2021年10月5日 ノーベル物理学賞を、ドイツとイタリアの研究者と共に受賞されたアメリカ・プリンストン大学 上級研究員の真鍋淑郎氏。
真鍋氏の米国籍取得について、日本では注目を集めていますが、英語でのスピーチも話題となっている様です。そこで今回はこの話題について少しお話したいと思います。
真鍋淑郎氏
経歴+スピーチ紹介動画
1958年に東京大学大学院理学系研究科を修了後、理学博士を取得し渡米された真鍋淑郎氏は、1960年代から気候変動の研究を行っています。
ノーベル賞の選考委員会は、真鍋氏の研究が「現代の気候の研究の基礎となった」と話しています。
真鍋氏はノーベル物理学賞受賞後、在籍するアメリカ・プリンストン大学で記者会見を行いました。この記者会見の動画は、前回の当ブログでもご紹介しました。
プリンストン大学がYouTubeで公開している記者会見動画は1時間以上にもおよぶものなので、今回は真鍋氏の研究内容やスピーチを要約した、ANNニュースの動画をご紹介したいと思います。
真鍋氏は1958年に渡米、1975年にアメリカ国籍を取得。つまり半世紀以上にわたりアメリカで活躍されています。
真鍋氏の名前「淑郎(しゅくろう)」は、英語では発音しにくい事から「Suki」と言う愛称で呼ばれている事は、多くのメディアが報道していますが、この「Suki」は当時アメリカでも流行っていた坂本九氏が歌う「上を向いて歩こう(英語タイトル:SUKIYAKI)」からとの事。
ナゼ「SUKIYAKI」?
坂本九氏が歌う「上を向いて歩こう」は、日本で1961年にリリースされた後、フランスを始めヨーロッパでも日本語歌唱のままリリースされたそうです。その時のタイトルは「Ue O Muite Arukou」。
しかし当時のヨーロッパでは、このタイトルをどう読んだら良いのかもわからず、結果メディアでも紹介しづらく、ヒットに至らなかったとの事。
その後、1963年にイギリスでインストルメンタル・バージョンがリリースされた際に、タイトルを日本語的と言う事で「SUKIYAKI」に変更。コレが世界的ヒットにつながったとの事。ローカライゼーションの大切さを感じさせるエピソードです。
※情報出典
「本物の音楽」が持つ“繋がり”や“物語”を毎日コラム配信 Tap the Pop より
アメリカで大ヒットした「上を向いて歩こう」に付けられた「SUKIYAKI」の由来について / 佐藤剛
現在は、多くのアニメやJ-POPの曲を日本語で歌う世界の人々がいますから、全く状況が異なりますね。この言語に対する感覚の違いは、インターネットによる世界の大きな変化の1つと言えるかも知れません。
以下動画は、2020年4月コロナ禍の中 公開されたアメリカ・ニューヨークに在住する日本人のアーティスト達が制作した「上を向いて歩こう」です。
この動画タイトルには「上を向いて歩こう(ローマ字表記)/ SUKIYAKI」の他に、上を向いて歩こうを英語に翻訳したタイトル I keep my head up high が書いてある他、歌詞も英語訳がついていて非常に興味深いです。
真鍋淑郎氏の
英語でのスピーチ
さて、話を真鍋氏の英語のスピーチに戻しましょう。真鍋氏の英語の発音は、ネイティブの発音とは全く異なります。いわゆるジャパングリッシュな発音と言っても良いでしょう。
しかし真鍋氏のスピーチにはユーモアがあり、堂々と話すスタイルは非常にアメリカ または 英語におけるスピーチ・スタイルそのものです。
TED Talks などのスピーチ動画等を見てもわかりますが、英語のスピーチにはウイットに富んだユーモアと堂々とした態度が欠かせません。
TED Talksには様々な言語を母語としたスピーカーが登場しますが、必ず笑いを交えたスピーチを披露しています。
この笑い=ユーモアまたはジョークは、文化的背景や常識と繋がっている場合が多く、会場に居る全員がスグにピンと来てスムーズに笑えるスピーチをするのは、実はなかなか難しい事なのです。
通訳には、説明が困難なジョークやユーモアを話者が言った時「今、大変面白い冗談を〇〇さんが言ったので、皆さん笑ってください」と言う緊急避難方法があるほど、ジョークやユーモアは訳すのが難しいのです。
また、真鍋氏はスピーチにて専門用語はもちろん使われていますが、全体的にはわかりやすくシンプルな表現を用いて話しています。これも英語を母語としない話者が、英語でスピーチをする際、また母語以外でコミュニケーションをするさいの重要なポイントかと思います。
「自分の意見や考えをシンプルな言葉で表現して、相手にキチンと伝わるように伝える。」
真鍋氏のスピーチは、長年アメリカで培われた英語でのコミュニケーション・スキルの高さを表していると思います。
英語の発音は
悪い方がいい
最後に、今回の真鍋氏のスピーチにも関連する様な、興味深いコラムがあったのでご紹介したいと思います。
2015年2月にHUFF POSTに掲載された 日本マクドナルド株式会社 上級執行役員 マーケティング本部長 GAISHIKEI LEADERS 足立光氏のコラムです。(※肩書はコラム掲載時の肩書になります)
英語の発音は悪い方がいい (HUFF POST)
https://www.huffingtonpost.jp/hikaru-adachi/pronunciation-of-english_b_6642930.html
自国語(日本語)訛りの英語を話すのは、グローバルでは極めて普通であり、コミュニケーションのリスクを減らすことにもなる。もちろん、内容が伝わらないほど発音が悪いのは論外だが、コミュニケーション的に問題無いレベルの発音ができるなら、日本人が鍛錬すべきは、素晴らしく綺麗な発音ではなく、説得できるかどうか(内容)、に尽きる。
HUFF POST 英語の発音は悪い方がいい
人とコミュニケーションをする際、失礼な態度や発言をしてしまった場合、相手に自分の思いや考え、真意を伝える事が難しくなることもありますから、マナーやプロトコール、相手にとって何が失礼かを知っておくのは大事な事です。
しかし、ご紹介したコラムにも書いてある通り、発音や形式に捉われる余り、コミュニケーションの目的=自分の思いや考えを、的確に相手に伝える ことを忘れてしまっては、本末転倒となってしまいます。
真鍋氏の英語スピーチは、そう言った母語でない言語でのスピーチ/コミュニケーションの大事なポイントを、我々に教えてくれていると思います。