本ブログでは前回「源氏物語」の翻訳版について、簡単ではありますが、ご紹介しました。そこで今回は、アーサー・ウェイリー訳「源氏物語」に感動し、日本文学や日本文化の研究に生涯をささげられたドナルド・キーン教授について、弊社代表で通訳者の右田アンドリュー・ミーハンがお会いした際に気付いたこと等も交えつつ、少しご紹介したいと思います。(jwskks5786によるPixabayからの画像)
ドナルド・キーン 教授の足跡
日本文化研究の第一人者であり、日本文学の世界的権威でもあったドナルド・キーン / Donald Keene 教授。
もちろん、彼についてよくご存じの方や、著作を読まれた方も多いと思いますが、念のため簡単にドナルド・キーン教授の足跡を、まずはご紹介したいと思います。
1922年 ニューヨーク・ブルックリンに生まれたドナルド・キーン教授。
頭脳明晰であった彼は、ニューヨーク州最優秀生徒としてコロンビア大学・ピュリッツァー奨学金を獲得。1938年 16歳でコロンビア大学・文学部に入学されました。
そして、1940年・18歳の時に「源氏物語」を読み感動。以来 日本語や日本文学、日本文化の研究に勤しむ様になりました。
1941年に勃発した第二次世界大戦を挟み、終戦後 1953年には京都大学大学院に留学。
1955年 アメリカ帰国後、コロンビア大学にて日本文学を教えながら、古典から現代文学にいたるまで広く研究し、海外に紹介。日本文学の国際的評価を高めるのに貢献されました。
2008年には、文化の発達に関し顕著な功績のある者に対して授与される文化勲章を受章。
2012年には日本国籍を取得し、お名前もキーン・ドナルド(鬼怒鳴門)とされました。
※本記事では、多くの方に馴染みのあるお名前「ドナルド・キーン / Donald Keene 」を使用しております。ご了承下さいませ。
そして、2019年2月 日本でお亡くなりになりました。
ドナルド・キーン教授の足跡や著作は ドナルド・キーン・センター柏崎のWebsite で紹介されています。
ドナルド・キーン・センター柏崎 Website
https://www.donaldkeenecenter.jp/
また足跡は、以下 国際交流基金(The Japan Foundation)の動画や、 JB press 記事「日本文学の世界的権威、ドナルド・キーン初の評伝、外国語を通じた驚きを知る」等でも紹介されていますので、併せてチェック頂ければ幸いです。
アーサー・ウェイリー 訳
源氏物語 / The Tale of Genji
ドナルド・キーン教授が18歳の時に読んだ「源氏物語」は、世界初の英語全訳で、1921年~1933年にかけて全6巻で出版された、イギリスの東洋学者 アーサー・ウェイリー / Arthur David Waley が翻訳した The Tale of Genji でした。
前回の本ブログ記事でも、アーサー・ウェイリー が訳した「源氏物語」について、少し触れています。
このアーサー・ウェイリーの翻訳版は、英語以外の言語に翻訳する際の基となる事も多い、通訳で言えば、複数言語を用いて通訳するリレー通訳の際の「ピボット」になる様な翻訳版です。
例えばスペイン語版の「源氏物語」を出版する際、日本語の「源氏物語」を基にしてスペイン語に翻訳するのではなく、アーサー・ウェイリーの英語翻訳版を基にして、スペイン語に翻訳するのです。この様な本の事を「底本(ていほん / そこほん)」と言います。
※リレー通訳及びピボットについては以下記事で説明しています。
ドナルド・キーン教授の
英語表現
弊社代表で通訳者の 右田アンドリュー・ミーハンは、翻訳者・通訳者として活動を始めた1994年から暫くは、ニューヨークを拠点にしていました。
その時、何度かドナルド・キーン教授を見かけたとのこと。また仕事を依頼された事もありました。
その際に、キーン教授の英語表現で気が付いたことがあったそうです。
ドナルト・キーン教授は、元々 ニューヨーク・コロンビア大学を拠点に50年以上活動されていました。
私も同地を拠点に活動していた頃、コロンビア大学にある Donald Keene Center で行われたイベントや、ニューヨークのJapan Society のイベント、それから日本領事館のイベント等で、よく教授をお見かけしました。
また、何度か仕事でお世話になったこともあります。もちろん、その当時の私はまだ全然駆け出しだったので、ちょっとしたお仕事ではありましたが。
最後にお会いしたのは、亡くなられた2019年の前年2018年。私も2004年には日本に帰国し、活動の拠点を東京に移していたので、日本で御目にかかったのが最後となりました。
ドナルド・キーン教授が英語でお話される時、時折クラシックな表現を使われていたのを、私はよく記憶しています。
シェークスピア劇に出てくる表現ですが、尽力されたり奮闘して頑張った人には Thank you for your pains. と言われていたのが、とても印象的でした。それから That is the heart of my message. とも言われていました。
Heart とは「心臓」の事ですが、あるものの大事な部分や「誠」などを英語でも意味します。また Thank you for your pains の pains は「痛み」や「手間をかける」こと等を意味します。
右田アンドリュー・ミーハン
日本語にも「痛み入ります」という、最近では余り使われていませんが、表現があります。深い感謝の気持ち、または「申し訳ない」と言った「恐縮の気持ち」を表す時などに使われます。
今振り返ってみると、キーン教授は日本の「心」を常に意識し、日本語 / 英語問わず、言葉でそれを表現されていた様な気が、私はしています。