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ASEAN首脳会議 そして トランプ大統領来日 ~通訳者の視点から~

高市首相は 2025年10月26日にはASEAN首脳会議に出席。10月28日には来日したトランプ大統領と日米首脳会議を行うなど、多忙な外交の日々を過ごされています。そこで今回の記事では、高市首相の外交関連のニュースで気になった事や英語表現などについてご紹介したいと思います。

ASEAN首脳会議
高市首相のスピーチ

高市首相は 2025年10月21日 内閣総理大臣就任後、10月24日に「ウクライナに関する有志連合オンライン首脳会合」に出席。10月25日にはASEAN首脳会議に出席する為マレーシアに出発、26日には同会議に参加。

さらに10月27日に来日したアメリカ・トランプ大統領を、10月28日 迎賓館赤坂離宮で出迎え、日米首脳会議を行う等、多忙な外交の日々を過ごされています。

そこで今回の記事では、高市首相の外交関連のニュースから、通訳・翻訳者として気づいた事や英語表現などについてご紹介したいと思います。

高市首相の英語力

2025年10月26日 マレーシア・クアラルンプールで行われたASEAN首脳会議に出席した高市首相が、スピーチ冒頭 約3分間を英語で行った事、また会議の場面以外でも通訳を交わさず他国リーダー達と会話をしている姿が話題となりました。

高市首相 ASEANで外交デビュー 英語でスピーチ、通訳つけず自ら選択(2025年10月27日 スポニチアネックス)

特にネット上では、高市首相の英語力に注目が集まった様です。

さて、高市首相の英語力がどうか?については、様々な考えがあるので、それぞれのご判断にお任せしたいと思いますが、高市首相は外交上ミスが許されない様な、重要な内容については通訳を介してスピーチを行われていること、ご自身による英語でのスピーチは、冒頭の挨拶的な内容のみだった事は今一度申し上げておきたいと思います。

つまり 会議の間のちょっとした会話や挨拶等を、高市首相ご自身が英語で話す事により、相手との心理的距離を縮めると言った外交的な意図や戦略が、英語で話された背景にあったのではないでしょうか?

外交の場では、流暢に話す事や発音の良し悪しだけで、全てを判断する事は出来ません。

日刊スポーツが紹介している、戦場ジャーナリスト 須賀川拓氏による高市首相の英語スピーチに関する投稿には「色々な現場を見てきたけど、言語能力があっても伝わらない人もいる。この、『伝える力』を英語では『delivery』と言います。」といった記述があります。

実は、通訳者がAと言う言語をBと言う言語に訳すことも delivery と言います。

日常生活でも良く耳にする言葉 デリバリー / delivery ですが、物理的に何かを「届ける」だけではない意味もある事や、話をする際の delivery の重要性についても、ぜひ知って頂きたいと思います。

from the Cambridge dictionary

delivery noun
 (OF PACKAGE ETC.)
the act of taking goods, letters, parcels, etc. to people's houses or places of work:

 (GIVING)
the way in which someone speaks in public:

https://dictionary.cambridge.org/dictionary/english/delivery

トランプ米大統領 来日

2025年10月27日 アメリカのトランプ大統領が6年ぶりに来日されました。

皇居・御所にてトランプ大統領と約30分ほど会見された天皇陛下は、通訳ナシで大統領とお話をされたとのこと。また別れ際にトランプ大統領は天皇陛下の事を指さしながら Great man と発言。その後、笑顔で握手を交わされました。

天皇陛下にトランプ大統領「就任後に八つの紛争を解決した」…会見後「グレイトマン」(2025/10/27 読売新聞)

高市首相との
日米首脳会談

翌日 10月28日 迎賓館赤坂離宮で行われた高市首相との日米首脳会談にトランプ大統領は出席。本会議は英日・日英の逐次通訳者を介して行われました。

今回の日米首脳会談の高市首相の通訳は、安倍元総理大臣の通訳を務めた外務省の高尾直・日米地位協定室長が担当しているとのこと。高尾氏は2025年2月と6月に行われた石破総理大臣とトランプ大統領の会談でも、通訳を務めています。

日米首脳会談 (令和7年10月28日 首相官邸)
日米首脳会談 “日米同盟の新たな黄金時代を”(2025年10月28日 NHK ONE)

一方、赤坂離宮の玄関にてトランプ大統領を出迎えた際には、高市首相は通訳を介さずに直接英語で大統領と会話。

それ以外のシーンでも通訳を介さず会話する2人の様子が、The White HouseのYouTubeチャンネルの動画や、トランプ大統領の訪日の様子を伝えるメディア等の映像にて確認する事が出来ます。

先程も書きましたが、重要な内容・ミスがあってはならない会議等に関しては通訳を介してやり取りをし、ちょっとした会話や挨拶等については、相手との心理的距離を縮める為にも英語で直接話し、コミュニケーションを図ると言った外交的な意図が、高市首相にはあるのかも知れません。

それを踏まえて考えた場合、高市首相の英語力を単純に、流暢に話す事や発音の良し悪しだけで判断する事は出来ません。外交の場と言うのは、言語の背後に様々な意図が隠されているのです。

なお、トランプ大統領と共にアメリカ軍横須賀基地を視察した、高市首相が行ったスピーチは、日英逐次通訳者によって英訳されました。

通訳者からのTips

約6年ぶりのトランプ大統領 来日、そして日本で行われた日米首脳会議。

テレビや新聞などのマスメディア各社は、取材はもちろんの事、トランプ大統領等の発言を訳す為の通訳者や翻訳者の手配でもバタバタしていました。

この様な国際会議は、警備などの事もあり、詳細なスケジュールがギリギリまで知らされないので、皆さん大変です。

10月28日に行われた日米首脳会議の、テレビ局での同時通訳を、私も少しだけさせて頂きましたが、事前にもらった担当者からのメッセージには「会見の実施の有無や細かい時間は分かっていないので、もしかすると、来て頂いても稼働がない可能性もあります」と書かれていました。

この様に、呼ばれて現場に行っても仕事が発生しないケースも、通訳者はあります。

因みにトランプ大統領は Great と言う表現がお好きな様で、天皇陛下の事を Great man と称したり、故 安倍元首相の事を Great friend of mine と呼んだりしていました。

Great は人を称賛するさいの形容詞としても使われますが、英和辞書で調べると、人を称賛する場合の意味としては「偉大な」や「卓越した」と言った言葉が紹介されています。

しかしトランプ大統領の場合は、コンテクストにもよりますが、使用頻度や口調から推察するに「素晴らしい、とてもいい」くらいのニュアンスで使っていることも多い様です。

その「人」が使う頻度、口調等によって、言葉のニュアンスは変わります。その辺りの見極めも通訳、特に外交などの交渉の場での通訳では大事です。

右田アンドリュー・ミーハン

日米首脳会議で
使われた英語表現

建国
250周年記念

日米首脳会議の冒頭で高市首相が言及していた、来年2026年に迎えるアメリカ建国250周年。

日本からもワシントンDCに桜に木を250本寄付、さらに建国記念日の7月4日には秋田で作られた花火も打ち上げられる等、共に盛大にお祝いすると高市首相は話していました。

この時、高市首相の日米通訳者(外務省 高尾直・日米地位協定室長)は、建国250周年記念の事をどの様に英語で表現していたか、聞き取れましたでしょうか?

答えは The Semi-Quincentennial Anniversary になります。

Quincentenary / Quincentennial は500年を意味しますが、Semi-Quincentennial は500年の半分、 The Semi-Quincentennial Anniversary は、250周年記念となります。

from Collins Dictionary

quincentenary
in American English

noun
1. a 500th anniversary or its celebration

adjective
2. pertaining to or marking a period of 500 years; quincentennial

quincentennial
in American English

adjective
pertaining to or marking a period of 500 years

https://www.collinsdictionary.com/dictionary/english/quincentennial

もちろん、2026年に迎える建国250周年は America 250 / America’s 250th anniversary と言ったシンプルな表現もアメリカでは使われています。

America 250 Website
https://america250.org/

Bilateral Meeting

外務省などの英語表記等では、日米首脳会議は Japan-U.S. Summit Meeting と表現。今回の高市首相とトランプ大統領との日米首脳会議も、首相官邸Website・英語版では Japan-U.S. Summit Meeting と書かれています。

因みに Summit は山の頂上を意味しますが、この場合はそれぞれの国のリーダーを意味します。

※政治における Summit の表現に関するアレコレは、2023年5月に開催されたG7 広島サミット(第49回先進国首脳会議)に関するブログ記事にて紹介しました。

しかし、今回の高市首相とトランプ大統領の会談の様子を収めた The White House YouTube チャンネル の動画タイトルは President Trump Participates in an Extended Bilateral Meeting with the Prime Minister of Japan となっていました。

Extended Bilateral Meeting とは一体どの様な意味なのでしょうか? まずは Bilateral の意味を調べてみました。

from the Cambridge dictionary

bilateral adjective
involving two groups or countries:

https://dictionary.cambridge.org/dictionary/english/bilateral

つまり Bilateral Meeting は「二国間会議」を意味し、首脳同士による会議等でもよく使われる表現でもあります。

ここで気になるのが Extended の意味です。

Extended は、一般的に「延長」や「通常より長い」と言った意味で使われることが多い英語表現ですが、この場合は、相手つまり日本を重要視している事をアピールする為に「通常より時間をかけた 二国間会議」an Extended Bilateral Meeting としたのだと思われます。

因みに Bilateral の発音はアメリカ英語とイギリス英語でだいぶ異なります。ご興味のある方は、ぜひチェックしてみて下さいませ。

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