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ウイスキーの「水割り」 ~異文化コミュニケーションの視点から~

仕事やプライベートでも、お酒を飲む機会が増える年末年始が目の前まで近づいてきましたね。そこで今回は、お酒にまつわる異文化、特にウイスキーやチューハイの呼び方等について、少しご紹介したいと思います。Mami MiyashimaによるPixabayからの画像)

水割り
〇〇 with water

日本での一般的なお酒の飲み方の1つに「水割り」があります。焼酎やウイスキーを水で割って飲むスタイルの事ですよね。ところが先日、こんな記事を見つけました。

「水割り」は日本だけ?(2009年05月18日 excite)

お酒の席でよく見かける、ビールの次は“焼酎の水割り”とか“ウイスキーの水割り”と注文する光景。私にとってはなんの違和感もない注文の仕方である。しかしある時、中国出身の知人が「どうして日本人はお酒に水を入れるの?」と首を傾げたのである。(中略)

(前略)この“水割り文化”は日本だけなのだろうか? ストレートやオンザロックにチェイサーをつけて飲んでいる外国人は多いが、ウイスキーでも水割りにして飲んでいる姿は見かけたことがないかもしれない。そこで外国人がよく訪れるお店のバーテンダーの方に聞いてみた。

「外国人で水割りを注文する方はあまりいませんが、コーラやソーダで割ったりはしていますよ。あとは、プロの間でもウイスキーは水割りにして利き酒することもあります。ストレートやオンザロックで飲むよりも少し水を足してやったほうが香りや味がひきたつと言われています。ただ、日本で水割りが一般的な飲み方になったのは、日本人はお酒に弱いから水を足して飲むようになったという説もあります」

水割りという飲み方自体はプロの業界でも存在するようで、もちろん外国でも水割りにする場合もあるというお話だった。しかし、一般的ないわゆるお酒の席で“水割り文化”が普及しているのは日本独特のものともいえるらしい。

https://www.excite.co.jp/news/article/E1240812514471

焼酎やウイスキーは、お水だけではなく様々な他の飲料、例えばウイスキーであればソーダやコーラ、焼酎であればお茶やお湯で割るスタイルも知られています。

しかし、日本の様なスタイルの水割りや、水割り文化は海外では珍しい様です。


窪田順生の時事日想なぜ日本人はウイスキーを「水割り」で飲むのか?(2015年01月27日 ITmedia ビジネス)

英国をはじめ海外のウイスキー愛好家もみんながみんなストレートでカパッとグラスを空けているわけではない。加水することでよりテイスティングしやすいとも言われ、古くから「ウイスキー&ウオーター」というメジャーな飲み方があるからだ。

ただ、日本のように氷とミネラルウオーターのセットがテーブルにドサッと置かれて、トングで氷をグラス一杯に詰めて女の子に「あ、昨日飲み過ぎたから、今日は薄めでつくってね」なんて飲み方はない。そういう意味では「日本独特」と言ってもさしつかえはない。

では、なぜこういうユニークな飲み方がここまで普及したのか。一般的には、日本人は欧米人に比べてアルコールが弱いから長く楽しめるようにしたのではなんて解説されているが、それは後付けであって、実は1970年代にメーカー側が仕掛けた一大プロモーションによって生み出されたのだ。

https://www.itmedia.co.jp/makoto/articles/1501/27/news036.html

メーカーが仕掛けた一大プロモーションにより日本独特のウイスキーの水割りが普及したとの事ですが、具体的にどんな宣伝活動をしたのかは、元記事を読んで頂ければ幸いです。

通訳者からのTips

接待の場に通訳として参加した時などに、年に1~2回は尋ねられる鉄板の質問があります。それが「水割り」。

「飲み方はどうされますか?水割りですか?」と言われても、英語の場合は、何を水で割るのかが分からないと通訳できないので、焼酎の水割りなのか?ウイスキーの水割りなのか、何を水で割るのか?毎回聞くはめになります。

ウイスキーの水割りであれば Whiskey with water になりますが、この表現は日本の「水割り」程、海外で知られている表現ではありません。アメリカなどではそのコンセプトにびっくりして聞き返されたり、日本でイメージされる「水割り」ではないモノが出される場合もあります。

因みに、バーなどでオーダーする際、ウイスキーを何かで割ることなく、氷無しで飲む場合は Whiskey neat / ウィスキー ニート 、氷ありの場合は Whiskey on the rocks と言います。

右田アンドリュー・ミーハン

NHK連続テレビ小説
「マッサン」再放送



先程ご紹介した記事「窪田順生の時事日想なぜ日本人はウイスキーを「水割り」で飲むのか?」の冒頭では、2014年9月から放送されたNHK連続テレビ小説「マッサン」について触れています。

ニッカウヰスキーの創業者・竹鶴政孝とその妻・リタをモデルに、国産ウイスキー誕生を夢見る夫・マッサンこと亀山政春と、スコットランドから来た妻・エリーの波乱の生涯を描いたドラマ「マッサン」は、ある意味「異文化コミュニケーション」の物語でもあります。

11年前に放送された本作ですが、2025年12月22日から再放送が決定したとのこと。毎週月曜日から金曜日 昼12時30分からNHK総合で放送される他、NHK ONE(新 NHK プラス)でも同時・見逃し配信されるそうです。

国産ウイスキー誕生を夢見る夫と外国人の妻の波乱の生涯を描く「マッサン」を再放送!(2025年11月10日 NHK)

現在、世界的にも人気の日本のウイスキー / Japanese Whisky がどの様に誕生したのか?あくまでドラマはフィクションですが、史実をベースにしていますし、楽しみながら知るには良いかも知れません。

また史実については、NIKKA WHISKY Website ニッカウヰスキー ストーリー にて創業者 竹鶴政孝の軌跡同社ウイスキーの歴史等が紹介されています。

チューハイとは

チューハイとは(日本洋酒酒造組合)

チューハイの語源は、「焼酎の『酎(チュウ)』と、ハイボールの『ハイ』を組み合わせたものといわれています。ただ、チューハイの厳密な区分や法律上の規定があるわけではなく、焼酎やウオッカなど無色で香りのない酒類をベースに、果汁などを加え炭酸で割ったものを指しています。割るものによって味わいにはさまざまな広がりがあります。炭酸ではありませんが、ウーロン茶で割るウーロンハイもチューハイの一種です。

チューハイとサワーの違い

サワーとは、もともと英語で「酸味のある、酸っぱい」という意味の言葉です。スピリッツをベースに、柑橘類などの酸味のある果汁と、砂糖など甘みのある成分を加えてつくるカクテルの一種に、ソーダを加えた飲み物をサワーと呼んでいます。
つまり、レシピ上は両者にほとんど違いはありません。居酒屋などでも、チューハイと呼ぶお店とサワーと呼ぶお店があるように、チューハイとサワーはほぼ同じ意味で使われています。

https://www.yoshu.or.jp/pages/87

焼酎やウオッカなど無色で香りのないスピリッツをベースに、果汁などを加え、炭酸で割った飲み物、それが「チューハイ」。焼酎の [ 酎 / チュー ] とハイボールの [ ハイ ] を組み合わせてできた呼び名なんですね。

それにしても「サワ―」の語源が 英語の sour とは意外でした。

Chuhai ?

「チューハイ」と言った呼び方は、あくまで日本で流通しているお酒の飲み方の名称なので、海外の方には通じない場合もあります。

ただ最近は、日本のアルコール飲料メーカーが海外にて缶チューハイを販売したり、訪日観光客や各国の日本食レストラン等を通じて、少しづつ広まっている様で Chuhai で検索すると、英語で説明するページや動画が表示されます。

HYOKETSU in Australia

キリンの缶チューハイ「氷結」の、オーストラリアでのWebsiteでは同商品を VODKA SODA WITH FROZEN NATURAL FRUIT JUICE と説明。商品名は「氷結」と英語表記の HYOKETSU を併記しています。

MINUS 196 in Australia, the U.K., and the U.S.

サントリーの缶チューハイ -196(イチキューロク)は、オーストラリアでのWebsiteでは Suntory MINUS 196 is made from Shochu, Vodka, Soda, and uses Suntory's unique Freeze Crush Technology™ that freezes and crushes real fruit to capture every bit of all natural bold fruit flavour. と説明。

同商品の 英国のWebsiteに掲載された紹介も、同じような説明がされています。MINUS 196 IS MADE BY FREEZING A WHOLE FRUIT WITH LIQUID NITROGEN AT -196ºC THEN CRUSHING AND INFUSING WITH SHOCHU, VODKA AND SODA TO CAPTURE AND MAINTAIN EVERY BIT OF ALL NATURAL BOLD FRUIT FLAVOUR.

一方、同商品のアメリカ向けの動画等では、Legendary in Japan, now crafted in the U.S. Introducing -196. Vodka seltzer made by freezing, crushing, and infusing whole lemons into premium vodka. と紹介しています。

seltzer とは通常「炭酸水」を意味しますが、アメリカではアルコール入り炭酸の事を hard seltzer と言ったりします。これは Hard liquor(強めのお酒)タイプの seltzer を 略して hard seltzer と言っています。

Suntory MINUS 196 は焼酎やウォッカを使ってますが、 アルコール度数としては恐らくウォッカの方が高い=hard liquor は ウォッカなので vodka seltzer と命名して、アメリカのCM動画や広告で使っているのではないでしょうか。

ハードセルツァーって何?(Antenna America)

販売する商品が人々にスムーズに認知される為には、言葉の選択も大事なのでしょう。国によって表現が変わるのは興味深いですね。

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