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大谷選手の結婚報道から見えた違い 〜異文化コミュニケーションの視点から〜

ドジャース 大谷翔平選手の結婚発表は大きな話題になりましたが、この結婚報道では「日本とアメリカの違い」が多く見受けられました。そこで今回は 英語表現も幾つか交えながら、この違いを異文化コミュニケーションの視点からご紹介したいと思います。Andy LeungによるPixabayからの画像)

大谷翔平選手の
結婚会見

2024年2月29日、ロサンゼルス・ドジャースのキャンプ地 アリゾナ州グレンデールで行われた大谷翔平選手の取材。

日本の幾つかのメディアは、これを「結婚会見」と報じていました。

「結婚会見」は「結婚をした事についての記者会見」の略語になります。無理やり英訳すれば Press conference regarding getting married.

日本のメディアは、あの様な重大ニュースをソーシャルメディアで発表したし、本人も発表翌日の取材対応を予告していた事から、これは当然「結婚会見」を開くのだろうと思い込んでしまった様で、翌日、球団広報と ちょっとしたトラブルも発生したとのこと。

大谷の結婚公表の裏に…米国では珍しい会見 結婚報道の“温度差”痛感(2024年3月2日 スポニチ / Yahoo Japan News)

まず球団広報から「翔平の会見予定はない。何か変更があれば連絡する」と日本メディアに通達が。(中略)午後1時52分に大谷が水原一平通訳とキャンプ施設に到着。しばらくすると広報が大谷に会見開催の意思を確かめ、同2時15分開始が決まるなど、ドタバタで会見が始まった。

ところが米メディアは打席数や出場間隔の質問からスタートし、結婚の質問もどこかぎこちなく、不慣れな様子。スポーツ専門サイト「ジ・アスレチック」のファビアン・アルダヤ記者は「翔平が特別だけど、通常は結婚した選手がわざわざ会見を開くことはない」とその理由を語る。

https://news.yahoo.co.jp/articles/f23d6a60bf21227efc340d2eac57402db9516fdb

つまり、29日に行われた「会見」は、いわゆる日本的な「結婚会見」ではなく、キャンプにおける通常の「取材会見」とアメリカ(海外)メディアは捉えたようです。

その為、会見冒頭でアメリカ(海外)メディアの記者は、大谷選手に試合の出場に関してや、野球での今季目標等について質問しています。

また結婚についての質問をする際には To ask you about a non-baseball thing と前置きをしていますし、続く質問も「結婚はFA=フリーエージェントによる球団移籍に影響はあったか?」や、「試合シーズンが始まる前の大事ながキャンプのタイミングで注目を集める事はわかっていたのに、なぜこのタイミングで結婚を発表したのか?」と言った野球に関連する形で質問をしています。

アメリカ(海外)メディアの取材に続いて、日本メディアからの質問も行われましたが、コチラは いわゆる日本でよく見る「結婚会見」、つまり「結婚をした事について」がメインの話題になっていました。

「一般人」の英語表現

大谷選手は、アメリカ(海外)メディアからの Congrats on getting married. When did that happen and, sort of, what can you tell about your new wife? (結婚おめでとうございます。いつ結婚されたのですか?また 奥様についてお聞かせください)と言う質問に対して、「日本人の方ですね。入籍日は特に言わないというか、言わなくていいかなと思ってるので。いたって普通の人というか、普通の日本人の人です」と答えています。

大谷選手の通訳者 水原一平氏は、この答えを She is a Japanese woman. I don’t really feel comfortable talking about when I got married exactly and stuff, but she’s a normal Japanese woman. と英訳しました。

この normal は、「普通の生活を送る人」「メディアに囲まれる様な派手な生活をしていない人」を意味しているのが、会話の流れから読み取れます。

因みに BBC は、このくだりを She is Japanese. I don't think I need to announce the date we got married. She is a typical, ordinary person. と訳していました。

また、幾つかのアメリカ(海外)メディアは、 she’s a normal Japanese woman - not celebrity / non-celebrity と、念のために注釈をつけています。

日本では「普通の人」、つまりメディアに出る様な著名人で無い人の事を「一般人」等とよく言います。

コトバンク / 精選版 日本国語大辞典 より

一般人:特別の身分、地位を持たないあたりまえの人。普通人。また、あることに特別の関係がない人。

https://kotobank.jp/word/%E4%B8%80%E8%88%AC%E4%BA%BA-434569

英語で「普通の人 / 一般人」は、前出したメディアの表現 ordinary person / not celebrity / non-celebrity の他に、普通の人(有名ではない人)/ regular person や、その業界に関連する人ではない / ○○ is not in the business または (メディア等の)表舞台に出ている人ではない / ○○ is not in the public eye 等と言う表現を用いて表します。

因みに、一般市民や国民など、特定の枠の中の人々の事は The People / Citizen 等と言う事が多いです。

一般人、庶民、民衆 と言う意味では Common person / people または Commoner と言う表現もありますが、これは王族や貴族、裕福な人が、目下の者に使う「下々の者」と言ったニュアンスも含まれるので、ご注意下さいませ。

日本の報道と
アメリカの報道の違い

東京大学大学院総合文化研究科・教養学部准教授である斎藤幸平氏が、3月3日に出演したテレビ番組で「アメリカでは、大谷選手が結婚について多くを語らない事を奇異に感じている」と指摘した、と、デイリースポーツ紙が報じています。

「サンジャポ」お相手を語らない大谷翔平「アメリカ人からするとおかしい」東大大学院准教授が指摘「ここまで隠すのは…」(2024.03.03 デイリースポーツ)

確かに、日本では相手がメディアに出る様な著名人で無い場合、つまり「一般人」の場合、名前や写真を出さないのは 良くあることですが、アメリカでは結婚した場合、名前も写真も出さないのはちょっと珍しいです。

その為、大谷選手がペットで犬のデコピン / Decoy と一緒の写真を、結婚発表の情報と共に彼のインスタグラムに投稿したので、大谷はデコピンと結婚したのでは?と言うジョーク等も出ています。

斎藤准教授が番組で話したと思われる Los Angels Times のコラム Shohei Ohtani’s marriage announcement felt strange, but not if you know Japanese culture には、確かに the bizarre manner might strike Americans as peculiar と言う表現が使われています。

しかし このコラムは、日本での有名人の結婚報道や、文化の違いについて説明している内容なので、あえて その様な「強め」の表現を使ったのではないでしょうか。

Announcing a marriage on Instagram and holding a news conference on the subject but refusing to share the spouse’s name might strike Americans as peculiar. However, by the standards of Japanese culture — especially Japanese celebrity culture — nothing about this was abnormal.

https://www.latimes.com/sports/dodgers/story/2024-03-01/shohei-ohtani-marriage-announcement-japanese-culture

米紙の解説「大谷翔平の結婚発表は奇妙だが、日本文化を知れば納得する」(2024.3.4 COURRIER JAPON)

※日本語訳記事がCOURRIER JAPON に掲載されたので、追記致しました(会員記事・2024年3月8日)

結婚式をしたのか?
してないのか?

Los Angels Times の別の記事 Who did Shohei Ohtani marry? Dodgers teammates didn’t know he had a wife: ‘Was there a wedding?’ では、チームメイトや監督は突然の結婚報告に驚いてはいるけれど、特別奇妙に感じていたり、不快に感じている訳では無い様子が紹介されています。

とは言え、見出しにも書かれていますが チームメイトは Wedding つまり Wedding ceremony / 結婚式をしたか否かは、気にしている様子。

もし「結婚式」をしていた場合、チームメイトを呼ばないのは「仲間と思っていない=蔑ろにされた」と捉えられる事がありますし、事情があって式に呼ばなかったとしても、お祝いもさせないのは、アメリカでは大変失礼なことに当たるからです。

“Was there a wedding?” third baseman Max Muncy joked when asked about not being invited to the ceremony. “I don’t know if anyone even knows if there was a wedding.”

https://www.latimes.com/sports/story/2024-02-29/shohei-ohtani-announces-married-dodgers

記事を読むと、(挙式をしていた場合)招待されなかったことについて質問をされた チームメイトでドジャースの三塁手マックス・マンシー選手は「結婚式をしたの? 結婚式があったかどうかなんて、誰も知らないよ」と、ジョークで受け流したと書かれています。

またアメリカの老舗スポーツ・メディア Sports Illustrated も Shohei Ohtani’s Wedding Reveal Only Showed the Extreme Secrecy Surrounding His Personal Life と言う見出しで記事を掲載。

「もし、大谷が盛大な結婚式を挙げていたとしても、新しいチームメイトを招待したようには見えない。それはおそらく第一印象を与える最良の方法ではない。しかし スポーツ・イラストレイテッドが調査した選手達の誰もが、招待されなかったことについて『侮辱された』と、正面切って言うことはなかった」と書いています。

Even though Ohtani has deferred 97% of the 10-year, $700 million deal he signed with the Dodgers before this season, he could certainly have afforded a grand affair. If he threw one, he does not appear to have invited any of his new teammates. That is perhaps not the best way to make a first impression, but none of the players surveyed by Sports Illustrated would cop to being insulted at having been left out.

https://www.si.com/mlb/2024/03/01/shohei-ohtani-wedding-wife-secrecy-personal-life

Cop to being insulted は、侮辱されたことを正面切って言う、認める、白状すると言った意味のスラング的表現です。

とは言え、大谷選手は「結婚式」についても、何も公表していないので「招待されなかったのは、侮辱だ」とは言いづらい状況でもありますよね。

日本でも同様ですが、特にアメリカの場合 celebrity / セレブリティ=有名人は派手な結婚式を挙げるのが一般的ですし、そこに招待される事は「仲間」である事の証であったり、名誉な事と思われているので、挙式をしたのか、否か、に強くこだわるのかも知れません。

notorious for being private 

アメリカ(海外)メディアでは、大谷選手は、プライベートを明かさない人としても知られています。

FOX 11 Los Angeles は、彼が移籍先など含めて余り自分について話さないので、ソーシャルメディアでの結婚発表についての報道でも以下の様に書いています。

Ohtani, who is notorious for being private with not only his personal life but also where he wanted to play after the 2023 season, announced on social media just minutes before the clock struck midnight on Wednesday, declaring he is now off the market (off the field).

https://www.foxla.com/sports/shohei-ohtani-announces-he-got-married.amp

Off the market (off the field) が選手の移籍市場と、結婚(独身)市場をかけた表現であることは、前回の本ブログ記事でも紹介した通りです。

ここで注目したいのは notorious for being private with not only his personal life と言う表現です。

まず この表現から読み取れるのは、プライベートについて余り話さないと オープンではない人と言うイメージをアメリカでは与えますが、personal Life / 私生活 について話さないのは批判の対象にはならないと言う事です。

日本でも同じだと思いますが、親しい間柄でも無いのに私生活についてズカズカと踏み込んで質問する事は、アメリカでも失礼にあたりますし、personal life についてオープンにするか、しないかは「その人次第」です。

前出の斎藤准教授は出演したテレビ番組の中で、有名人、例えば テイラー・スウィフトとNFLのスター選手トラヴィス・ケルシーの様な、オープンな交際がアメリカではなじみがあると話していた様ですが、personal life について話さない人や、見せる事を拒否する人、privacy を強く主張する著名人や有名人は、アメリカにも沢山います。

特に、どこでも誰でも情報や写真、映像が瞬時に共有できる、ソーシャルメディアが発達した現代において、自身や家族の privacy を守ろうとするセレブリティは少なくありません。

大谷選手の結婚は private / personal life の話なので、メディアだけでなく、今までチーム関係者にも知らせなかったとしても、悪し様に言われたり、悪印象を与える理由にはなりません。

Private / Personal / Privacy

Private / Personal / Privacy の違いについては、辞書や状況、使う人よって定義が異なる場合もありますが、Cambridge dictionary には以下の様な説明が掲載されています。

private adjective
only for one person or group and not for everyone:

https://dictionary.cambridge.org/dictionary/english/private

この意味から考えると Private は、「個人」及び「家族」や「身内」と言ったグループを形容する言葉と言えます。

personal adjective
relating or belonging to a single or particular person rather than to a group or an organization:

https://dictionary.cambridge.org/dictionary/english/personal

Personal は、グループや組織ではなく 個人や特定の人に関係すること、または属することを表す形容詞とあります。

privacy noun
someone's right to keep their personal matters and relationships secret:

https://dictionary.cambridge.org/dictionary/english/privacy

Privacy は、個人的な事柄や人間関係を秘密にする権利を意味する名詞になります。

つまり Private Personal は 対象範囲が若干異なりますが、ほぼ同じことを形容する言葉になり、これらを守る権利 が Privacy と言う事が出来ます。

notorious for being private
が 意味すること

Notorious は「(何か悪い事、マイナスな事で)よく知られている、有名な」と言った意味を表す言葉になります。

では、なぜ FOX 11 Los Angeles は 大谷選手の事を notorious for being private (悪い意味で)プライベート過ぎることで知られる と書いたのでしょうか?

これは、フリーエージェントによる球団移籍について 大谷選手が何も話さなかったことを意味しています。

大谷選手としては、微妙な交渉事を迂闊にクチにしてトラブルになるのを避ける為に、移籍球団が決定するまで話さなかったのだと思いますが、そんな彼の態度を受けて FOX 11 Los Angels は notorious for being private と表現したのです。

Cambridge dictionaryprivate の項目には、例として A private person does not like to talk about their personal feelings and thoughts と言う文章が載っています。

日本の社会や文化では「個人の考え」を強く主張したり、感情を表すことは、余りよろしくない事とされている部分もありますが、アメリカでは個人の意見や主張、意思をハッキリと表明する事が大事な文化なので、そこが日本とは大きく異なる点です。

また、時に日本人的な謙虚な態度や曖昧な態度が「自分の意思を明確にしない人」= private person と思われる事もあります。

大谷選手が notorious for being private とアメリカ・メディアに言われてしまう所以は、日本とアメリカの社会常識や求められる態度の違い=異文化コミュニケーションの難しさを表している様に思います。

会見や報道での通訳

弊社代表・通訳者の右田アンドリュー・ミーハンは、2024年2月29日 アリゾナ州グレンデールで行われた大谷翔平選手の取材の、日本のテレビ番組用の通訳をおこないました。

放送での通訳と言っても、そのスタイルは本当に様々です。今回は突然の発表 / 取材会見であった為、通訳の依頼は前日の深夜にありました。

依頼が来た時点では、アメリカで行われる取材会見が何時に行われるか、どの様なスタイルでの行われるのか、通訳が同席するか、否かも不明だったため、フレキシブルに対応できる人が必要だった様です。

結局、取材会見は日本時間の午前6時半頃に実施されましたが、大谷選手の通訳者 水原氏も会見に同席されましたし、生中継での放送とはならなかった為、そんなに多くの事柄を通訳する必要はありませんでした。

とは言え、同時配信される映像を見ながらアメリカ(海外)メディアとのやり取りを日本語に訳し、さらに取材会見が実施された現地の時間や、放送に必要と思われる細かい補足情報も同時進行で調べて、それらの情報も加えた日本語訳のレポートを作成し、テレビの番組制作スタッフに渡すと言う作業を行いました。

番組では右田が訳した内容や情報を使用して、アナウンサーが取材会見の様子をレポート。その後のニュース等でも同映像+情報を使い報道された様です。

冒頭にも書きましたが、いわゆる「放送通訳」と呼ばれる通訳は、テレビ局や報道する内容によって対応する事柄が異なります。

日本でも馴染みのある、CNNやBBC、または NHK World News 等 レギュラーのニュース番組での放送通訳は、ルーティーンが決まっていたり、放送前に録画した映像等を見て、日本語に訳したものを話す場合もあります。

しかし、今回の大谷選手の会見等も含む、急を要するニュースの通訳の場合は、突然依頼が来ますし、資料も余りない中、フレキシブルかつスピード重視な対応が求められます。

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