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アメリカ大統領選討論会の難しさ。

世界中が注目している2020年アメリカ大統領選討論会(the 2020 Presidential Debate

第1回目は2020年9月29日に開催されましたが、その前代未聞の内容は、世界各国のメディアでも報じられました。

今回は通訳・翻訳の視点から、この米大統領選討論会の難しさ、さらにはトランプ大統領の通訳の難しさについて、ご紹介します。

2020年・米大統領選討論会の生中継同時通訳

Twitterなどでも話題になった様ですが、NHKで2020年9月29日に生中継された第1回アメリカ大統領選討論会。討論会同様に同時通訳も混迷を極めたようです。

トランプ大統領、民主党候補のバイデン前副大統領、そして司会者を担当する同時通訳者が、全員で話しているので、何がなにやらな状況になっています。

TBSの中継では、それぞれの話者に対して通訳者が付く形ではなく、討論会全体の様子を2名の通訳者が交代しながら訳しているので、NHKほどの混乱はしていませんが、それでも誰が話しているのか、誰の話を訳すのか、追いかけるだけでも大変だったと思います。

この様な複数の話者が同時に話す状況では、どの様な形であれ、同時通訳者の負担は非常に大きくなりますし、聞きやすく、分かりやすくと言うのには無理があります。

そもそも討論会自体が、混乱しているわけですから。

10月22日に開催が予定されている最後のテレビ討論会では、この様な混乱を避ける為、各議題の冒頭、両候補それぞれに与えられる2分間の発言中は、相手候補のマイクの音声を切る措置が取られる様です。

生中継で同時通訳を行う通訳者も、この対応の決定にホッと一安心したのではないでしょうか。

翻訳における難しさ

通訳だけではなく、2020年第1回米大統領選討論会で発言を、どの様に翻訳するか?でも様々な意見があった様です。

以下のブログでは、同討論会で注目を集めた発言の1つ「Will you shut up man?」を、日本語の各メディアがどの様に訳したかについて書いています。

黙れ、お前, or お願いだから、黙ってくださいませんか?: Translating the 2020 Presidential Debate

各社メディアには、それぞれにどの様な日本語表現を使うか?と言うルールがあります。

この「Will you shut up man?」は、バイデン候補が自分が話している最中に、クチを挟んで来たトランプ大統領に対して、うんざりした調子で発した言葉でした。

端的に言葉だけを訳せば「Will you shut up man」は、「黙ってくれないか」または「うるさい」や「静かにしてくれ」とも訳す事が出来るでしょう。

日本語各社メディアも、意味としては同様の事を伝えています。

ただし、大統領討論会として、または大統領候補者の発言としての相応しい言葉遣いにするか否か、この討論会の流れを踏まえて、バイデン氏の気持ちも踏まえて、どの様な表現を用いるか?

立場や状況、メディア各社の表現ルールによって、記事に使用する言葉遣いは変わってきます。しかし、それぞれの言葉遣いによって、発言の印象が変わるのも事実です。

例えば、huffingtonpost.jp は、バイデン候補の「Will you shut up man」から、その後に続く発言を「お願いだから、黙ってくれますか?なんて、大統領としてとてもふさわしくない行為なんだ」と訳しました。

同じ発言を、News Week Japanは「黙ってくれ。全く大統領らしくない振る舞いだ」と訳しています。

意味は同じでも印象は異なります。

言葉遣いだけではなく、全体の流れや声のトーンや大きさ、態度、そう言ったモノを総合してみないと、発言の真意を理解する事は出来ません。そう言った意味でも、米大統領選討論会の翻訳も、非常に難しいのです。

トランプ大統領の発言を
どう訳すか?

以下映像は2017年に放送された、アメリカのThe Daily Showの「トランプ大統領の発言をどう訳すか?」と言うインタビューになります。

日本語通訳者・鶴田知佳子さん含め、各国語の通訳者が出演しており、トランプ大統領の発言を訳すさいの難しさについて答えています。

番組では、トランプ大統領が使った表現をダイレクトに訳すと、各国のテレビ局における放送禁止用語や放送に適さない言葉のルールにひっかかる事があり、それらの表現をどの様に訳すか?と言う質問もしています。
 
通訳者は自分の倫理観及び、テレビ局のルールにのっとり、トランプ大統領の発言を婉曲に訳している様ですが、その様な放送に耐えうる(穏やかな)表現をすると、ネットなどで「あの通訳者の訳は間違っている」等と批判にあう場合もあります。

そう言った意味では、通訳者は自身の倫理観、及び放送規定に基づいた表現を使った「訳」を行いつつ、通訳者としての品質や評判を落とさない様な対策もしなければならない…..と言う、なんとも大変な状況に陥ってしまうのです。

様々な難しさを抱えている2020年アメリカ大統領選討論会。最終討論は10月22日に開催されます。

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