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英語とは意味が違うカタカナ表現 ~通訳者の視点から~

ソーシャルメディアには様々な情報が投稿されていますが、先日「知っておきたいビジネス用語」と言った内容の投稿を見たら、本来の英語とは異なる意味のカタカナ表現が幾つか紹介されていました。そこで今回はそのことについて、少しご紹介したいと思います。inspireusによるPixabayからの画像)

今さら聞けない
ビジネス用語

インターネットで「今さら聞けないビジネス用語」と言った言葉で検索をすると、様々なサイトが表示されます。またソーシャルメディアでも、ビジネス用語等を紹介する投稿を沢山見かけます。

業界ごとであったり、新社会人向けや、年代の異なる上司や同僚が使うビジネス用語の紹介など、様々なパターンがありますが、その一覧に占めるカタカナ表現の多さには驚きます。

これらカタカナ表現は英語表現から来ているモノも多いですが、本来の英語の意味とは異なる意味で、日本のビジネスシーンで使われている言葉も多くあります。

【ビジネス用語一覧】厳選110選|基本をマスターするための例文も紹介(2024.09.18 若手社会人の「悩み」と「疑問」に答えるポータルサイト CANVAS / マイナビAGENT)

ハレーション
/ マター

余りにも数が多いので、全ての言葉を紹介する事は出来ませんが、本来の英語の意味とは大きく異なるカタカナ表現を例として2つ、ここではご紹介します。

  • ハレーション
    英語の halation が語源になります。日本のビジネスシーンでは「ほかのものに悪く作用する」「周囲に悪影響を及ぼす」といったニュアンスで使われる事があります。しかし、本来は写真や映像業界の専門用語で、特に強い光の当たった部分の周りが白くぼやける現象の事を指します。因みに英語には日本で使われる様な意味はありません。

from Cambridge dictionary
halation noun
an effect caused by an image in a photograph or on a screen spreading beyond its usual edges because of the way the light reflects off the object:

https://dictionary.cambridge.org/dictionary/english/halation

  • マター
    英語の matter が語源。日本のビジネスシーンでは「担当」や「主幹」などを意味し、〇〇さんマターや、〇〇部マターなどと使います。英語で matter は、良く知られる「事案、件、問題」以外にも様々な意味がありますが、日本で使われる 「担当」や「主幹」と言った意味はありません。

matter noun
SITUATION:a situation or subject that is being dealt with or considered:

matters plural
the situation being dealt with or being discussed:

the matter 
the reason for pain, worry, or a problem:

matter verb
to be important, or to affect what happens:

※matter の意味を抜粋にてご紹介しています。全ての意味については以下リンクからご確認頂けます。
https://dictionary.cambridge.org/dictionary/english/matter

省略表現

語源となった英語とは違った意味で使われているカタカナ表現もありますが、日本のビジネスシーン等では、英語と意味は大きく違わなくても、省略して使われる表現/言葉もあります。例として5つ程紹介します。

  • インクリ
    インクリメント / increment
    一般には増加・増量・増分・増大という意味。コンピューターやプログラミング用語では、変数の値を1増やす演算のこと。
  • カニバリ
    カニバリゼーション / cannibalization
    自社商品や店舗、事業同士が競合になること。共食い
  • ファシリ
    ファシリテーター / facilitator
    司会進行等、会議や商談、イベント等で話を円滑に進める役割の人、司会。
  • リスケ
    リ・スケジュール / Re-schedule
    日程や時間、予定等、スケジュールを再調整すること。
  • ロジ
    ロジスティックス / Logistics
    原材料調達から生産・販売に至るまでの物流、またはそれら全体を管理、または管理する過程

これ以外にも、既に定着しつつある「コンプラ」や「インフラ」も コンプライアンス / compliance, インフラストラクチャー / infrastructure の省略語ですが、英語では省略して言うことはないので「コンプラ」や「インフラ」と言っても、英語話者には伝わりません。

糖尿病から
ダイアベティス へ

糖尿病の新呼称提案、「ダイアベティス」 学会など
2023年9月22日 日本経済新聞

日本糖尿病学会と日本糖尿病協会は22日、糖尿病の通称の候補として、英語名「ダイアベティス」を提案した。病名を巡り、患者から怠惰や不潔といった負のイメージにつながるとの意見があり、変更を求める声が上がっていた。1〜2年をかけて患者や医療従事者らから広く意見を募る。

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUE229DY0S3A920C2000000

日本糖尿病協会 / Japan Association for Diabetes Education and Care (JADEC)のWebsiteには、以下説明があります。

日本糖尿病学会と日本糖尿病協会は2019年8月4日に合同委員会を開催し、糖尿病をもつ人に対するスティグマを放置すると、糖尿病をもつ人が社会活動で不利益を被るのみならず、治療に向かわなくなるという弊害をもたらすため、糖尿病であることを隠さずにいられる社会を作っていく必要をあらためて認識しました。

https://www.nittokyo.or.jp/modules/about/index.php?content_id=46

ダイアベティス は英語で糖尿病を意味する diabetes のカタカナ表記です。

スティグマは stigma ですが、英語での意味は以下になります。

stigma noun
a strong feeling of disapproval that most people in a society have about something, especially when this is unfair:

https://dictionary.cambridge.org/dictionary/english/stigma

医療分野におけるスティグマについては、日本国際保健医療学会 Websiteにある国際保健用語集でも紹介されていますが、Webilo 辞書 実用日本語表現辞典 には以下説明が掲載されています。

スティグマ(stigma)とは、社会的な偏見や差別の対象となる特徴や属性を指す言葉である。この特徴や属性は、個人の身体的な特徴、疾病、障害、人種、宗教、性別、性的指向など、多岐にわたる。

スティグマは、その人が社会から受ける評価や待遇に大きな影響を及ぼし、社会的な孤立や不平等を生むことがある。 スティグマには、公的スティグマと自己スティグマの二つの形が存在する。

公的スティグマは、社会全体が特定の属性を持つ人々に対して持つ偏見や差別のことを指す。一方、自己スティグマは、特定の属性を持つ人々が自分自身に対して持つ否定的な自己認識のことを指す。スティグマは、個人の生活や精神的健康に深刻な影響を及ぼす可能性があるため、その解消に向けた取り組みが求められている。

Webilo 辞書・実用日本語表現辞典 より
https://www.weblio.jp/content/%E3%82%B9%E3%83%86%E3%82%A3%E3%82%B0%E3%83%9E

通訳者が困る
カタカナ表現

糖尿病の通称等、英語表現とカタカナ表現の意味が共通しているのであれば、大きな問題にはなりませんが、本来の英語表現と日本で使われているカタカナ表現の意味が、大きく異なる場合、通訳者が困る事もあります。

例えば、最初に紹介した「ハレーション」ですが、英語の halation にはカタカナ表現のハレーションの様に、「ほかのものに悪く作用する」「周囲に悪影響を及ぼす」と言った意味はありません。

ところが、日本語話者(日本人)が会議などで「ハレーション、ハレーション」と何度も言ってしまうと、英語本来の意味として英語話者側が理解し、何か映像や写真に問題があるのか?誤解したり、混乱する場合もあります。

また日本語話者(日本人)が、少し英語がわかる場合「このケースだとハレーションが起きやすい」と自分は言ったのに、通訳者は全く違う英語表現で英訳した。

つまり正しく自分の発言を訳してないのではないか?と疑われたり、クレームになる場合もあります。

通訳者は、カタカナ表現のハレーションが意味する「周囲に悪影響を及ぼす」を用いて、話者の発言を「このケースだと周囲に悪影響を及ぼす可能性が高い 」と理解し、仮に This case is likely to harm those around it. と訳しても、話者は「ハレーションと言ってないから正確に訳していない」と思い込んでしまうのです。

英語が語源であっても、日本で使うカタカナ表現の意味と英語本来の意味が、大きく異なるケースも多々あります。

その点は、カタカナ表現を使われる方も充分ご理解頂ければ幸いです。

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