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詐欺 / When You’re Being Scammed

現実世界はもちろん、オンライン上でも様々な嘘=詐欺行為が横行しています。今回は翻訳依頼に関する「詐欺」についてご紹介したいと思います。(ElchinatorによるPixabayからの画像)

翻訳依頼に関する詐欺

現実世界はもちろん、オンライン上でも様々な嘘=詐欺行為が横行しています。実は先日、ミーハングループも翻訳依頼を装った「詐欺行為」にあいました。不幸中の幸いで、金銭的被害は無かったのですが...。

そこで今回は、ミーハングループがあった翻訳依頼に関する「詐欺」について、実際にやり取りをしたアラン・エバンスからのレポートを基に、ご紹介したいと思います。

アラン・エバンス
コメント

最近、私は詐欺に遭いそうになりました。

おそらく多くの人は詐欺に遭いそうになったことを認めたがらないでしょう。なぜなら、そこには特定の意味合いが伴うからです。つまり「詐欺」と気づくべき不審な点があったのに見逃したと言うことです。

確かに、私や同僚が気づかなかった、あるいは無視した黄色、オレンジ、さらには赤の警告サインが存在しました。しかし、今回の経験を個人的な出来事=自分のミスと受け止めるのは間違いはないか?と私は思いました。

意図的か否かにかかわらず、今回のケース=詐欺は非常に「巧妙」でした。つまり、警戒すべき黄色やオレンジの警告サインを簡単に無視できる要素を備えていました。

そこで、翻訳及び通訳者の皆様への注意喚起となればと思い、あえて私が経験したことを(恥を忍んで)本ブログで紹介したいと思います。

アラン・エバンス / Alan Evans
ミーハングループ・日>英 翻訳者 / 通訳者

翻訳依頼詐欺の手口

概略

今回の詐欺未遂は、まずミーハングループで以前仕事をした知り合いの名を騙った人からの、メールでの翻訳依頼がきっかけでした。

その依頼メールを受け取った本人は忙しくてスグには対応出来なかった為、私(アラン・エバンス)に「詳細を確認して欲しい」とメールを転送しました。

メール内容を確認すると急ぎの翻訳依頼だった為、我々は本案件を受けるか否かスケジュール等を確認し、見積もりを急ぎ作成し、作業方法を先方に確認し、合意の上 翻訳作業に入りました。

依頼人は、ミーハングループで以前仕事をした知り合いだったのと、メールアドレス等の不審な点も無かったため、疑う事は全くありませんでした。

作業が終了し翻訳データを納品後、請求書を提出する段階になると、説明のつかない不審な点が次々と浮上し、次第に詐欺である疑いが深まりました。

「詐欺」だとの判断に至った理由は、そのメールで翻訳を依頼した人物がが装っていた会社へ直接連絡を取り、話をした結果、及び、その会社のWebsiteに「同様の詐欺被害が頻繁に発生している」ことを示す文章が掲載されていたからです(専用の説明ページが設けられるほど頻繁に、その手の詐欺は発生していました)。

この確認作業を通じて、以前から抱いていた疑念を裏付ける詳細を確かめ、調査をした結果、今回の翻訳依頼は詐欺だとの確信に至りました。

危険信号フラグ

ここで、今回の詐欺未遂案件では、どのような危険信号があったのか?紹介したいと思います。

危険信号フラグ

  • イエローフラッグ(初期注意信号)
    • メールアドレス
      (実在の人物 / 実際の会社名 @gmail.com のメールアドレスで依頼のメールは送信されていた。Google検索で同社のウェブサイト上のプロフィールがすぐに見つかったことから、これは同社の実在する人物であると簡単に信用してしまった。
    • 依頼内容
      日本語への翻訳を要求する文書としては、特に「社内利用目的」とされている点で異例のものだと思った。添付されたPDFは確かにスキャンされた本物だったが、不自然な箇所で切り取られており、社内利用を名目とする文書としては部分的にスキャンされるという奇妙な処理が施されていた。
    • メールでのやり取り
      連絡先のメールは時折、親しすぎる口調で書かれたり、奇妙な表現が使われたりしていた。送信時間も不自然な時間帯が多かった。
    • 対面不可
      実在の人物で一見正当な依頼主であるにもかかわらず、Zoom等での面談時間を全く確保できないと主張した。
  • オレンジフラッグ(注意度高め信号)
    • 早すぎる親密さ
      近年の10年で感覚は変化したとはいえ、プロフェッショナリズムに基づく友好的な態度と、場違いな親密さの境界線は存在する。とは言え、今回の件では「以前からの知り合い」と認識していた為、見誤ってしまった。
    • 対面での会話の機会すら与えられない
      追加の仕事を依頼したいと言ってきたので、対面での会話を繰り返し要求したが、担当者は忙しくてZoom等での簡単な会話の時間を全く作れないと断ってきた。
  • レッドフラッグ(危険信号)
    • 請求時にWhatsAppでのやり取りを要求
      相手が既に「支払担当のメールアドレス」と称するものを提供しているにも関わらず、実際の請求段階になったとたん、WhatsAppで支払担当者と連絡を取るよう指示をしてきた。
    • メールが送信エラーになる
      確かに大規模組織の中には、未知のアドレスからのメール送信を厳しく制限するメールサーバーもあるし、単発のトラブルもあり得るが、送信エラーが多発するメールアドレスは、通常のビジネスではあり得ない。

詐欺だと判明した経緯

明らかな危険信号が現れた後、次々と不審な点が判明しました。

WhatsApp上の人物は、名前とプロフィール写真があり本物に見えましたが、細かい不審な点が余りにも多く、プロジェクトと支払い情報を確認するためと称して送られてきた本人確認メッセージにも不可解な質問が含まれていました。

私は不審に思い、その質問には答えませんでしたが、それに対する返信やメッセージもありませんでした。

詐欺との疑いが最も高まったのは、請求 / 支払いに関するリンクが送られてきた時でした、極めて異質な金融機関のリンクで、名称も意図的に汎用的なものか、あるいはひどい翻訳のどちらかでした。

そこで詐欺との確信を得る為に、私は以下行動を起こしました。

  • まず、この仕事の主担当者に連絡を取り、最終的なZoomでの打ち合わせをし、プロセスを再確認した。
  • 次に、このプロジェクトで当社に連絡してきたと思われる企業に連絡を取る方法を徹底的に探し、実際に話せる担当者につながるまで複数の番号を試した。
  • 最後に、手元にある詳細情報を全て再確認し、あらゆる点を徹底的にチェックしたところ、いくつかの事実が明らかになった。

これらの行動の結果、当該企業がこの種の詐欺を継続的に問題視している事実を突き止めました。初回に確認した際には気づきませんでしたが、同社サイトには詐欺被害に関する専用ページが設けられていました。それにより、これまで軽く流していた数々の事象が、この特定の詐欺の手口を示す兆候であったことが明らかになりました。

誘導されていた金融機関についても調査を進めると、特定の検索方法を用いればオンライン上に多くの情報が存在することも判明。その金融機関が詐欺関連している事を紹介する多くのページが見つかりました。

これら情報の断片が次第に組み合わさり、さらに実際に依頼をしてきた企業に所属する人物と直接話すことができた時点で、このプロジェクトは最初から最後まで詐欺だったことが判明したのです。

詐欺未遂を経験して

幸いなことに、危険信号やその他の不審な点、そしてそれらを警戒する私自身の警戒心のおかげで、詐欺が成功するための決定的なステップ、つまり怪しい金融機関のウェブサイトで口座を作成する段階には至りませんでした。

もし疑う事なく支払いのステップを進めていたら、おそらくミーハンの銀行情報等が要求され、彼らは不正に私たちから金銭を騙し取ることができたでしょう。

今回の経験からの教訓 ひとつ目は、初期の疑念を和らげた要因の多くは文脈にあったと言うこと。知り合いからの紹介、急ぎの案件であること、状況的に不自然な(詐欺と思われる)側面を合理的に説明しうる、知名度の高い大企業名を使用していたこと。これらは本来なら明らかな警告サインとなる類いの要素でした。

また教訓ふたつ目は、多少なりとも説得力のある奇妙な細部ひとつひとつを掘り下げ仕事を失うリスクを冒すか、それとも奇妙な点を合理化または無視して、潜在的に大口クライアントとなる可能性のある仕事を受けるか?をどう判断するかと言うこと。

今回の経験を踏まえての対策としては、今後は例え急ぎ案件と言われても、依頼に着手する前に「事前調査 / Due Diligence・DD」を徹底するしかないと思います。

具体的には、翻訳に着手する前に出来れば直接会って、無理でもZoom等を使った相手の顔を見て話せるオンラインでの通話打ち合わせと、初回のクライアントに関しては前払いを徹底することでしょうか。

現在、現実世界及びオンライン上には様々な嘘が存在します。緊急の依頼の場合、対面による打ち合わせや、確認、前払いを嫌がる依頼主も存在するかも知れませんが、双方が信頼に基づき、より良い仕事をする為には必要な対応と、多くの依頼主の方にはご理解頂けると、私は信じています。

アラン・エバンス / Alan Evans
ミーハングループ・日>英 翻訳者 / 通訳者

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