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放送禁止用語を使用した発言 ~報道から学ぶ英語表現~

トランプ米大統領が、放送禁止用語を使ってイスラエルとイランを非難したと、2025年6月24日 アメリカを始めとした世界各国のメディアが報じました。そこで今回の記事では、この「放送禁止用語」をどう訳すか等について、通訳者ならではの情報なども交えながら、ご紹介したいと思います。Adriano GadiniによるPixabayからの画像)

トランプ大統領が発した
放送禁止用語とは

アメリカのトランプ大統領は、2024年6月24日 イランとイスラエルが停戦合意に違反した事について、放送禁止用語を使って両国を強く非難しました。

We basically have two countries that have been fighting so long and so hard that they don’t know what the fuck they’re doing.

※上記動画・The Guardian / Donald Trump: Iran and Israel 'don't know what the fuck they're doing' では、44秒あたりから該当の発言が聞けます。

このトランプ大統領の発言について、日本のメディアでは「不適切な言葉」「放送禁止用語」等と言う表現や、伏字を用いて報じました。

drops the F-bomb

幾つかの英語圏のメディアでは、このトランプ大統領の発言を drops the f-bomb / drops f-bomb と言う表現を用いて紹介しています。

from Collins dictionary
drop an f-bomb

to use the taboo word fuck in a situation where it will cause great offence

https://www.collinsdictionary.com/dictionary/english/drop-an-f-bomb

drop an f-bomb / drops the f-bomb / drops f-bomb は、タブーとされる言葉 fuck を不快感を与える状況 / 不適切な状況で使うこと を意味します。

また fuck を直接使わない・伏字的に言う場合は f-word と表現するのが一般的です。

強調語としての表現

このトランプ大統領の発言 We basically have two countries that have been fighting so long and so hard that they don’t know what the fuck they’re doing. を、日本語版もある海外メディア・ロイター 及び BBCの日本語版(BBC NEWS JAPAN)の記事では、どの様に訳したのか? 確認してみましょう。

両記事とも fuck を個別の言葉としては訳しておらず they don’t know what they’re doing を強調する表現として「一体」を追加したり、補足説明を訳語の後にしています。

つまり、この場合の fuck は、大統領が使う言葉として適切とは言い難いですが、fuck の後ろの言葉 they’re doing を強調する為に使われた表現になります。

日本語で言えば、意味は少し違いますが「ムカつく」等 の「」または「くそ暑い」等 の「くそ」に該当します。これもアナウンサーや然るべき立場の人が、放送等にて使う表現ではありませんが...

トランプ大統領が何故この様な乱暴で不適切な強調語を使ったのかは、Furious = 激怒 していたからと言えると思いますが、トランプ大統領は「あえて」この様な表現を使う場合もあるので、その真意はわかりません。

因みに 今回のトランプ大統領の発言に関連して、イギリスのメディア The GuardianDonald Trump is not the first politician to swear in public. Here are six more infamous expletives と言う興味深い記事を掲載していました。

最初に「不適切な表現」を公の場で使った政治家は誰か?ご興味のある方はチェックしてみて下さいませ。

通訳者からのTips

今回のトランプ大統領の発言の様な F-word の場合、個別に訳す事はまずありません。

文脈や発言全体を見て、話した人がどの様な感情でその発言をしたのか?何を強調したかったのか?によって、訳し方や表現は変わってきます。

例えば GreatAwsome と言ったポジティブな言葉の前に Fucking とついた場合は 超最高!等といった強調された誉め言葉として訳します。

とは言え クセの様に、無意識的に F-word を、頻繁に発してしてしまう人もいますが、本当に親しい人たちの前以外、ビジネスの場や学校、公の場では控えた方が良いでしょう。

無用な誤解や争いを招く可能性が高いのはもちろん、使い方の如何を問わず、相手に対して悪印象を与える場合もあるからです。

裁判を含む司法通訳・翻訳の場でも、 F-word の様な、不適切な表現を用いた発言を連発する人もいますが、その場合でも、基本的に通訳・翻訳者は前後の文脈や発言全体の内容を鑑みて訳します。

これは私が実際に経験した話ですが、アメリカの検事局で日本人の若者の通訳をした事があります。

その人は、自分の置かれた状況が分かっていなかったのか、状況に不服であった為 イラ立っていたのか、検事からの質問に答えるとき「舌打ち」をしました。

舌打ちはアメリカでも通常、不快感やイラ立ちを表す行為として認識されていますが、日本ほどアグレッシブ / 攻撃的な態度と思われない場合もあります。

詳細は書けませんが、検事から「○○ですか?」と聞かれた後、その人は日本語的なニュアンスで言うと「そうだって言ってるだろ!(舌打ち)」と言う様な返答をしたと思ってください。

司法通訳では、対象者がクチから発した事は全て訳す必要があること、さらに検事からニュアンスの確認もあった為、私は彼の舌打ちを、前後の文脈から fuck と訳さざるを得ませんでした。

右田アンドリュー・ミーハン

放送禁止用語

放送禁止用語とは、テレビ局やラジオ局が特定の人を差別する、不快感を与える、卑猥であるなどの理由で、使用を自主規制している言葉の俗称になります。

日本では、電波法に規定されているものを除き、法によって明文化された「放送禁止用語」と言うのは、実はありません。

言論・表現の自由はどこに……「放送禁止用語」の厳しすぎる自主規制(2016-02-06 ORICON NEWS)

「放送禁止用語」とは、テレビやラジオ等のマスメディアで使用が禁止されている言葉のことだが、そもそも法的に禁止されているわけではないので、実際には放送禁止用語というものはない。かつてNHKでは「放送問題用語」としていたが、2008年に事実上廃止。今では「放送注意用語」「放送自粛用語」などとも呼ばれるが、あくまでメディア側、特にマスコミの自主規制であるため、差別的な言葉、暴力的な言葉、卑猥な言葉などの、いわゆる“不適切な言葉”が放送禁止用語となっているようだ。

https://www.oricon.co.jp/news/2066437/full

国によっても、放送で使用してはいけない表現と言うのは異なります。

アメリカでは Federal Communications Commission(連邦通信委員会・FCC)が、時間、場所、状況に応じて、わいせつ / Obscene、下品 / Indecent、または冒瀆的 / Profane な言葉を放送することを制限しています。

Broadcast of Obscenity, Indecency, and Profanity (Federal Communications Commission)

しかし、特定の表現や言葉が「放送禁止用語」としてリスト化されているわけではありません。

放送コードに違反する可能性のある言葉としては、fuck, shit, bitch, goddamm, asshole などが挙げられますが、これらの言葉も、常に禁止されているわけではありません。

1970年代以前に「低俗な放送内容」が問題となり、一律の放送禁止用語とされていた The Seven Dirty Words ; shit, piss, tits, fuck, cunt, cocksucker, motherfucker も、現在はその様な扱いとはなっていないとのこと。

ですので、不適切な表現を使用した発言であっても、時間や場所、状況によっては放送される場合もあります。

なお「不適切な言葉」を意味する英語表現としては、dirty wordsswear words, curse words, cuss words, four letter words / 4 letter words, offensive words 等があります。

また「放送禁止用語」は banned words on air, broadcast prohibited language 等と言うことが出来ます。

通訳者からのTips

法によって明文化された「放送禁止用語」は無いとは言え、日本で放送通訳をする場合「放送法 第4条」を把握しておくことは大事です。

放送法 第二章 放送番組の編集等に関する通則 第4条 国内放送等の放送番組の編集等 では、番組編集について「公安及び善良な風俗を害しない」「政治的に公平である」「報道は事実をまげないでする」「意見が対立している問題については、できるだけ多くの角度から論点を明らかにする」と4つの基本方針を定めています。

最終的な判断は、放送局 または 番組制作を担う人々が判断する事になりますが、通訳者は、この放送法 第4条も踏まえて日本語訳の表現を考えることは大事です。

右田アンドリュー・ミーハン

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