタビューで話されています。

谷川さんは、1966年~67年にかけてアメリカで暫く暮らしていたとの事ですから、ご自身が仰った「高卒程度」の英語力だったとは思いませんが、翻訳には訳す言語(ピーナッツの場合は英語)だけでなく、日本語力の高さが如何に重要か がわかる発言でもあると思います。

谷川さんの訳でなかったら、スヌーピーが日本で知られる様になったり、ピーナッツに登場する様々なキャラクター達の言葉が、これほど「心」に響くことはなかったかも知れません。

通訳者からのTips

コミック「PEANUTS / ピーナッツ」は、アメリカでは チャーリーブラウン / Charlie Brown とも よく呼ばれたりします。

あるいは Charlie Brown and the Gang 。ここでの「ギャング」は、日本語で言う「連中」的な意味です。PEANUTS だけだとピンとこない人も、アメリカでは居るかも知れません。

日本ではコミック等も含めて「スヌーピー」と言うことが多いと思いますが、英語では Snoopy と言うとコミックの事も指しますが、犬の Snoopy だけを指す場合もあります。

国によって、作品そのものを「スヌーピー」と呼んだり、「チャーリーブラウン」と呼んだりする場合があるので、注意して訳さないと話がややこしくなる場合もあります。

因みに Charlie Brownlovable loser なキャラクターとして、アメリカでは知られてます。

Loser は、日本語では「負け犬」とよく訳されますが、「ナニをやっても冴えない、イカさない、イマイチ」とも訳せる言葉です。

Lovable / Loveablehaving qualities that make a person or animal easy to love 「愛らしい、可愛い、愛嬌のある、憎めない 」と言った意味の adjective / 形容詞 です。

つまり「ドラえもん」の、のび太くんのアメリカ版がチャーリーブラウンです。2人共もナニをやっても冴えないんですが、応援したくなるキャラクターと言うことです。

右田アンドリュー・ミーハン

スヌーピーえほん
クリスマスはいっしょの時間

2024年12月2日 河出書房新社より「クリスマスはいっしょの時間(スヌーピーえほん)」が発売されます。

本作は「ピーナッツ」から生まれた大ベストセラー絵本「しあわせはあったかい子犬」のクリスマス版として1964年に刊行された描き下ろし絵本で、出版60周年を迎える今年、待望の日本語版登場となりました。

谷川さんは2024年10月に翻訳を終え、その出版を楽しみに待たれていたとのこと。

なお「しあわせはあったかい子犬(スヌーピーえほん)」も、12月2日 装いも新たに発刊されます。

55年間、スヌーピーたちといっしょに日本語訳に取り組まれてきた谷川さんが贈る 最期の「ピーナッツ」。ぜひチェックされてみては如何でしょうか。

最後になりましたが、詩、翻訳、絵本、脚本等、様々な形で「言葉」と向き合ってこられた谷川俊太郎さん。謹んで哀悼の意を表しますとともに、心よりご冥福を申し上げます。

谷川俊太郎
1931年、東京生まれ。詩人。52年に第一詩集『二十億光年の孤独』(創元社)を刊行。以後、詩、絵本、翻訳など幅広く活躍。2020年、チャールズ・M・シュルツ『ピーナッツ』の個人全訳を成し遂げた。

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