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聞いたことがない日本の諺 ~異文化コミュニケーションの視点から~

先日ソーシャルメディアにて、聞いたことがない様な言葉が「日本の諺(ことわざ)」として、英語で紹介されてるのを見かけました。今回の記事では、そのことについてご紹介したいと思います。

日本の諺?

There's a Japanese legend that says: "If you feel like you're losing everything, remember, trees lose their leaves every year, yet they still stand tall and wait for better days to come."

この英語の短文を、ソーシャルメディア等で見たことがある方はいらっしゃいますでしょうか?

冒頭に There's a Japanese legend that says とあります。これは「日本の伝説の人よると」や「日本の古くからの言い伝えによると」と訳す事ができ、もう少し意訳すると「古(いにしえ)の言葉」や「諺(ことわざ)」とも訳せます。

デジタル大辞泉 / コトバンクより
(読み)コトワザ
古くから言い伝えられてきた、教訓または風刺の意味を含んだ短い言葉。生活体験からきた社会常識を示すものが多い。

https://kotobank.jp/word/%E8%AB%BA-65622

この英文では「日本には次のような諺がある」と前置きをして、以下の言葉を紹介しています。

「もしあなたがすべてを失っているように感じているなら、思い出してほしい。木々は毎年葉を落とすが、それでも堂々とそびえ立ち、より良い日が訪れるのを待っている。」

内容としては素晴らしい言葉ですが、果たしてこの様な諺を聞いたことはあるでしょうか?

色々と調べたところ、同じ内容の言葉ですが、冒頭の部分が There's a Zen says となっているバージョンもありました。

そこで禅語(ぜんご)に由来する言葉なのかと調べてみたところ、「葉」と「花」の違いや、意味が若干異なる等ありますが、近い言葉として、以下の禅語が見つかりました。

枯木再生花 / 枯木再び花を生ず
一度枯れてしまった木に再び花が咲くように、死んだように見えても再び生命が蘇る、あるいは、一度失われたものが再びよみがえることを意味する言葉

枯木再生花 | 禅語 | 臨黄ネット
https://rinnou.net/language/2488/

本来の言葉(諺 / ことわざ)が、簡潔な表現、例えば四文字熟語的な表現の場合、英訳する際にだいぶ補足する場合もありますし、原典通りの表現では無い可能性も高いのですが、残念ながら明確にコレが原典であろうと言う言葉を見つける事は出来ませんでした。

Japanese legend
that says

前出の言葉以外にも、冒頭に Japanese legend that saysFamouse Japanese Proverb とある英文の言葉を紹介する投稿や動画は、インターネットで検索すると、結構ある事がわかります。

画像や動画を収集・整理できるソーシャルメディア・プラットフォーム Pinterest には Japanese legends quotes と言うページがあるほどです。

https://jp.pinterest.com/ideas/japanese-legends-quotes/927396775172

これを見ると、英訳の基となった日本語の諺が書かれたモノもありますが、基となった日本の諺が書かれていない=どの諺を英訳したのかイマイチわからないモノも多数あります。

画像で掲載した If you get on the wrong train, get off at the nearest station. The longer it takes you to get off, the more expensive the return trip will be. 「間違った電車に乗ってしまった場合は次の駅で降りろ。降りるまでに時間がかかるほど、帰りの乗車料金が高くなる」等も、電車が出てくる諺など余り聞いたことがないし、果たして本当に「日本の諺」なのか?と言った感じもします。

また、コチラの動画で紹介されている A Japanese legend once said, Everyone has three faces. The first face you show to the world. The second face, you show to your close friends and your family. The third face, you never show anyone. も、英語世界では日本の諺として知られています。

とは言え「顔が3つ」で思い出される日本の諺と言えば、パッと思い出されるのは「仏の顔も三度」くらいでしょうか。

この諺「人間には3つの顔がある。1つ目は世界に見せる顔、2つ目は親しい友人や家族に見せる顔、そして3番目は決して誰にも見せない顔。」を色々と調べたら、最も近しい表現として、野島伸司氏が脚本を書いたドラマ「高校教師(1993年放送)」の第3話に出てくる台詞が見つかりました。

第3話「カマキリの共喰いの話」
羽村が、生物準備室で新庄と昼食を取りながら話す。「人間には3つの“顔”がある」という話

「人間には3つの顔がある。1つは自分の知る自分。2つ目は他人が知る自分。もう一つは本当の自分」というもの。

作中で羽村が読む本の中の一節。繭とバスに乗車した羽村がこの本を読み、彼女から内容を聞かれて上記の言葉を読み上げる。この話はその後も何度か羽村たちの会話で取り上げられ、その都度自分たちが持つ“顔”について色々と語られることとなる。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%AB%98%E6%A0%A1%E6%95%99%E5%B8%AB_(1993%E5%B9%B4%E3%81%AE%E3%83%86%E3%83%AC%E3%83%93%E3%83%89%E3%83%A9%E3%83%9E)

ネットを通じて広がる言葉

現代ではソーシャルメディア等を通じて、他国の文化や言葉に触れることは珍しくはありません。

世界でも人気のアニメやマンガ、ドラマ等と言ったコンテンツを通じて広がる「日本の諺」や慣用句、言葉もあるでしょうし、出典は不明だけど「日本っぽい」言葉として分類され広まる言葉、つまり Fake Japanese proverb も多いと思います。

実際にある言葉や諺、慣用句が背後の意味も含めて広まる事については、問題はないと思いますが、実際にはない言葉が「日本の言葉」として広がるのは、どうなんでしょうか。

例えば この様なコンテンツは、「日本」と言うラベルを利用し再生回数やページビューを稼ぐコンテンツ・ビジネス=文化の盗用とネガティブに捉える事も出来ますし、「日本の考え方や価値観が広がる」過程のひとつ、と、ポジティブに捉える事も出来ます。

日本の諺云々は関係なく「良い言葉・含蓄のある言葉が広がるのは素晴らしい」との考えもあるでしょうし、内容が良くても実際には「日本の諺」ではない=間違った情報が蔓延するのは良くないと言う考えもあります。

皆さんは、どう思われますか?

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